表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グットボンドへ  作者: 魔界人EM
魔神の家臣編(五章)
40/70

40話 運のツキ

 ヴィラージュは帰宅し、お茶を飲んで、一息ついてから即座に指示を出した。その指示は、ゴリベアを通じて、村全体に伝達された。

 向日葵たちは、村の魔族とタッグを組み、共同でオプサの捜索に出ることになった。隆之介やアーロン、偲など12人が捜索に加わった。

 深手を負った琉太とアーロンも完全に回復し、魔族とともにオプサを探すことになった。しかし、向日葵たちの中での、オプサに対する怒りは、まだ落ち着いていなかった。特にエリーは、弟が死の淵を彷徨ったからか、燃え盛る炎のように、激しく怒りを示していた。そんな姉を鎮めるため、アーロンが言った。

「姉ちゃん、僕のためにそんな怒らなくてもいいよ......後遺症とかも無いしし」

「あら、違うわ。私はクライゼルさんがオプサにやられて、悔しがってるだけよ」

 アーロンにはエリーがただ誤魔化しているように見えた。エリーはクライゼルが入院している診療所に、一度もお見舞いに行っていないからだ。アーロンはエリーに聞こえないよう、隣りにいた桜花に話しかけた。

「絶対、僕が死にそうになったから怒ってるよね、あれ」

「認めたくないけど、その通りだと思う」

 極力聞こえないようにしていたつもりだったが、エリーには内容は分からずとも、声だけは聞こえていた。エリーは突き刺すような鋭い眼光で、アーロンの方をチラッと見た。アーロンは、背中に氷を入れられたような感覚を覚えた。

 捜索が再開され、向日葵と功も、一日遅れて参加した。隆之介や偲らは、それぞれ村の魔族と独りでタッグを組んでいたが、向日葵と功だけはゴリベアとの3人のタッグとなった。功は疑問に思い、ゴリベアに尋ねた。

「ねぇねぇ。なんで僕たちだけ3人なの?向日葵と一緒なのは嬉しいけど......なにか理由があるの?」

「ヴィラージュ様のご意向だ。お前たち二人は、幼少期からの幼馴染だと聞いている。他の仲間とは一線を画す、強固なつながりがある。二人で行動をともにすることで、いざというときに倍以上の力が発揮できるのではないか、とおっしゃっていたぞ」

「でも、隆之介や撫子もちっちゃい頃から、ずっと友達だよ?」向日葵が言った。

「それはそうだが、お前たちはあいつらと違って、いつも一緒にいるだろう?同じ場所に行き、同じご飯を食べ、同じ遊びをする。そんな運命共同体のような存在は、僕の知っている限り魔族にも神族にも、存在しないよ」

 運命共同体。向日葵と功には、この言葉の意味が分からなかった。しかし、互いの仲の良さを遠回しに褒められているような気がして、ちょっぴり照れくさくなった。

 向日葵たちは、村の隅々を探した。オプサの背丈は、向日葵よりもほんの少し大きいぐらいで、隠れようと思えばどこへでも隠れられる。気配を消すことも得意だ。向日葵たちは、魔族の家のタンスやツボ、床下にまで目を光らせた。桜花に許可を取り、建設途中の家の中も探した。

 家の中は、コンクリートの基礎が出来上がり、床材や壁が敷かれているところだった。屋根はまだつけられておらず、日光が降り注いでいた。床の一部には白い布が敷いてあった。赤いペンで印がつけられている。ここにキッチンやテーブルが置かれるらしい。

「もう秋も終わりなのに、今日は日差しが強いなぁ。シミになったら嫌だなぁ」

「日焼けは気にしないのに、肌荒れは気にするの?へんな向日葵。そんなことより、オプサを倒したら、もう寒いテントで寝なくてもよくなるんだよ。もっと楽しいこと考えようよ」

 功は、頭を抱えてブツブツと文句をいう向日葵を無視して、キッチンの真ん中にあるはしごを降りた。地面に降り立つと、ひんやり冷たいコンクリートの感触があった。暗くて何も見えない。功はロウソクとマッチを取り出し、手探りで明かりを灯した。地下室は意外と狭く、畳一枚ほどの広さしかなかった。床と同じコンクリートで造られた壁に沿うようにして、鉄でできた棚がいくつか置かれている。床と同じ白い布が敷かれ、大きく「氷」と書かれていた。

