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グットボンドへ  作者: 魔界人EM
二人の少年編(六章)
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65話 魔法の金属

 4月。それまで森の中に積もっていた雪が溶け、日が長くなった。朝は少し肌寒いものの、昼過ぎには心地よい風が肌をくすぐる。前の世界と同じで花粉は飛びまくっているが、過ごしやすい季節がやってきた。

 長らく蛍二にドクターストップをかけられていた隆之介も、本格的に訓練に励めるようになった。

 念入りな健康診断を受けた翌日の明け方、隆之介はいつもよりも早めにホマレ荘で準備を始めた。千代子にお願いして朝食を作ってもらい、その間に今日のメニューを考える。素振りで太刀筋を直してもいいし、出力を上げるために筋トレを行ってもいい。そんなことを考えると、思わず口角が上がってしまう。

 ボリュームたっぷりな朝食を平らげ、いざ稽古場に行こうとすると、階段から降りてきた一鉄に呼び止められた。

「隆之介、ちょっといいかい?遅くなったけど、退院祝いを渡したくって」

「退院祝い?撫子にでも渡してやってくれ」

 隆之介は早く稽古場に行きたくてたまらなかった。

「だめだよ。新しい武器なんだから」

「新しい武器!本当か?」

「実はもうみんなには使ってもらってるんだけど、そういう話は聞いてない?」

「いや、特にねぇな」

 一鉄は安堵したように息を吐く。「向日葵ちゃんあたりが漏らしちゃうかと思ったけど、杞憂だったね」

「早く言ってくれても良かったような気がするが……」隆之介はなんとなく自分だけ仲間はずれにされたような気分になった。

「隆之介が訓練できるようになるタイミングに合わせたかったのさ。なにより、サプライズは溜めておいたほうが感動するでしょ?」

「それもそうか。早速案内してくれ」

 一鉄はにっこり笑顔で頷いた。

 案内されたのは村の外れにある製鉄所だった。もともとはたたら製鉄を行う小さな工場だったが、一鉄と桜花が主体となり、より大規模に改築された。建物内には一鉄が日常的に使っている鍛冶場がある。以前入ったのは両手剣が刃毀れしたときで、それからというもの通り過ぎることはあっても、わざわざ立ち寄ることはなかった。

 鍛冶場の中にお邪魔すると、やや紫色の光を帯びた二本の剣が、赤い布の上に並べられていた。隆之介も「ワープ」の呪文を会得したからわかる。この剣からは並々ならぬ魔力を感じる。

「これが隆之介の新しい剣。早速持ってみて」

 隆之介はいっしょに戦を乗り越えてきた2本の剣を地面に優しく置き、新しい武器を手に取った。

 従来のものと比較して、ずっしり重く、振り回したり攻撃を躱したりするのに苦労しそうである。ただその分、課題だったパワーは飛躍的に上がりそうだ。この重さは一長一短といったところか。

「その剣には『マジックニウム』が混ぜられている」

「マジックニウム?」

「平一郎が以前鉱山で見つけてきた、俺達の世界にはない金属でね。大量の魔力から結晶構造が形作られているらしい。それ単体では脆く、すぐに酸化し、安定性が低い物質だけど、他の金属と混ぜて合金にすることで、高い能力を発揮する。俺達が来る前から認知はされていたみたいだけど、合金にするっていう発想には至らなかったんだって」

「なるほどな」

「あと、『高い能力』ってのは何も硬度や質量だけの話じゃないよ。これから稽古場に行こうか」

 一鉄は今までの研究の成果を発表したくてたまらないようで、隆之介が返事をするよりも早く、外へ出てしまった。隆之介は急いで剣を鞘に納め、その場をあとにした。

 製鉄所と稽古場はまさに真反対の位置に存在し、その距離は一キロ以上ある。隆之介が息を切らしながら反対側に到着すると、一鉄が不機嫌そうに口を開く。

「遅いよ!」

「いや、こっち病み上がりなんだけど……」

 一鉄が怒りのままに木製の引き戸を開けると、壁にぶつかった瞬間にその一部が木片となって欠けた。相変わらずの超人的なパワーを直視して、怒らせてはいけないと背筋を冷やす。

「あっ来たんだ!」

 隆之介の姿が見えた途端、休憩中の向日葵が駆け寄って来た。あろうことか、向日葵はそのままハグをした。赤面を我慢しながら奥を見ると、弓を抱えた葉月が気まずそうにそっぽを向いている。

 幼馴染だろうがなんだろうが、向日葵だって年頃の女の子だ。もう中学3年生になる。本人は自覚していないのだろうが、周りの視線というものもある。隆之介は胸に顔を埋める向日葵の首根っこを掴み、そのまま功の隣に放り投げた。

