表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グットボンドへ  作者: 魔界人EM
開戦編(四章)
32/70

32話―海で―

 翌日から桜花たちは大忙しとなった。

 琉太と千代子が手分けして、それぞれアシナヅチとヴィラージュのもとに、ヴィラージュの家に負けないぐらいの大きな家を造るので手伝ってください、とお願いしに行った。二人とも快諾し、神の都からは10名、そして20名ほどの魔族が手助けに来てくれることになった。

 大量の木材が必要になるので、どう調達するか悩み、桜花は指示を出せないでいた。しかし、ヴィラージュが、

「森で待っておるぞ」

と伝言を残していたのを思い出した。同じテントの中にいたアーロンと一鉄を連れて、桜花は北の森の奥へと入った。

 少し進むと、開けているところでヴィラージュが一人佇んでいた。この地は、元々三人が木を効率的に伐採しようとして拓いた場所である。

「おや、来たかのう」

 ヴィラージュは息を切らしている3人の姿を見て、クスクスと笑った。

 よくよく考えると、明らかに木材を調達するために自分たちを呼んだのに、斧の一つも持っていない。強いて言うなら、一鉄が木材を運ぶ用のロープを携帯しているが、切り倒せなければなんの意味もない。いくら伝言の内容に持ち物が含まれていなかったとはいえ、こんな調子で大丈夫だろうか?

「ホッホッホ。説明するより、見てもらったほうが早いじゃろう。村の近くでやると、村が水浸しになってクライゼルに怒られるのでな。これはほんのサービスじゃ」

「バッサー!水よ唸れ!」

 ヴィラージュの前で、小さな噴水が発生した。小さな子供が空に向かって水鉄砲を撃ったような、何気ないものだった。その様子を、三人はヴィラージュの影から見ていた。何が始まるのか―三人が身構えると、噴水が瞬く間に天を貫く水の柱になった。

「まだじゃよ。それっ!」

 ヴィラージュが空に掲げた両腕をひと振りすると、水の柱は押しつぶされたような形になって、瞬く間に大地を揺るがす波へと姿を変えた。波は森を飲み込んだ。よく見ると、木々の一つ一つに斧で伐採するときのような、深い切れ込みが入っている。まるで、ヴィラージュが百はあろうかという木々に合わせて水流を調節しているような―。アーロンはその光景に圧倒され、身震いした。

 数分ほどで、辺り一帯の木々のほとんどが伐採された。先程まで青々しかった森は、まるで隕石が落ちたかのように、黄土色の地面と薙倒された木、そして切り株のみになっていた。

「やはり呪文を思うがままに放つのは気持ちいいのう!」ヴィラージュは上機嫌だ。

「つーか、こんなにすごい呪文が使えるなら、魔神軍が攻めてきたときに一網打尽にすればよかったのでは……」

「甘いぞアーロン。村の奴らが近くで戦っている中こんな呪文をぶっ放したら、味方を巻き込んでしまう。バッサーは圧倒的な質量で攻撃できる分、制御が難しい。どんな状況でも使えるようにしたかったら、水の力を一点に集中させるのが良いじゃろうな」

 桜花は一番近くの丸太にそっと触れた。少し湿気っているが、乾かせば問題ないだろう。

 一鉄がロープを取り出して丸太にかけた。水を含んでいる分いつもよりも重くなっていたが、一鉄のパワーの前では、そんなものは関係ない……と思われたが、一鉄が思っていた以上に重量があったようだ。顔を真っ赤にしながら全力で引っ張ったが、丸太は一センチと動かなかった。

「どれ、わしも手伝うとするかのう」

 一鉄はヴィラージュに指示されるまま、左右のヒレの付け根にロープをかけ、丸太と結んだ。最初は1本だったが、ヴィラージュは「それじゃ役不足じゃよ」と言うので、思い切って5本繋げた。

