29話
神の都を訪れてから1週間後、向日葵たちは再びヴィラージュの下へ招集させられた。前回と違い、なぜ集まるのか知らされていなかったので、向日葵たちからは沢山の困惑の声と、少しの不満の声が聞こえた。エリーはいつも通り「稽古場に行きたい」と呟いていたし、耕作に関しては顔を土だらけにして「畑を作っている途中じゃったんじゃぞ」と怒りの声を漏らしていた。
門が開いてヴィラージュやクライゼルが出てくると、向日葵たちは襟を正した。二人は誰かを待っている様子だったので、向日葵が辺りをキョロキョロと見渡すと、一鉄がいないことに気づいた。悠玄組がいないのはいつものことだが、一鉄は時間をきちんと守るタイプなので、向日葵は理由を知りたい気持ちで溢れた。
「おぉ、きたのう」
門の方を向くヴィラージュとクライゼルの視線の先には、なんと一鉄がいた。向日葵は琉太や千代子以外の同級生が、ヴィラージュの家から出てきたのを見たことがなかった。
「遅くなってすみません」
一鉄は、両腕に鉄のカタマリのようなものをたくさん持っていた。軽く汗を拭うと、ヴィラージュの前の麻でできたシートにそれを広げた。
「これって…武器…?」
向日葵たちの目に入ってきたのは、ファンタジー漫画でしか見ないような、弓矢や刀剣、ハンマーなどの武具だった。向日葵たちが不思議そうに眺めていると、ヴィラージュが「ホッホッホ」といつもどおり笑った。
「伝えるのが遅くてすまんのう。みんなに集まってもらったのは、今後訪れるであろう、魔神軍との戦争に備えて、護身する用の武器を選んでもらうためじゃ。この武器は全部一鉄に作ってもらった。魔神軍は闇討ちすら厭わない、卑怯な奴らじゃからのう。情報が漏れるのを避けるため、一鉄には秘密にしてもらった」
ヴィラージュは謝罪の言葉こそ述べなかったものの、小さく会釈をした。
「さて、武器選びに移ろう…と言いたいところじゃが、一つお願いがあってのう。なるべく武器が被らないようにしてほしいのじゃ。使用する武器が同じ…それすなわち戦闘スタイルも似通ったものになる。魔神の奴らが対策できないようにしたいのじゃ」
武器の種類は10種類ぐらいあったので、向日葵たちは快く承諾した。一鉄のことを秘密にしていたのは少し引っかかったが、ヴィラージュ様なら仕方がないという考えに自然と至った。
向日葵たちは、武器を身につけて組手してみたり、素振りをしたりして、自分の体にピッタリ合う武具を選んだ。隆之介は日本刀などの刀剣系の武器に絞っていて、近寄りがたい空気を醸し出しながら、敵を斬る動作を繰り返していた。
「何か今日の隆之介、いつもよりも覇気が増してない?」
「うん。放っておいたほうが良さそう」
向日葵と功が再び武器を漁りだすと、的に向かって矢を放つ葉月の姿が目に留まった。休憩を始めたタイミングで、二人は葉月に頼んでメタリックな弓をよく見させてもらった。
「それはコンパウンドボウって言ってね。小さい力で的を撃ち抜く事ができるの」向日葵が選んだ理由を聞くと、葉月は「あぁ、私は小さい頃お父さんと一緒に世界中を旅してたでしょ。その時に狩りをしながら過ごしていたから、自然と手に馴染んだんだ」と笑いながら返答した。
その後も、向日葵たちは手をこまねいていた。向日葵と功は体が特段に小さく、日本刀はおろか、短刀ですらら手に余る。コンパウンドボウも二人の腕が短いため、十分な威力を発揮することができないのだ。その間、隆之介たちは続々と好みの武器を選択していた。
隆之介が選んだのは両手剣だった。利き手の右が日本刀、左が短刀といった具合だった。構えはずっしりとしており、向日葵お得意の背負い投げでもびくともしなさそうだった。
撫子は魔族との戦闘には興味がなさそうだったが、隆之介が「この先何が起こるかわからんぞ」とうるさくまくし立てたので、撫子は渋々鉄扇を選んだ。ダンスに使えるかなと思ったのだ。撫子が扇を広げて振り付けを考えていると、一鉄が「良いチョイスだね!」と意気揚々に言った。