「なにするの!」向日葵は受け身を取り、八重歯をむき出しにして叫ぶ。

「別に。ただムカついただけだ」

 隆之介は撫子がこの場にいなくてよかったと心の底から思った。

 ほっぺたをふくらませる向日葵の背中を、功が優しく撫でる。「そうだよ。心配したのは同情するけど、いきなり抱きついたら古傷に触れるかもよ」

「そっか!ごめんね、隆之介」向日葵はペコリと頭を下げた。

 そういうことじゃないんだな。

 その時、向日葵があることに気づき、あっと声を上げた。

「それ、新しい武器でしょ!やっともらったんだね」

「あぁ。一鉄のおかげだ。お前らはいつもらったんだ?」

 向日葵と功が互いに顔を見合わせる。「隆之介が寝ていたときだから……一ヶ月くらい前かな?」

「なんか変化はあったのか?」

「いや。二人は魔力を使わないし、物理主体の戦闘スタイルから考えた結果、武器としての性能を上げる方針にしたんだ。硬度を上げたのと、より身軽に動くためにアルミを混ぜて軽量化したよ」一鉄が早口で言った。

「俺とは逆なんだな」

「隆之介はどっしり構えて戦うことが多いと思ったから」一鉄は笑みを浮かべた。

「あっ、葉月ちゃんの武器おもしろいよ!」向日葵が思い出したかのように言う。「ちょっとやってみてよ」

 葉月がOKと呟くと、それまで弓の形状をしていた鋼の武器が、金属音を立てながら一瞬で2本の棒に分かれた。弓と同じく湾曲しており、根本には持ち手がついている。よく見ると、鳥打ちと呼ばれる持ち手の上下の部分に、鋭い刃がついているではないか。

「見て見て!すごいでしょ!」

「あぁ。見事だ」

 この仕組みを作り出した一鉄を尊敬するとともに、長い武器を我が物のように扱う葉月も、素直にすごいと思った。

「葉月は弓と呪文主体で戦うから、近接戦が弱点。弱点という言葉で済まされればいいけど、実践で懐に潜られたら致命傷になる。だから、いくらか対応できるように形状変化をつけてみたんだ」

「魔力を込めることで形が変わるんだって!」功が興奮しながら言う。

「でもこれ結構重いんだよ。持ってるだけでも腕が疲れちゃう。一鉄、なんとかできない?」

「葉月の場合、弓としてのしなやかさも両立させなくちゃいけないからね。この辺は今後の研究次第かな」

 隆之介は剣の一本を鞘から抜いた。一鉄は一人一人の性格を顧みて武器を製作している。その柔軟さには頭が上がらない。

「一鉄。この仕掛けって全部、お前が発見したのか?」

「まさか。古文書を参考にしたんだ」

「古文書って……だいぶ前に鉱山の部屋で見つかったってやつ?」

「うん。琉太とロペスくんが頑張って解読してくれてね。神族のみんなも知らなかったことだらけでびっくりしたんだって」

 まさかここで二人の名前が出てくるとは……。自分が寝ている間にも、クラスとしての絆は強くなっていたようだ。そう考えると、やはり自分は出遅れているように感じる。

「みんな色々努力してるんだな—」

「もしかして、一人だけ長く休憩しちゃって申し訳ないって思ってる?」向日葵が隆之介の目を見て言った。

 向日葵という少女は幼いせいか、たまにものすごく聡い時がある。隆之介は思わずビクリと体を震わせる。

「やっぱり!隆之介もまだまだ子供だねー」(このとき、本当にぶん殴りたくなった)「だけどまぁ、サパコスと戦って、生きて帰ってきただけでも、私は十分だと思う」

「そうかよっ」ぶっきらぼうに返事を送る。ただ、少しだけ心が軽くなった。

「それに、後ろめたい気持ちがあるんなら……これでしょ!」

 向日葵はいつの間にか淡い紫色の光を帯びた小手を身に着けていた。向日葵も屈指の戦闘狂だ。この合図はそういうことだろう。

「……いいぜ。受けて立ってやるよ」

 隆之介は靴を脱いで、向日葵の反対側に立つ。

 互いに武器を構えようとするが、ここであることに気づく。

「流石に真剣でやるのは怖えんだけど」

 その呟きに、一鉄はにっかりと笑って反応する。

「そんなこともあろうかと……こんな物を作りました!」

 一鉄はかべに立てかけてあった木刀を投げて渡す。

「その木刀は、マジックニウムで作られた剣とグラム単位で質量を合致させてある。訓練にもなるし、何より怪我のリスクが低いんだ!」

「……ありがとな」

 冷静だが情熱的な笑顔を見て、功と葉月はようやくいつもの隆之介に戻ったと確信した。

「幼馴染だろうが関係ねぇ。勝たせてもらうぜ」

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