「なんじゃこんなもんか。それっ!」

 ヴィラージュが力むと、5本の丸太が「ズズズ」と地面と擦れる音を出しながら動き出した。一鉄は自分とのパワーの差に、少しショックを受けていた。

「ほら、立ちすくんでいる場合じゃないよ。私達も働かないと」

 三人は「せーの!」という掛け声で、一斉にロープを引っ張った。先ほどと違い、一鉄が腰にロープを巻き付けていたので、ゆっくりながらも移動させ出す事ができた。

 ヴィラージュのお陰で、莫大な資源問題が解決した。



 ヴィラージュが木材を確保してくれた後、桜花たちは自らの手で一週間ほどで整地を行った。一鉄はヴィラージュに負けないようにするためか、一層やる気に満ち溢れていた。

 その後、神族、村の魔族の全面協力で、桜花たちはついに基礎工事に取り掛かった。2日かけて地面を浅く掘り、魔族たちが調達してくれた材料でコンクリートを作り、鉄筋を組んだ後に流し込んだ。本格的な建造に突入したことで、桜花の気分は普段の何倍も高揚していた。

 そして大体1ヶ月後、骨組みを組んでいる作業の途中で、琉太は一人木陰で休憩していた。周りでは木材を加工するノコギリの音や、足場の上で積極的に指示を出す桜花の声が、しきりに聞こえてくる。大変ながらも、笑顔が絶えない桜花の姿を見て、思わず琉太も微笑みを隠せなかった。

「琉太、ちょっといい?」

 アーロンが一鉄の隣に座った。その隣には、釣り竿を握りしめる平一郎と功もいた。

「桜花に内緒でさ、4人で釣りに行かない?」

「なぜだ。お前は頼りにされてるんだから、サボる訳にはいかないだろう?」琉太は顔をしかめた。

「そこが問題なんだよ。ここ一ヶ月、僕はずっと働きっぱなしさ。あいつ、ニコニコしながら平気で仕事押し付けてくるんだぜ。息抜きしないとやってられないよ」

「まぁまぁ琉太。気分転換も大事やろ?ここは一つ、男子だけで行っちゃおうや」

「息抜きは大事だが……」

 琉太が同調した次の瞬間、アーロンが声を張り上げた。「そうと決まればさっさと移動しよう!」

 平一郎と功は無理やり琉太を立ち上がらせ、そのまま息ぴったりで背中を押した。琉太はため息をつき、渋々三人に同行した。

 村の中心部から約1キロ、アーロンたちは10分ほど歩き海に到着した。目の前では波が押したり引いたりを繰り返していた。その様子はさながら夏のビーチのようだ。空を見ると、海鳥たちが太陽の光を反射しながら、海外線に向かって力強く羽ばたいている。波打ち際には、流木などの漂着物や魚の骨が散らばっていた。

「うーん、やっぱり海ってサイコー!」アーロンは肩を回して、背伸びをした。

「人の手が入っていない分、綺麗に見えるな」

「そうだね。向日葵がいたら、絶対に泳ぎたがるだろうな」

「いやぁ、流石に寒いんちゃう?」

 他愛もない会話をしながら、アーロンたちは森と海の境目から延びる防波堤の先端まで歩き、腰を下ろした。平一郎と功が釣り竿と魚をいれる用の魚籠を配り、フックに餌として生きたミミズをつけた。4人は横に並んで釣り糸を下ろした。