「ここは冷蔵庫だったんだね」功は独り言を話し、はしごを登った。

 地下室から顔をのぞかせると、向日葵が腰に手を当て、目の前で待っていた。天井から吹き降ろす風で、向日葵のスカートがひらひらとなびいていた。太陽が半分隠れ、辺りは薄暗くなっていた。

「ゴリベアさんが、もう出てこいだって」

 向日葵は功の手を引き、ドアノブをひねって外に出た。その日の探索は、終了となった。

 それからというもの、オプサが出没したという知らせはまったく出なくなった。ゴリベアは、オプサの手のひらで踊らされているような気持ちになって、地団駄を踏んだ。神軍の最下層のような力の弱い魔族は、ちらほら捕まったが、価値のある情報は持っていなかった。隆之介が少し上位の魔族を倒し、タッグを組んでいた魔族が舌を巻いたということもあったが、加減を間違え、魔族が即死してしまったので、結局情報を絞り出す事はできなかった。

「すみません。まだ二刀流に慣れていなくて......」

「仕方がないじゃろう。焦らず、じっくり探していくしかあるまい。わしも、即座にヤツを殺してしまいたいとは思うがの......」

 ヴィラージュは、報告に来た隆之介の背中を優しく叩く。隆之介がなんとなくヴィラージュの顔を見ると、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。 

 向日葵たちが捜索に加わって一週間。オプサは一向に姿を見せない。早く尻尾を掴むため、向日葵と功には一段と気合が入っていた。

 東の森を訪れると、動物たちが通過した跡に混じって、拠点から村に移住した足跡がまだ残っていた。向日葵の足跡は、その次に小柄な功と比べても、一回り小さい。そして、隣りにある一鉄との差は、まるでウサギと虎のようだ。

「懐かしいね、功。この世界に来たときには、戦争するなって思わなかったね」

「うん、そうだね」功の返事はどこか上の空だった。

 二人は昼食を食べるため、弁当の入ったかごを抱えて、ゴリベアと合流しようとした。向日葵は功の1メートル先を歩いた。

「今日のおかずなんだろうね?」

 功の言葉は返ってこなかった。代わりに返ってきたのは「ぐっ!」といううめき声だった。向日葵は血相を変えて、後ろを振り返った。

 功の肩には、棒手裏剣が刺さっていた。その延長線上には、羊のような見た目をした魔神の執事、オプサがいた。アーロンに聞いた通り、オプサは言葉にしがたい、不気味な笑みを浮かべている。もがき苦しむ功を目の前にして、向日葵は怒髪天を衝いた。

「あなた......よくも功を!」

 背後の茂みから、ガサガサと音がした。いばらをかき分け、鬼気迫った表情のゴリベアが現れた。

ゴリベアはオプサを見るなり、大地を揺るがすような咆哮を上げた。

「琉太、アーロン、さらには功まで……。お前はこのゴリベアが殺す!」

 向日葵は功に肩を貸した。オプサとゴリベアが正面から向き合った。向日葵と功にとって、魔族どうしが争うのを見るのは、初めてだった。ゴリベアは、オプサの刃よりも数段分厚い、狩猟刀を構えた。向日葵たちには持つことすらままならない、「大剣」と評するにふさわしい武器である。重圧を前にしながらも、オプサは表情を崩さなかった。

「しかし、あなたも運が悪い。ヒノカグツチ様の命を受けた私に出会ってしまったなんて、まさに『運の尽き』ですね」

「何いってんだ。今ここでお前を殺せるんだ。今日の僕は、めっちゃツイてるだろ」

「後ろのお二人も、お元気がよろしいようで。これは拉致しがいがありそうです」

 予想外の言葉に、ゴリベアは動揺した。「なにっ!そんなことさせるわけないだろう!」

 オプサは棒手裏剣を放ち、戦闘の火蓋を切った。ゴリベアはこめかみを掠らせつつも、直撃は外した。向日葵も功を抱えながら、なんとか避けた。

「手加減はしませんよ。フレイム、炎よ燃え盛れ!」

 オプサの追撃が飛ぶ。真っ赤に輝く炎は、ゴリベアを捉えてまっすぐ突き進み、全身を包んだ。ゴリベアは体が焼ける痛みで声を上げつつ、狩猟刀を振り上げて距離を詰めた。

「お前も食らっとけよ」

 爆炎に包まれ、雄叫びを上げる姿は、さながら鬼のように見えた。オプサは、上段から切り下ろされるその斬撃を転がって避けた。胸がばっさりと斬られていた。オプサから余裕が消えた。

