7話
しばらく時間がたった後、琉太がみんなに集合をかける。拠点が決まったのはいい。しかし、これからの具体的な計画がないと、何が起こるかわからない。
「さて、これから何をするべきか…」
「雨風をしのげる住居を造りつつ、周辺に何があるか探索するって感じ?」
「探索なら、私が行くよ」
葉月が自ら名乗りを上げる。
「あっ、俺も同行していい?」
葉月とともに名乗りを上げたのは、司馬一鉄。木材、金属、プラスチックなど、あらゆるものの加工を得意としている。葉月の幼い頃からの知り合いでもある。
「え〜、一鉄と一緒?」
「別にいいでしょ。辺りに使えそうな石材とか木材がないか、見たいんだよ」
「喧嘩するな。じゃあ、探索は二人に任せたぞ」
琉太は二人を軽く仲裁すると、次の議題に移る。
「住居の建設を担当してもらうのは…まぁ桜花だな」
「おっウチ?琉太くんも分かってるね!」
七瀬桜花。土木工事や建築を専門にしており、建築士の資格を持つ。学校にいたときには、建築デザイナーとして、腕をふるっていた。また、素直で明るい性格である。
「建築をやるのはいいけどさー、アーロンに手伝ってほしいんだよね」
「なんで僕…?」
「一応、林業も専門分野でしょ。力をなくはないし」
「川で魚捕りたいんだけど…」
二人のやり取りを見て、向日葵の心に疑問が宿る。
「アーロンくんってさ、エリーちゃんと桜花ちゃんの頼みだけは断ることがあるよね」
「それだけ距離が近いってことなんじゃない?」
功の解釈を聞いても、向日葵の疑問は消えない。
「私のときは、なんか必死だったのに」
一方、桜花とアーロンのやり取りはまだ続いており、徐々にアーロンのイカれたレディーファーストが展開されつつあった。
「普段ほとんど仕事してないんだから、たまには手伝ってよ」
「いちいち棘があるな…。まぁ女の子が困ってるなら、ほっとけないか!」
「やめて、キモい」
桜花の容赦ない一撃に、アーロンはそっぽを向いて体操座りでうずくまった。そんな情けない背中を、エリーがぽんぽんと優しく叩く。
「大丈夫、こういう日もあるわよ」
一悶着あったものの、これで大体の役割は決まった。琉太はほっと一息ついた。
夕暮れまで少し時があるため、天才たちはそれぞれの行動に出る。向日葵と功はやることがなかったため、向日葵は葉月、功は桜花たちと行動をともにする。
「葉月ちゃん。これからどこに行くの?」
「山の斜面に沿って、少し散策するよ」
「なんか見つかるかな…」
「うーん、どうだろ」
そんな小話をしていると、向日葵たちの前に藪が立ちはだかった。藪にはトゲも混じっており、このままでは怪我をしてしまいそうだ。
「おっ、俺の道具の出番だね」
一鉄はポケットからナイフを取り出した。ナイフには使い古した跡がある。
「一鉄…そんなのどこで拾ったの?」
「木材の加工でどうしても必要でね。先生に許可をもらって、教室においておいたんだ」
「危ないなぁ…」
一鉄は藪を次から次へと切り開き、先へと進む。葉月たちは呆れながら後を追う。
「これで藪は終わりかな」
藪を抜けた先には、山の斜面に沿って、獣道が出現していた。今までなかったのに。そして、一鉄はその獣道の先に、キラキラ光る黒い物体を見つける。
「なんだこれ?」
その物体は矢じりのように尖っており、先をさわれば手が簡単に切れてしまいそうである。
「これ…黒曜石だ」
黒い物体を観察する一鉄に、葉月たちが追いつく。
「はぁはぁ。早いって…一鉄」
「ごめんよ」
「私は大丈夫だけど…」
葉月は息切れしているものの、向日葵はピンピンしている。
「ん?なんか見つけたの?」
「これ。たぶん黒曜石」
一鉄は葉月に黒い物体を見せる。その黒い輝きを見て、葉月は確信する。
「確かに…これ黒曜石だね」
「なに?コクヨウセキって?」
向日葵には意味が理解できていないようだ。
「火山の中で作られる岩石の一つだよ。割ると鋭くなるから、昔は石器として使われたんだよ」
「ふーん」
向日葵はあまり興味がなさそうだ。
「それより葉月。形に注目してみて」
「…なんかやけに尖ってるね。誰か割ったのかな」
「うん。この地には人間がいる可能性が高いね」
葉月は嬉しいような、不安であるような、不思議な気持ちになった。だが、向日葵はやはり理解できていないようで、ぽかんとしていた。