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グットボンドへ  作者: 魔界人EM
開戦編(四章)
28/70

28話

 次の朝、エリーはレイピアの鍛錬をして少し汗を流した後、テントの中で包帯を直して、ヴィラージュの家に向かおうとした。

 テントから出ると、そこには向日葵がいた。頑張って早起きしたようで、髪はいつもよりもボサボサだったし、少し目ヤニもついていた。向日葵は肌寒さに体を震わせながら、エリーに言った。

「おはよ!エリーちゃん。確か神の都に行くんだよね。私も連れてってよ!」

「それはいいですけど…功さんは一緒じゃないんですか?」エリーが尋ねると、向日葵は不機嫌そうに腕を組み、功のテントの方を向いた。

「一緒に行こうって誘ったんだけど…眠いから行かないって。私、早く起きれて偉いよね!」

その純粋無垢なつぶやきに、エリーは思わず微笑んだ。エリーは向日葵の頭をポンポンと優しく撫でた。向日葵は「エヘヘ」と笑顔になった。

 ヴィラージュの下へ行くと、門の前でいつものようにクライゼルが待機していた。クライゼルは予定外の来訪に顔をしかめたが、何事もなかったかのように門を開けた。エリーは向日葵を帰そうか迷ったが、その楽しそうな表情を見て、エリーは何も言わないことに決めた。

 クライゼルの案内で二人が応接間に行くと、なんとそこには一鉄がいた。一鉄とヴィラージュは対面となり、何らかの図面を広げて話し合っていた。二人はその話し合いにのめり込んでいたようで、二人の来訪に気づいていなかった。クライゼルがヴィラージュに耳打ちすると、ヴィラージュはゆっくり顔を上げた。

「おぉ、来たかエリー。ん?向日葵も一緒か。いったいどうしたのじゃ?」

ヴィラージュは朗らかな表情で、優しく問いかけた。エリーはその巨体から生まれる怖い雰囲気をできるだけ隠そうとしているのだと思った。

「私も神の都に行きたいと思ったの!」

「探究心を持って自分から行動するのはとても良いことじゃ」向日葵はポカンとしていたが、ヴィラージュは若い頃の自分を思い出すかのように笑っていた。

「いいぞ向日葵。一緒に来るが良い。ただし、粗相…いや失礼のないようにな」

肩掛けバックの紐を握りしめながら、向日葵は「はい!」と元気よく返事をした。

 奥の部屋に移動すると、ヴィラージュは神の都への扉をくぐれるように、二回りほど縮めた。サイズ変更を見るのは久しぶりだったので、エリーと向日葵は腰を抜かした。

「さて、行くぞい」

ヴィラージュとクライゼルが先に光り輝く扉に入った。無論、二人はその後に入るわけだが、なにせ初めてだ。向日葵はエリーの後ろに隠れ、慎重に様子をうかがっていた。

 エリーが目をつぶりながら一歩踏み出すと、体重を預けていた向日葵はバランスを崩した。二人は同時に扉に入り、琉太や千代子と同じ感覚を味わった。

 目を開けると、そこは神族の街のど真ん中だった。アーロンと同じくらい色白で金色に光る髪をなびかせながら、エリーたちの周りを神族の人々が歩いていた。目の前には絵本でしか見ないような美しい神の都があったが、そんなことはお構いなしに、軽い吐き気が二人を襲った。

「ホッホッホ。琉太たちと同じ反応をしているのう」ヴィラージュが以前神の都を訪れたことを思い出しながら、笑顔で言った。

「結構顔色悪そうですけど、大丈夫ですか?」クライゼルが二人に手を差し伸べ、二人はヨロヨロと立ち上がった。

 神の都に入ってヴィラージュが受付係に用事を伝えると、数分ほどでヌーラスが奥から現れた。二人はもちろん初対面なので、しっかり挨拶と自己紹介をした。ヌーラスは結構な長身で、ヴィラージュに勝るとも劣らない威厳を醸し出していたが、微笑みながら返事をしてくれたので、向日葵は少し嬉しくなった。