「なるほど。油断はできませんね」

 オプサが戦況を分析している間に、ゴリベアは冷たい土に体をおしつけ、全身をくるむ炎を消した。深呼吸をして、頭に昇った血を下ろした。ゴリベアもまた、冷静だった。

「こんどは僕から行くぞ」

 ゴリベアが踏み込み、オプサは鉈を握る手に力を込めて、迎撃の姿勢を取った。繰り出されたのは、下段からの切り上げ。しかし、オプサは後ろに飛んで、それを見切ってみせた。

 それだけでは無かった。ゴリベアはスピードを維持したまま、狩猟刀を持った腕を折りたたみ、そのまま体当たりをした。これは想定していなかった。肩の尖った部分が、オプサのみぞおちに直撃した。オプサは木の幹に激突し、血を吐いた。

「少しは力をつけたようですね―。魔神軍にいたときは、筋肉にしか価値がない、ただの運が良い凡人だったのに」

「それまで力任せに攻めることしかできなかった僕が、戦況を見渡し、より適した一手を打てるようになった。これもすべて、スラム街から僕たちを拾ってくれた、ヴィラージュ様のおかげだよ」

「もうまぐれは無いですよ」

 ゴリベアも体の隅々が焦げ、ヒリヒリとした痛みが走っている。もともと毛が薄かった肘や膝に関しては、皮膚が焼けただれている。「満身創痍」という言葉がよく似合うだろう。

「それが……どうした」

 ゴリベアは両手でほっぺたをパチンと叩き、狩猟刀を持って立ち上がった。2つの目を大きく開き、オプサを真正面から見る。地面を再び踏み抜き、目の鼻の先にまで近づく。刀を握りつぶすほどに力を込め、唐竹割りを放った。だが、オプサは木の葉のようにひらりと躱した。

「もう見ました」

 それと同時に、オプサは鉈を横一文字にふるった。ゴリベアの右肘が抉れ、手から狩猟刀が落ちた。

「なら……これはどうだ!」

 ゴリベアは斬られていないほうの腕をたたみ、もういちどタックルを繰り出した。オプサはそれすらも避け、通り抜けるように脇腹を削った。両者は、互いに距離を取った。

 オプサは口元が青色の血で汚れているが、まだ自力で立ち上がれるぐらいの余裕はある。一方、ゴリベアは茶色の毛が黒く染まり、全身が傷だらけだ。戦闘の経験がほとんどない向日葵たちから見ても、天秤がオプサに傾いているのは明らかだった。

 ゴリベアは思案した。やはり強い。さすが、ヒノカグツチの執事兼護衛を任されているだけのことはある。いくら軍団長より弱いといっても、村の魔族のほとんどは足元にも及ばないだろう。さらに、一度食らった攻撃はかならず避ける、あの観察力。魔力の使えないゴリベアにとって、攻撃の手段は、恵まれた体格による体当たりか、狩猟刀による斬撃の2つしか無い。もう万事休すなのかもしれない。

「動きませんか。では引導を渡しましょう!」

 オプサはナタを振り上げ、一気に近づいた。ゴリベアは筋肉がこわばり、刀を構えることができない。

「ゴリベアさん!」向日葵が叫んだ。

 その刃は完膚なきまでに、ゴリベアの胸を斜めに裂いた。ゴリベアは、蛇口をひねったように激しく血を吐く。誰もが勝負ありと思った。

「まだだ!」

 ゴリベアは動いた。オプサの腕を思い切り蹴り飛ばしたのだ。鉈が空を舞い、片方の手がぐちゃぐちゃに折れた。さらに、拳を固めオプサの顔を横から殴った。奥歯が折れ、オプサはふっとばされた。ゴリベアは膝をついて向日葵たちの方に振り向き、体のあらゆる箇所に、包帯を巻き始めた。

「すまん……僕ができるのはここまでだ……。あとは頼んだぞ」

 向こうを見ると、殴られた跡をさすりながらも、オプサはふらふらと立ち上がろうとしていた。向日葵は意を決して、戦場に飛び込んだ。

「僕も……行くよ」

 片腕をぶら下げ、功も向日葵の隣に並んだ。

「おや……自ら獲物が来てくれるとは……。ありがたいことです」

 オプサの煽りに対し、向日葵と功は武器を構えた。

「私、あなたなんかに捕まらないから!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