5話
今週はちゃんと月曜日に更新できたぞ〜。
辺りの森に、向日葵の声が響きわたる。
「向日葵…怪我ない…?」
功が力なく声を絞り出す。そう、功は向日葵をかばって、背中に傷を負ったのだ。
「てめぇぇぇぇぇ!」
隆之介は顔を真っ赤にし、オオカミの頭目掛けて、竹刀をぶん投げる。それは見事に命中し、オオカミはその場で崩れ落ちた。
「功さん!」
エリーと隆之介が駆け寄る。幸い、傷は浅く、骨には届いていなかった。隆之介はエリーに頼み、功に包帯を巻いてもらう。
「すまねえな。俺は包帯とかてんでだめで」
「いえいえ」
エリーはにっこりほほえみ、丁寧に包帯を巻く。
「功…大丈夫?」
向日葵は先程の喧嘩を思い出しているのか、恐る恐る功に質問する。その目には涙が浮かんでいた。
「なんとかね…。そんなことより、向日葵が無事で良かった」
エリーが包帯を巻き終えると、功は向日葵の目を見て、話し出す。
「向日葵…さっきの喧嘩のことだけど…『重い』っていてごめん」
学校にいたときの功は、喧嘩してもなかなか謝らないことが多かった。そのため、向日葵はとてもびっくりした。なんて返せばいいか分からず、その場でもじもじする。
「向日葵、自分の正直な気持ちを言葉にするだけだ」
隆之介の言葉の意味を、向日葵は理解できない。
「エリー、向こう行くぞ」
「えっ?なぜですか?」
「いいから!」
隆之介は空気を読んで、エリーとともにその場から去る。これで、功と向日葵は文字通り二人きりになった。
「功…私も蹴ったりしてごめん。仲直りしてもいい?」
功は笑顔を浮かべ、
「もちろん!」
と元気よく答えた。
「あと…助けてくれて…ありがとう」
向日葵は恥ずかしくなったのか、功の目から目線をそらす。
「何か恥ずかしいよぉー」
向日葵は赤面し、自身の髪をクシャクシャにする。そんな様子を見て、功はくすっと笑った。その後、喧嘩も一段落したしもうここにいる必要はない、と思った功は、その場で立ち上がろうとした。しかし、足に力が入らない。功はその場で再び倒れそうになる。
「わわっ!功、私おんぶしてあげる」
向日葵は功の足をしっかりと持ち、みんなの下へ向かう。
「ありがとう、向日葵」
「前は功がおんぶしてくれたから…そのお礼」
喧嘩をしたはずだが、二人の絆はより深まったのかもしれない。
少し歩くと、焚き火の周りに集まるみんなの姿が見えた。向日葵たちの姿を見たとたん、琉太が駆け寄り心配の言葉をかける。
「お前たち…大事はないか?」
「ちょっと怪我したけど、大丈夫だよ」
琉太はほっとため息を付き、『そうか』とつぶやいて、自分の場所へと戻った。
「向日葵ちゃん!」
琉太がいなくなると、また別の男子が向日葵に声をかける。その男子はとても色白で、髪は金髪だ。
「怪我はなかった?」
「うん…功が守ってくれたから」
小桜アーロン。漁業と林業に詳しく、エリーの双子の弟でもある。また、父親からの影響か、ちょっとズレたレディーファーストを意識している。
「かわいい顔に傷がついていたら…どうしようかって思ってたんだ」
「う…うん」
向日葵は若干引き気味である。その時、背中の功はアーロンの後ろにエリーがいることに気付いた。
エリーは鬼神の如き顔つきで、アーロンの耳を引っ張る。
「ゲゲッ!姉ちゃん!痛い、痛いって!」
「アーロン…向日葵さんが困ってる。『女の子』を困らせるなって言ってるでしょー!」
アーロンはエリーの拘束からなんとか脱出し、その場から逃げ去ろうとする。エリーも鬼神のような顔を変えずに、アーロンを追いかけ回す。
「アーロン!」
「姉ちゃん、かんべんかんべん!」
アーロンも運動は得意だが、エリーほどではない。やがて、アーロンはエリーに追いつかれてしまう。エリーはアーロンの腕を思いっきり掴む。
「これで反省しなさい!」
バリツとは、ボクシングや柔術、棒術を組み合わせた武術で、エリーはキックボクシングも得意としている。エリーはそのまま、その技術を使って、動けないアーロンを躊躇なく蹴り飛ばした。アーロンは五メートルほど吹っ飛び、木に打ち付けられ、うつ伏せになって倒れた。
「全く…次はないからね。向日葵さん、私の弟が迷惑をかけてしまい、申し訳ありません」
「もう慣れたから大丈夫。エリーちゃんも程々にね」
功は向日葵の背中から降り、きしむ体を引きずりながら、アーロンの下へ行く。
「アーロンくん、大丈夫?」
「あぁ…なんとかね。エリーのせいで、僕の美貌が台無しだよ」
功は「それ自分で言うのか」と不思議に思ったが、あえて口には出さない。
「この前も、エリーさんに蹴られてなかった?」
「葉月ちゃんの可愛さを、十分ぐらいかけて説明したら、腹を蹴られた」
「そりゃ蹴られるよ」
功は冷静にツッコミを入れる。アーロンは『はぁーーーーー』と深ーくため息をついた。そして、自分の欲望を、誰にも聞こえないような声でつぶやく。
「あぁ、彼女欲しい。モテたい」
しかし、功には聞こえていたようで、
「そういう思いは良くないよ」
とメスを入れられた。アーロンは引きつった表情で、
「痛いところついてくるな…」
と返した。アーロンとの会話は実にくだらないものであったが、功にとっては、怪我の痛みを忘れさせてくれる価値あるものになっていた。
「ほら、行くよ」
「功くん、怪我は大丈夫なのかい?」
功は『まあね』とつぶやき、アーロンに手を差し伸べる。アーロンは感謝を思い浮かべながら、その手を取った。