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グットボンドへ  作者: 魔界人EM
異世界編(二章)
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6話

 一夜明け、琉太を先頭に、向日葵たちは再び歩き出した。功は最後列で、隆之介におんぶされながら移動している。

「功、怪我の様子は?」

「昨日よりは痛みが引いたと思う。でも、あんまり激しく動かすと痛い」

隆之介が功に声をかける。隆之介も、昨夜の事件に責任を感じているらしい。

「そういえば、隆之介。昨日なかなか眠れなかったってアーロンくんから聞いたよ。大丈夫?」

「あぁ、この程度。朝飯前だ」

平然と答える隆之介。その表情はいつもと同じだが、隆之介は昨夜のことを思い出していた。

 昨夜、隆之介はなかなか寝付くことができなかった。いくら目を瞑っても、いくら呼吸を整えても、意識が消える様子はなかった。寝ようとしても、頭の中で、オオカミに襲われる功の情景が浮かんでくるのだ。隆之介の責任感は、人一倍強かった。

 昨夜のことを思い出す隆之介に、横から向日葵が『どうかした?』と声をかける。しかし、隆之介は反応しない。向日葵は無視されたと思い込んだのか、

「よーし!」

隆之介のほっぺたを、ジャンプして突いた。

「おい!向日葵、何すんだ!」

「だってー、隆之介が反応しないんだもん」

やがて、二人は口論に発展する。それを撫子や功が仲裁するのがいつもの流れだ。今日は功が動けないため、撫子が間に入る。

「まぁまぁ。隆之介もボケっとしてると危ないよ」

「そうだよ!」

「向日葵は黙ってろ」

功は背中で口論の様子をじっと見ていた。昨夜の事件をものともせず、元気に活動する向日葵を見ると、功はくすっと笑った。そして、一人心のなかで安心する。向日葵に影響がなくて良かった、と。

 半日ほど歩くと、みんなの顔に疲れが見え始める。隆之介と向日葵は、口論しながら歩いたためか、特に疲れが大きい。功は隆之介の背中で寝ている。

「もう歩きたくないよぉ。撫子、おんぶして〜」

「えぇ…私も疲れたよ」

向日葵のいつものわがままが始まる。昨日は功がおんぶしたが、今日はそうもいかない。

「困ったな…俺もふたり一気に持つのは無理だ」

隆之介もお手上げ状態。そんな状況の中、本来前の方にいるはずのアーロンが、突如姿を現した。

「女の子のピンチにさっそうと登場!クラス一の二枚目、アーロンだぜ!」

エリーは近くにいない。そのため、いつもの鬱憤を晴らすが如く、調子のいい声を張り上げる。

「二枚目半だろ」

「三枚目じゃない?」

「うぅ…。二人とも、厳しいね」

「なんで来たんだ?」

アーロンは調子を戻し、声を張り上げる。

「そりゃあもちろん、向日葵ちゃんを助けるためさ」

「向日葵の声に反応して、ここに来たのか…」

向日葵が疲労を訴える前、アーロンは列のかなり前の方にいたはず。当然、向日葵の声など聞こえるはずがない。

「いやぁー、何か耳に入ってきちゃったんだよね。『もう歩きたくないよぉ』って声が!」

「こいつやべぇ…」

隆之介はドン引きする。そんな隆之介を無視して、アーロンは向日葵の前で、背中を見せて跪く。

「さぁ向日葵ちゃん。乗りなよ。乗り心地は保証するよ?」

「…なんかやだ」

向日葵がつぶやいた瞬間、アーロンはその場で血反吐を勢いよく吐いて倒れた。

「アーロンくん!?」

撫子がアーロンにかけより、軽く揺さぶる。アーロンはピクピクと痙攣している。

「大丈夫?」

「…僕の心にクリティカルヒット…」

そのまま、アーロンの意識はぽっくりと消えた。撫子は呆れた表情で、ため息をつく。

「ここにいましたか」

「エリーちゃん。アーロンくん任せていい?」

「はい。迷惑かけて、申し訳ありません。あとでしっかり叱っておきます」

エリーはアーロンの片腕を持つと、そのまま引きずって列の前の方へと向かった。

「私、変なこと言っちゃったかな?」

「気にすんな」

向日葵は自分で歩かなければならないことに気づき、モヤモヤした気持ちになった。

 この後、向日葵たちは順調に歩みを進め、その日の夜を迎えた頃には、約十キロ歩くことができていた。そして、翌日も同じペースで歩き続け、半日が経った。

「着いたな」

「そうだね」

琉太を中心とした2年A組の面々は、無事に川の上流へ到着することができた。隆太の眼の前には、大きな滝があり、右側には教室の二倍ぐらいの広場がある。

「へぇー。なんか綺麗なところだな」

後続の隆之介たちも、琉太に追いつく。

「とりあえず、広場で休憩するか」

琉太が指示を出すと、向日葵たちは一斉に広場へと駆け出した。広場にはクローバーやヨモギなどが生えており、それはまるでクッションのようだ。

「はぁ~疲れた」

「しばらくはここで滞在だな」

「隆之介、ずっと向日葵おんぶしてたけど、大丈夫なの?」

撫子は隆之介の腕にそっと触れ、問いを投げる。

「…もうしばらくはおんぶしたくねぇな」

隆之介の返答に、撫子はくすっと笑った。二人は、向日葵と功の方に視線を向ける。

「功見て!四つ葉のクローバー見つけた!」

「ほんと!?いいなぁ」

先日の喧嘩を忘れさせてしまうほど、二人のやり取りは本当に微笑ましいものだ。隆之介は笑みを浮かべながらも、ため息をつく。

「まったく、あのお気楽さが羨ましいぜ」

「それって皮肉?」

「違ぇよ。バーカ」

「なーにー!」

撫子はほっぺをぷくっと膨らませた。隆之介はその顔をじっと見つめる。そして、隆之介も撫子も、くすっと笑ってしまい、そのまま大きな声で笑った。

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