「鉄扇はその名の通り、鉄でできた扇さ。戦国時代に、殿様が最後の砦として身につけていた、歴史ある武具なんだよ!」
「楽しそうだね…」撫子はジトッとした目で一鉄を見た。
「武器を作るのって、俺の昔からの夢なんだ。その夢がかなって、少し気分がいいよ」
撫子は絶対少しじゃないと思いながら、隆之介とともにヴィラージュの家を後にしようとした。その際、一鉄が神妙な面持ちで二人にそっと告げた。
「稽古場で練習するのはいいけど、鞘から抜かないでよ。その刀、切れ味バツグンだからさ」
その後、耕作は鎌、アーロンはサーベルを選択していた。耕作いわく、普段仕事で使っているからこそ戦闘にも活かせよう、との理由で選んだそうだ。アーロンは始めから心奪われていたが、一鉄から海賊がよく使っていた剣であることを聞いて、その場で即決したらしい。その後、アーロンがサーベル片手に鏡を見ながら決め顔をしているのを見て、向日葵は少し引いた。
なかなか決められないまま、半日が過ぎた。その場には一鉄とヴィラージュ、クライゼル、そして武器を全身全霊で見定める二人しかいなかった。
「ええぃ、もう数時間たつんじゃぞ。まだ決めれんのか?」普段は温厚なヴィラージュも、さすがにしびれを切らしているようだった。
「だって〜使えそうなやつがないんだもん!」向日葵が駄々っ子のように言い訳した。
「困ったねぇ。武器のほとんどは持ってかれちゃったし」
「一鉄さん。中に余りがありませんでしたっけ?」クライゼルが玄関を指さしながら言った。
「そういえば!急いで取ってきます!」
家の中から大急ぎで戻ってきた一鉄が抱えていた武器。それは今までのとは一風変わった、手に装着するタイプの武器だった。
「こいつは篭手って言ってね。本来は戦場で指を守るためのものなんだけど、俺が対人用に改造したんだ。でもって、こっちは手甲鉤。俺はツメって呼んでる。篭手よりも壊れやすいけど、敵を裂いたり突き刺したりできる万能な武器だよ」
試しに向日葵は篭手、功は篭手を装着した。それまでのものとは違い、自分の体そのものが武器になるかのような感覚だった。
「他の武器よりも重いから誰も選ばないかなと思ったんだけど…。よくよく考えたら、二人は筋肉自体はそこそこ発達してるんだった」
テコンドーなどの武術を用いて超近距離戦を得意とする二人にとって、篭手やツメはまさにぴったりだった。練習すればするほど、体に馴染むような気がする。数分動いて、気怠い気持ちだった心身に酸素を取り込んだ後、二人は一鉄のところに戻った。
「一鉄くん、これにする!」二人が息ぴったりのタイミングで告げた。
「二人に合った武器が見つかって良かったよ」
「あれ?一鉄くんはどれを使うの?」
「あぁ俺?」
一鉄は下に置かれていたハンマーをゆっくり持ち上げた。先っぽは向日葵の頭ぐらいの大きさで、木材でもなんでもなく、金属がそのままむき出しになっている。持ち手も金属だ。向日葵どころか、隆之介すら持ち上げられそうにない。
「それ、振り回すの…?」
「うん、そうだよ?」一鉄がニッコリ笑顔で言った。
そういえば、一鉄くんの趣味ってものを作ることだけじゃなかった。学校にいる間、校舎の隣のジムによく通っていた気がする。いつから筋トレにハマったのか知らないけど、超重そうなダンベルを上げてるのは見たことある。二学期に片手でりんごを粉々に砕いた事もあったっけ。
「まぁとにかく、皆が武器を選べたのは、一鉄のお陰じゃ。わしから例を言おう。今日はここで解散じゃ」ヴィラージュが手をパンパンと叩いて言った。
帰り際、功といっしょに稽古場に向かおうとした向日葵は、一鉄の方をちらっと見た。右の肩にハンマーを担いで、ご機嫌良さそうに仕事場へ歩いている。
向日葵は絶対あのハンマーを持ち上げられるようになってみせると、心に誓うのであった。




