51話 掴め!真相!
その知らせは瞬く間に村中を駆け巡り、ヴィラージュやクライゼルに大きな衝撃を与えた。特にリマンは傷を癒やすという役柄、フレルと関わる機会が多かったので、暗殺の事実を知った途端、ほろりと涙を流した。
フレルの亡骸はすぐに回収され、神の都で眠っている夫のとなりに埋葬された。その翌日には、ホマレ荘で、ヴィラージュたち魔族と神族代表ヌーラス、向日葵を始めとしたクラス全員が一堂に会する事となった。
集合が完了しても、向日葵たちはしばらく言葉を発さなかった。全員がうつむきながら、沈黙が流れる。静かな場所が苦手な向日葵も、この時だけは何も喋りたくなかった。フレルは神の都に遊びに行くたびに、話し相手になってくれた。キレ性の隆之介とは違い、優しく、分かりやすく勉強を教えてくれた。そのことを思い出すと、胸の奥が締め付けられる。「フレル」という名前を聞いただけで、涙がこぼれてしまいそうだ。
「黙っていては何も始まりませんよ。とっとと犯人を見つけましょう」
口火を切ったのは、悠玄だった。テーブルの上で腕を組んでいる。ほとんどが沈んだ表情を浮かべる中、普段と同じ厳しげな顔だ。だが、よく見ると、目の下にクマがある。
「そうじゃな―悠玄の言うとおりじゃ。わしらがフレル殿にしてあげられることは、一刻も早く真相を掴み、敵を討ってやることじゃ」ヴィラージュが言った。
「―ヌーラスさん。フレルさんはどのように見つかったのですか?」クライゼルが聞いた。
「一昨日、フレルはいつものように診療所を訪れ、魔族の方々の治療を行っていました。そのことは私も把握していたので、フレルは日が落ちる前に戻ってくると思っていました。だけど、その日は明らかに遅かった。日が沈み、月が登っても、神の都に帰ってきませんでした。違和感を感じた私は、兵隊達を起こし、光の扉をくぐりました」
「わしはその時席を外していたからのう。ヌーラス殿が来訪したことに気付かなんだ」ヴィラージュが申し訳なさそうに言った。
「辺りを捜索したところ、村の外れ―ちょうどここから30分ぐらいのところで、フレルが横たわっているのを発見しました。胸は斜めに裂かれ、呼吸は止まっており、すでに冷たくなっていました。加えて、犯人のヒントになりそうなものは見つからず……」
「殺されてから時間が経っていたのですね」琉太が言った。
「フレル殿は診療所を出たあと、特に寄り道もせずにまっすぐ帰路についていたはずじゃ。加えて光の扉は村の中心部にある。なぜ森の深いところで倒れていたのか、甚だ疑問じゃな」
「拉致されたということは考えられませんか?魔神軍の奴らからしたら、暗殺がバレるのはできるだけ避けたいはず。いくら村の兵力が下がっているとはいえ、わざわざ目の届くところで殺して、無駄なリスクを抱える必要もない。それなら遠くで殺して、発見を遅らせるのが好都合でしょう」
「しかし、相当な早業ですよ。敵の本拠地で息を潜めて隠れ、森の奥深くまで大人の女性を運び、証拠が一切残らないように殺す。フレルさんがすでに冷たくなっていたことを考慮すると、この作業を数十分で行わなければならない。そんなことができるのはあいつらだけですね……」クライゼルが顎に手を伸ばしながら言った。
「それって……どいつですか?」琉太がつばを飲み込んだ。
「暗影騎団。ヴィレッサムが率いる魔神軍の部隊じゃ。奴らは闇に潜み、魔神の指示の下、神族の要人を消していく。任務を段取りよくこなすため、移動スピードもトップクラス。フレルを拉致したという点も、暗影騎団の奴らが複数人いれば可能じゃろう」
「今回の件もヴィレッサムとやらが指示したのでしょうか?」
「いや。奴はしょせん雇われの軍団長じゃ。神族の暗殺を指示する権力は与えられておらぬじゃろう。まぁ魔神からの司令があったら奴自身が動くことはあるじゃろう。フレルを手にかけたのも、
ヴィレッサムかもしれぬな」
犯人がある程度絞れたところで、ヴィラージュたちは再び口を閉じた。あくまで犯人を明確にしただけであり、兵力差を鑑みても、仇を打つのは現実的ではない。そんなことはヴィラージュたちにも分かっていた。
「―失礼します」
沈黙を破るように、玄関のドアが開く。全員の視線が集中する。そこにいたのは、ナタを携えた小柄の魔族―オプサだった。
「お前、何しに来たんや!」
平一郎が顔を真っ赤にして立ち上がり、オプサの下へ一直線に向かう。そのまま胸ぐらを掴む。
