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グットボンドへ  作者: 魔界人EM
魔神の家臣編(五章)
47/70

47話 The Lunatic

 透き通るような肌に、短くまとめたサラサラの髪。腰には円形の武器を持ち、筋骨隆々で、パツパツのTシャツを着ている。背丈はクライゼルさんと同じくらいで、偲のクラスの誰よりもでかい。その目の奥から滲み出るのは、底しれぬ狂気。まるで争うために生まれてきた、オオカミのようだ。偲は人目で感づく。こいつは他の魔物とは明らかに違う。

 その隣の女性は、利き手にレイピアを装備していた。皮のブーツに白いズボン、赤紫のベストに赤いジャケット。男とは対照的で、きっちりとした服装である。髪は後ろで結っている。身長は隆之介より少し大きいぐらいだろうか。こちらの雰囲気も只者ではない。

「お前たち、何者だ?」隆之介が2本の剣を構えて尋ねる。

「うーん、答えてあげてもいいけど。どうしよっかなー」

「無駄なことは話したらだめですよ」全盲の女性が止めにかかる。

 エリーが一歩前に出た。「いいえ、話さなくても結構です。予想はつきますから」

「本当ですか?」偲が言った。

「あなた達、サパコスとヒメマルでしょう?ヴィラージュ様が前伝えてくれた軍団長の特徴と、非常に酷似しています」

 偲は目を見開いた。確かに、魔神軍にはアシナヅチ様やその父親を裏切って加入した軍団長がいたと言っていた。全盲の騎士がいるというものも、左の女性のことで間違いないだろう。

 ヴィラージュ様は明言していた。軍団長は魔神軍でトップクラスの強さを持つと。それが確実となった以上、油断は全くできない。偲はつばを飲み込む。

「へー、分かるんだ。そうだよ。俺もこいつも、れっきとした一軍の長だ。こいつのほうが、人数は多いけどな」サパコスはナイフをクルクルと回しながら、にやりと笑った。

「そういえば、少し前にヴィラージュと直接会談をしましたね。その時の記憶をこの人たちに伝達していたとしても、おかしな話ではありません」

 少し前―?何を言っているんだ?ヴィラージュ様が魔神軍を抜けたのは、数百年も前のことだぞ。偲はヒメマルの発言に少し違和感を持った。

「一つ聞きたい!」隆之介が叫ぶ。「なんで神族を裏切ったんだ?魔神軍がどんな環境なのかは知らねぇけど、あれだけお優しいアシナヅチ様が、お前を邪険にするはずがないだろう!」

 サパコスがつまらないものを見るような目で、隆之介をジトリと覗いた。「簡単だ〜。周りの奴らが俺様を評価しなかったからだ。神の都にはルールが多すぎた。今はどうなってるか分からんが、当時の俺にとっては窮屈で仕方がなかった。だが、魔神軍は違う。決まりはあるが、破っても多少は許してくれる。それに、魔神の邪魔をするものを排除するという名目で、好きなだけ暴力を振るえる。まさしく最高の組織だ〜」

 ゆるい、だけどドスが効いた声で話を締めると、サパコスは前かがみになった。背中の筋肉が隆起している。

「さーて、つまらねぇ昔話は終わりだ。対談の代金はお前たちの命、しっかりいただくぜ」

 ナイフの刃先が月明かりを反射して光る。来る―!偲たちも武器を握りしめる。両陣営が激突するかに思われたが、ヒメマルがサパコスの前に手を出して静止した。そのまま、薄い目を開いて呟く。

「ちょっと待ってください。面倒くさいのが来ましたよ」

 偲たちは、ヒメマルの視線の先を一斉に振り向く。ホマレ荘の影から現れたのは、サーベルを握ったアーロンと、巨大なハンマーを持った一鉄だった。

「おーい大丈夫か、ってなんだコイツら!」アーロンが叫ぶ。

「絶対やばいやつだね」一鉄が静かに言う。

 上空から空気を切り裂く音が聞こえた。アーロンたちの近くにクライゼルが着地する。空の魔物を片付け終わったようだ。

 小さい点のようで見えづらいが、ホマレ荘の屋上には、弓を抱えた葉月が待機している。強風で髪がなびいている。偲が起こした爆発音を耳にして、こちら側に移動してきたのだろう。

 役者は揃った。偲たちは再び武器を構える。

「戦闘者がこんなに!いいねぇ〜、燃えるねぇ!」

「私は奥の奴らを相手にします。サパコスさんはこの3人をお願いしますね。あと、くれぐれも殺さないように」

 実家のお母さんのように注意を挟むと、ヒメマルは偲たちの隣を一瞬で駆け抜けていった。

 これで数の有利性は増した。しかし、何故かこちらが劣勢であることは一向に変わらないような気がする。こんな礼儀の欠片の知らないような男に、私達の闘志が削がれているとでもいうのか。いいや、弱気になってはだめだ。偲は自分自身を奮い立たせる。

