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グットボンドへ  作者: 魔界人EM
二人の少年編(六章)
57/70

57話 拝啓―この手紙

 川の畔でひとり、琉太は一切れの紙を握りしめて正座をしていた。

 ことの発端はつい先日。ダージェが神の都を去るのを見つめ、アシナヅチに光の扉まで送ってもらい、そのままホマレ荘に帰宅した。玄関で千代子に風呂に入るよう言われたが、まだ仕事が残っているからと断り、自分の部屋へと階段を登った。

 夜空に輝く星を満喫しながらドアノブを引くと、ドアの間に挟まっていた白い紙が床にはらりと落ちた。半分に折られ、内容が見えないようになっていた。

 琉太は黙って拾い、部屋のデスクと椅子に体重を預けた。

 紙を開くのに意味を感じなかった。というより、開く気力がわかなかった。ダージェのために寝る時間を削って古文書を解読し、さらにアシナヅチとダージェとの対談について何回も打ち合わせをしていたのだ。スケジュールを詰めたことに後悔はなかった。だが心身というのは正直なもので、いつしか日課となっていた古文書の解読以外は、手を付けられなかった。

 数時間が経過し、やがて作業に飽きてくると、琉太は紙切れに手を伸ばした。あくびをしながら、内容を確認してみる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


琉太へ


 急なお願いとなって申し訳ないが、明日の早朝に村の近くの川に来てほしい。ほ

ら、アーロンがよく魚釣りをしているところだ。目的についてはこの手紙では教え

られない。ちょっと気恥ずかしい内容だからね。


                               ゴリベアより


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 重要な手紙だったらどうしようと開く直前に冷や汗が流れたが、杞憂に終わった。

 ゴリベアは割と真面目な方だが、クライゼルほど堅物でもない。ジョークを言うこともあるし、昔話も良くしてくれる。そして、村の魔族の一人一人の性格を把握し、その人達に元気がないようであればいつも相談に来る。緊張感のある村の中でも、感受性が豊かなのだ。

 琉太は手紙をもう一度読み返し、くすっと笑った。普段からいろいろな相談を受け、戦闘についてもいろいろ教わっている。わざわざ手紙で事前に知らせるようなことなどないはずだが、まさか恋の相談でもしようというのか。

 なぜ俺に話すのか……と疑問を呈しつつ、その日は夜ご飯を食べ、歯磨きとお風呂を済ませて早々に寝床についた。

 翌日、早めに起き、パジャマからローブに着替えて、共有スペースへと階段を下った。まだ日は昇っていなかったのにもかかわらず、千代子はもう朝の支度をしていた。

 軽く会話を交わし、机の上に並べられた白米、味噌汁、納豆を黙々と食べた。いつもなら向日葵たちとワイワイガヤガヤ、騒がしく食事をしているものだが、千代子と二人きりだと少し気まずかった。

 食器を台所に戻し、玄関のドアを開こうとすると、千代子に「待って!」と言われた。

「どこに行くんだい?こんな朝早くに出るなんて、普通じゃないよ。まだ真っ暗だし」

「ゴリベアさんに呼ばれているんだ。早朝に来いってお願いだし、遅れるよりかは早めに行ったほうがいいだろう?」

 千代子は「そう……」とだけ呟いて、じっとこちらを見つめていた。

 そして現在、琉太はホマレ荘からまっすぐ川のほとりに向かい、ゴリベアを待ち続けていた。朝日が昇ってから数時間経過している。だが待てど待てど、やってくる気配は微塵も感じない。

 ゴリベアの性格は誠実さが光っているものの、焦るとおっちょこちょいになる一面もある。大雑把な部分もあり、完璧主義のクライゼルとはまた違った雰囲気がある。

 本来、村に住まわせてもらっている自分がゴリベアのことを心配するなどおこがましいことだが、胸中には漠然とした不安がある。無論、根拠などない。なんとなく嫌な予感がする。それだけのことだ。

 その時、背後の森林からガサゴソと音がした。琉太は深い溜息をつきながら振り返る。

「やっと来ましたか……。ってなんでお前がここに?」

「それはこっちのセリフだ、馬鹿野郎」

 そこにいたのは分厚い毛に身を包んだゴリベアではなく、両腰に刀を携えた隆之介だった。

 こいつが来るなんて……何も聞いてない。ただの伝達ミスか?

