3話
投稿が一日遅れました。申し訳ありません。
大穴に吸い込まれてどれだけ経っただろうか。向日葵は意識が半分混濁した状態で、目を覚ました。起き上がった瞬間、向日葵の頭に痛みが走る。
「あっ!向日葵、目を覚ましたんだね。良かった…」
「撫子…頭が何か痛いの…」
向日葵は必死で頭を押さえる。頭から手を外すと、血がついていた。
「向日葵…頭から血が…。今包帯つけるから、じっとしてて」
撫子は懐から包帯とテープを取り出し、頭の傷を塞ぐようにして、包帯を巻き付ける。包帯をテープで固定し、応急処置は完了だ。
頭の包帯を気にしつつ、向日葵は辺りを見渡す。そこには、豊かな草原と近くには林が広がり、遠くには青々とした山々が悠然と佇んでいた。近くには大きな河がある。世界自然遺産に登録されてもおかしくないような、美しい自然。しかし、向日葵が心躍ることはない。
「ここは…どこ…?」
そこの自然がいかに美しかろうと、迷子であることには変わりない。しかも、その場にいるのはクラスメイトのみ。大人はいない。担任の先生も、食堂のおばちゃんも。
「学校に帰りたいよぉ」
向日葵は泣き出してしまった。まだ十三歳、幼い少女である。
一方その頃、クラスメイトそっちのけで、一人で黙り込んで思考する男が一人。
「近くに水源はある。問題はここがどこかということ。あいつに聞いてみればなにか分かるか…」
土佐琉太。歴史と公民を専門科目としており、クラスの学級委員の一人。どんなときでも冷静で、先を見通す力にも長けているため、先生からも一目置かれている。
「どうだ琉太。考えはまとまりそうか?俺はお前の指示に従うぜ」
「隆之介…。とりあえず、ここがどこか把握しなければいけないな」
琉太は立ち上がり、みんなに向かって声明を上げる。
「みんな!もう泣くのはやめだ!ここがどこか把握して、帰る方法をみんなで考えるぞ!」
琉太の声を聞き、向日葵たちは鼻をすすって、涙を拭く。ある程度の決意ができたようだ。その様子を確認し、琉太は一人の女の子に声をかける。
「葉月、ここが分かるか?」
「うーん、ちょっと待ってて。思い出してみる」
中村葉月。地理を専門科目としており、明るいクラスのムードメーカー。中学校に入学する前は、父親とともに世界中を旅した経験を持つ。
「ごめん、多分こんなところ来たこと無いと思う。あと、地球かも怪しいかも」
「どういうことだ?」
「ここに来てからみんな頭が痛くなってるでしょ。これって空気自体が変わってるんじゃないかな」
「異星に来たから、空気も変わっているってことか」
もしも、葉月の言っていることが正しければ、事態は思ったよりも深刻である。
「どっ、どうするの?私達、もう帰れないの…?」
向日葵は二人の発言を聞いて、再び泣きそうになった。撫子は向日葵の頭を無言で撫でる。
「とりあえず、安全な水源と食料を確保したいな」
「あっちの山に滝が見えるでしょ。上流に行けば、水は綺麗になるからそっちに行けば良いんじゃないかな」
琉太の体は震えていた。この先しっかりとみんなを引っ張れるかどうか、心配だった。学級委員ゆえの気がかりだろう。そんな琉太に隆之介が声をかける。
「琉太、俺はお前の判断を信じる」
琉太は決意を固めた。そして、大声で指示を出す。
「川の上流へ行くぞ。絶対、みんなで帰るんだ!」
クラスメイトたちも決意が固まり、各々辺りに散らばった私物を拾い出す。そんな状況の中、向日葵だけがその場から動けずにいた。
「先生…おばちゃん…。怖いよぉ…」
向日葵は誕生日がクラスの中で一番遅く、唯一十四の誕生日を迎えていない。一週間後には誕生日を控えていた。そのため、精神的にもまだ未熟だった。
「大丈夫だよ」
そんな向日葵に、功は手を差し伸べる。
「功…」
「僕も頑張るから、向日葵も頑張って。どんな事が起きても、一緒に乗り越えよう」
向日葵は再び涙を拭き、功の手を取る。その手にはとても力がこもっている。
「もう泣かない。だって功たちが一緒なんだもん!」