 釣り竿が揺れるまでの間、アーロンたちはいろいろな話をした。平一郎が暇な時間に耐えられなくなると、話題はアーロンの恋愛に移った。

「アーロンってさ、いっつも彼女欲しい彼女欲しいって言うとるけど、実際学校にいるときは彼女いたやんか」

「いや、なんでか分からないけど、どの娘と付き合っても数日と続かないんだよね。出会うたびに、『今日も可愛いね』って言ってるだけなのに」

「いやそれが原因だろ。多分、大多数の女子はアーロンの顔を見て付き合いたいと思うんだろうな」

「で、本当の性格を知って別れを切り出すと」

 アーロンは耳を少し赤くした。「だって、可愛いものには可愛いって伝えるのが筋じゃない?」

「俺も女心は理解していないが、流石に毎日可愛いって言われたら、少しはうざったいと思うぞ」

「アーロン、桜花はどうなんや?最近よく会っとるやん」

 アーロンは眉間にシワを寄せた。「桜花ねぇ。確かに、イギリスから日本に移ったときに、一番最初に仲良くなったけど、でもそれ以上の関係はないな」

「もったいないやん」

「そうそう、なかなか喋らない功くん」アーロンはいやらしい表情をして、なかなか会話に参加できない功の方を向いた。「向日葵ちゃんとは、どんな関係なんだい?」

 琉太や平一郎は功が顔を赤くすると予想した。しかし功は、向日葵といるときよりも少し真顔に近い笑顔になった。

「向日葵は大切な友達だよ。僕、恋とかよく分からないし」

 恋という言葉が出た瞬間、アーロンのテンションが上がった。

「そうかぁ。じゃあこの美顔のアーロンが、恋愛についてレクチャーしちゃおうかな」

 アーロンが功の隣に座るために立ち上がると、アーロンの釣り竿がピクピクと動き出した。根本の鈴も激しく鳴り出し、アーロンは大物であると確信した。

「よっしゃー!さすが僕!」

 琉太が「魚がかかるのは運次第なのでは……」と心の中でツッコんだのも束の間、アーロンは釣り竿を握りしめ、勢いよくリールを巻き出した。腕の筋肉が隆起した。

 アーロンにとって、獲物を見るまでの時間はとてつもなく長く感じられた。しかし、巻き始めてからちょうど2分が経つと、アーロンの目に魚影が映った。

「あれは何?」

「多分ブリ!」

 アーロンは最後の力を振り絞った。ブリと思われる魚はどんどんアーロンたちに近づいていき、ついに水面に顔を出すまでになった。琉太と平一郎が、網で魚を回収した。

 アーロンの見立てどおり、魚はやはりブリだった。防波堤のコンクリートの上で、海水を撒き散らしながら、ピチピチと跳ねている。大きさは片腕を伸ばしたときと同じだろうか。脂がたっぷり乗っていそうで、これを持ち帰れば桜花もサボったことを許してくれそうだ。

 琉太がそんなことを考えている隣で、アーロンは桜花が設計図を考えているときと同じ表情をしていた。懐からナイフを取り出し、足でブリを押さえながら、無言でブリを締めた。血がほとんど抜けてブリが動かなくなると、アーロンは黙ったまま、その場で手を合わせた。

「―そういうところを見せれば、彼女もできると思うんだがな」琉太が言った。

「へっ、何の話?」アーロンは気の抜けた声を出した。

 その後は特に何も釣れず、琉太たちはアーロンの実力を再確認する結果となった。日が暮れてきたので、アーロンたちは交代でブリを担ぎながら帰路についた。

「いやぁー、これで桜花も満足してくれるだろう」

「それでも半日ぐらいサボってしまった……。俺としたことが、やってしまった……」

 琉太は自分の重罪に今さら気づき、半ば放心状態になった。さざなみの音が耳に入ってきた。もう一度あの光景を目に焼き付けておこう。琉太はふと後ろを振り返った。

 海岸には異様な雰囲気の男が立っていた。羊のような見た目、右手には鉈。ただ黙ってこちらの様子を伺っている。琉太は村の魔族かと思い、一人一人の顔を頭に思い浮かべた。いや、違う。あのような者は村にはいない。つまり―。

 気付いたときにはもう遅かった。その男はとっくにスタートダッシュを切っていた。音もなく、琉太たちに近づいて来る。琉太が思考を巡らせて、何回も瞬きをしている間に、男は既に琉太の目の前にいた。

 このままでは全員やられてしまう。

 琉太は功、平一郎、アーロンの背中を力の限り押した。三人が地面に触れるのとほぼ同時に、男は刃を振り上げていた。

「村中から期待される子どもたち……。どんな切り心地ですかね」

 琉太の背中に強烈な灼熱感が走った。琉太は血を吐きながら膝をつき、そのまま地面に倒れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