「隆之介、もしかしてお前も手紙をもらったのか?」

「なんでわかったんだ?」龍之介はポケットからくしゃくしゃになった紙切れを出し、琉太に渡す。

 紙切れにはたくさんの文字が書いてあって、人目で手紙だとわかった。差出人はゴリベア、受取人は隆之介。それ以外は一字一句同じ内容だった。

 琉太は強烈な違和感を覚えた。ゴリベアは村の魔族一人一人の性格を把握している。それは自分たちにとっても同じこと。走り書きならまだしも、わりかし丁寧な字で全く同じ文言の手紙を送ってくるはずがない。

 だとしたら、この手紙を書いたのはゴリベアの名を語った誰か。いったい誰なんだ?魔族たちのイタズラともとれなくないが、あいにく神の都と村の空気は軍団長と交戦したことで緊張しきっている。こんなくだらないことをする魔族や親族がどこにいるのだろう?

 くそっ!どれだけ過去を振り返っても全貌が見えてこない。

 待てよ。可能性が一つだけある。極めて低いし、ありえないと信じたい。しかし、こう考えないと辻褄が合わない。

 琉太が渡された手紙を握りしめながら、隆之介の顔を凝視する。「詳しい話はあとだ。さっさとこの場を離れるぞ」

 もちろん隆之介は反発する。「はぁ?お前何言って……」

「いいから早く!このふたつの手紙を見ればわかる」琉太が自身の手紙を見せつける。「一字一句がこれほどまでに一致しているのは、明らかにおかしい。これはそもそもゴリベアさんの手によって書かれた手紙じゃない!誰がどうやってやったのか分からない……。だが、これは俺達を一箇所に集めるための罠なのだ。そうとしか考えられない!」

 琉太は腹から声を出し、説得を試みる。たぶん、この世界に来てから一番響いた。

「そういうことなら……。さっさと帰るしかねえな」

 隆之介は琉太の手紙を取り上げ、2つまとめてバラバラにし、川に投げ捨てた。

 敵に見つからないよう、どこから逃げようか琉太は頭の中で思案する。

 突然、隆之介の叫び声とともに、自分の体が突き飛ばされた。ひつじいとの戦いが脳内を駆け巡り、瞬発的に受け身を取る。

 隆之介の右肩はバッサリ切られていた。飛び道具か何かだろう。力はまだ入りそうだが、右腕がブルブルと震えている。

 琉太は隆之介に命を救われた。

「この一瞬で判断し、友を救うなんて……泣かせてくれるねぇ」

 森の影からこちらへゆっくり歩んでくる一人の男。その顔に涙など微塵も見えない。代わりに飛び込んでくるのは、悪魔のような笑顔。

「サパコス……。この野郎!」

 半魔半神軍団長サパコス。神の都を裏切り、魔神軍についたこの男は、あの偲やエリーでさえも歯が立たなかったと聞く。

 獰猛な野獣のような吐息。筋骨隆々のからだ。片手に持ったナイフ。腰にかかった円形状の武器。そのすべてが、軍団長としての強さを醸し出している。

「手紙の真意に気づいたのは良かった。だが、逃げる判断が遅かったなぁ」サパコスはこちらを馬鹿にするように、ニヤニヤと笑う。

 普通なら隙だらけ……。だが、琉太からは汗が吹き出る。

「関係ねぇ。今ここでお前を倒せば、結果オーライだ。ちょうどリベンジしたかったしな」

 隆之介は血を吐きながらも、日本刀の切っ先をサパコスへと向ける。その手は震えているが、表情は引き締まっている。

「いいねぇ!その勇気!それが盛大な勘違いってことを分からせてあげるよ!」

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