オプサは過去、琉太とアーロンを瀕死の重傷に追い込んでいる。本人は殺す気はないと言っていたが、フレルの呪文がなければ、死んでいてもおかしくなかった。いくら敗北を喫したとはいえ、平一郎が怒るのも無理はないだろう。
「ちょっと耳寄りな情報を持ってきましてね」オプサは神妙な表情を崩さない。
「あぁ?」
「ちょっと待つんじゃ」ヴィラージュが二人の間に割って入った。「オプサ。お主は向日葵と功に敗北したのじゃろう。ならば、もう村には近づかないのが道理であると、わしは思うのじゃが?」
「それは魔神軍の一員であることが前提でしょう?」
「ま……まさか」クライゼルがつばを飲み込んだ。
「えぇ。誠に勝手ながら、抜けてきました。魔神軍」
「そんな、そんなことヒノカグツチが許すわけでしょう!」
「まぁ普通に面と向かって話せば殺されていたでしょう。でも、私は結構年でしてね。息子に家督を譲るという形で、隠居したのですよ。その後、こっそり魔神城を抜け出して……現在に至ります。それに、私には新しい主人がいらっしゃいます」
オプサは平一郎の拘束を解き、向日葵の前でひざまずく。
「向日葵さま。どうか私を執事として雇ってください」
斜め上の行動に、その場にいた全員が驚きの色を隠せなかった。当然、向日葵もどう返事すればいいかわからず、功や撫子の方をチラチラと見た。
「向日葵。お主に任せる」ヴィラージュが静かに言う。
オプサはずっとヒノカグツチに従っていた。自分がやりたくないことを我慢してやる姿は、とても苦しそうだった。魔神軍を抜けて、ヴィラージュに協力すると言う彼に、私ができることは―。
「オプサ。あなたが本当に良いって言ってくれるなら、私のお手伝いをお願いできるかな?」
向日葵はオプサの目を見て、微笑みながら告げた。オプサは不敵な笑みではなく、子供のような満面の笑みを浮かべた。
「ヴィラージュ様、いいんですか?」
「今はただでさえ兵士の数が足りておらん。いくら元魔神の側近とはいえ、わしらの陣営に加わるというのならば、これほどありがたい話はない。わしはオプサの忠誠心を信じるとするよ。上様にも言っておく」
ヴィラージュはため息をつき、めんどくさそうに続ける。「とはいえ、どうせ魔神軍から追っ手が来るのじゃろう。見つかったら面倒じゃ。『オプサ』という名を捨て、新たな名前で生活していくのが良いじゃろう。向日葵、名前をつけてあげなさい」
向日葵はオプサの顔を見つめる。ふわふわとした白い髪の毛。そしてひげ。その姿はおじいさんのようでもあり、羊のようでもある。
「うーんとね。じゃあ『ひつじい』で!」
「承知いたしました」ひつじいはペコリと一礼した。
「だけど、本当に良いの?私、早起きするの苦手だし、好き嫌いも多いし、勉強も大嫌いだよ?」
「自覚あったのかよ……」隆之介がツッコんだ。
一瞬水を打ったように静かになり、すぐに爆笑の渦が生まれた。真剣な眼差しを向けていたクライゼルやゴリベアも腹を抱えて笑った。
一通り笑いが収まったあと、ゴリベアが尋ねた。「それで、その情報っていうのは?」
「フレル暗殺の犯人についてです。さきほど、暗影騎団によるものだとおっしゃっていましたが、それで間違いないです。魔神城でやつらが自慢げに語っていたのを聞いていましたから。ですが、暗殺を実行した犯人までは分かりませんでした」
「脱退する前に聞くという手は?」琉太が言った。
「それが、どれだけ聞いても私だけは教えてくれないのです。もしかしたら、魔族の間では、すでに離反することが噂になっていたのかもしれません。とはいえ、情報源はあります」
「ほう」
「ここから1時間ほど北に進むと、森がスギからマツに変わっているところがあります。その境目あたりに、魔神軍の標的となっている魔族の少年が滞在しているのです。名は『ダージェ』。両親が謀反を起こしたそうですが、詳しいことは残念ながら。ですが、フレル暗殺についてなにか知っているかもしれません」
「なるほどのう。訪ねてみる価値はありそうじゃ。情報共有もできた。今日はここで解散とするかのう」
夕食を食べ、風呂に入ったあと、向日葵は早々にベットに飛び込んだ。まさかオプサが仲間になるとは思わなかった。これから面白くなりそうだ。そんな事を考えているうちに、なんだか意識がウトウトしてくる。向日葵はいつのまにか眠りについていた。