「さーて、邪魔者も消えたことだし、お役目を果たしちゃおうかな!」

 サパコスが腰の武器に手を伸ばす。なにか仕掛けてくる。三人は互いに距離を取り、全体の戦局が見えるようにする。偲も、空いている方の手に棒手裏剣を握った。

 突如、隆之介の肩がざっくり切れた。骨のほんの手前まで、筋肉が断裂している。手の力が抜け、何が起きたか分からないまま、刀を放す。

「隆之介さん!」エリーの絶望的な叫びが、辺りにこだまする。

 サパコスはニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる。「一瞬でわからなかっただろ?俺様の腰にあるのは、チャクラムって武器だ。投擲用の道具にしては珍しく、敵の一部を切り落とすことが得意なのさ。そいつの肩がおかしくなったのは、お前たちがボケっとしている間に、俺様がチャクラムを放ったからってわけだ」

 長々としたセリフに、エリーと偲は苛立ちを隠せなかった。無駄な自慢話で隙だらけのはずなのに、距離を詰めることができない。足を上げて武器を振りかぶっただけで、ナイフかチャクラムで、攻撃される。偲は小さく舌打ちをする。

 隆之介は剣を支えにして、地面に膝をつく。サパコスが叫ぶ。

「さぁ、誰が俺の相手になる?」

 偲とエリーは動けなかった。くそっ、忍者刀で斬りかかろうにも、タイミングがない。

「ちっ、どっちとも来ねぇのかよ」サパコスががっかりした様子で呟く。

 エリーはほんの一瞬瞬きをした。奴はもう目の前にいた。ナイフを足元に振り下ろしている。いつ移動したんだ?レイピアで防ごうとしたが間に合わない。

 その刃は、エリーの胸を斜め上に、深く切り裂いた。

 この前の雑兵の一撃とはわけが違った。エリーは血を吐き、地面に崩れ落ちた。

「ちょっと、おねんねしてくれな」

 エリーさんがやられた。声が出ない……。いや、そんなことよりも早く止血しなければ。だが、サパコスから目を離したら―こちらもやられる。

「希望が消えたその表情!最高だぜ!」

 偲は、ナイフを手のひらで回し、るんるんと歩を進めるサパコスの全身を捉える。次に来るのは、ナイフか―チャクラムか―。

 答えはすぐに出た。サパコスはナイフの切っ先をこちらに向け、まっすぐ突撃してきた。速すぎる……だけどギリギリ見える!

 忍者刀でナイフによる一撃を防ぐ。そのまま鍔迫り合いとなる。

 片手なのになんて力だ。偲は両手で耐えているはずなのに、徐々に上から押されていく。

「まさか俺の刃を防ぐなんてなぁ!いいな、お前。面白いな!」

 サパコスの声色が突然低くなる。

「でもねぇ……足下がお留守なんだわ」

 その言葉と同時、サパコスは偲の膝を思いっきり蹴り上げた。ただの蹴りなら問題はなかった。だが、根本的な筋肉が違った。

 なんと、膝が逆方向に折れ曲がったのだ。予想外だった。激痛で顔をしかめる。

「それともう一発!」

 倒れゆく偲の腹に、サパコスの拳がストンと当たった。その直後、割れるような衝撃とともに、大きくふっとばされる。そして、蛇口を捻ったように血を吐く。

「俺の得意技……発勁だ。体の中で波を生み出す『ウェーブ』の応用だな」

 途絶えそうになる意識を保とうとした。忍び装束が血でびしょびしょ―さらにとっても寒い。なんとかして体を温めようと、お腹を腕で覆ったところで、偲は眠りについた。

「くそが……」隆之介が声を上げる。

 立ち上がらなくちゃいけないのに―。偲たちが殺されるかもしれないのに―。

 サパコスがぎょろりと隆之介を覗き、着々と歩く。眼前でしゃがみ、髪を乱暴に掴む。

「残念だけど、お前たちには運も実力もなかった。ただそれだけのことだ」

 その声はまるで、落胆したかのようだった。サパコスは拳を振り上げ、隆之介の頬をぶん殴る。それから数秒経たないうちに、隆之介の意識は消えた。

 三人の強さは、村の魔族と遜色ないレベル―いやそれよりも上だった。だが、軍団長相手には何もできなかったのだ。

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