 ヌーラスが先頭に立ち、二人は縁に贅沢な飾りがある大きな扉の前に案内された。扉が開かれると、長いカーペットの先に、功から1、2歳ほど年齢を引いたような、幼い少年が大きな椅子に座っているのが見えた。神の都の長、アシナヅチだ。

 二人はヴィラージュとクライゼルの隣に座り、みようみまねで頭を垂れた。ヴィラージュに初めてお会いしたときの琉太の姿を思い出して、エリーは真っ先に名乗った。向日葵も遅れてしゃくりあげながら自分の名前を言った。アシナヅチはクスクスと笑った。

「まろはアシナヅチじゃ。今日は来てくれてありがとうの」

アシナヅチの声を聞くと、向日葵はふと一緒に遊んでみたいと思った。

「本題に入ろう。エリー、確かお主は少し前に魔神軍と交戦したじゃろう。どんな状況でどのように戦ったのか聞きたい。ヴィラージュも説明してくれたんじゃが、お主から見た魔神軍の様子も聞きたくてな」アシナヅチはエリーの目をまっすぐ見据えて言った。

「そうですね…。隆之介さんと偲さんと一緒に戦ったのですが、相対した6人の魔物の内、4体を偲さんが倒しました。私は魔物と一対一で刃を交えました。なんとか倒すことができましたが、まぁまぁ辛勝ってところですかね」エリーは胸の包帯を指さしながら、悔しさをあらわにして言った。

「それと、偲さんが最後に相手にした魔物は敵の大将でした。大きな槍を武器にしていて―あの偲さんが押されていましたね。結局偲さんが袈裟に切り倒したのですが、『ヒノカグツチ』と呟いていましたね…」

その名前を聞いた時、アシナヅチの顔にシワが寄った。エリーには怒りを押し殺しているように見えた。アシナヅチは二人にバレないようにしながら、呼吸を整えた。

「…そうか。それは大変だったのう。そうじゃ、ついでにこいつも伝えておこう」

アシナヅチは指を鳴らし、ヌーラスが王座の後ろにある部屋へ消えた。少し時間が経ったところで、ヌーラスは小さな木箱と赤い布から成る小さな台を携えて、再び姿を現した。

「本来はこの台に納められているが今は魔神軍に奪われているもの…光の宝玉じゃ」アシナヅチは閉じた扇で台を指しながら言った。

「光の宝玉とは、イザナギ様が自身の力を継承するために作った、エネルギーの結晶体じゃ。これがないと、まろは神族の長としての力を発揮できない。お主ら、ここに来るときにきらめく扉を通ってきたじゃろ?あれはまろが作った『光の扉』じゃ。力が足りず、不安定な状態ゆえ、酔いが酷かったと思うがな。力が完全に戻れば、宇宙規模で好きな場所、好きな時代に安定した『光の扉』を開くことができる」

アシナヅチはそこで話を切った。二人になにか気づいてほしいようだった。エリーは考えを巡らせたが、向日葵は歴史の授業で先生の話を頑張って聞いている生徒のような顔をしていた。

 しばらく考えた後、エリーは気付いた。向日葵は相変わらず眠そうな顔をしている。アシナヅチはニヤリと笑い、話を再開した。

「気づいたかの。お主らが魔神軍から光の宝玉を取り返してくれれば、わしは力を取り戻し、お主らを帰すことができる―。元の時代へな」

学校へ帰ることができる―。また食堂のおばちゃんのご飯を食べられる―。またフェンシングの大会に出られる―。エリーの心はそんな希望でいっぱいになった。

「私達…帰れるの?」

向日葵が遅れて気づいた。事の本質を理解していないようだったが、アシナヅチは強い語調で「そうじゃ」と肯定した。

「ヴィラージュ、お主に命じる。まろが言ったことを琉太たち全員に伝えよ」

「仰せのままに」ヴィラージュはヒレを動かしながら深く礼をした。

「まろからは以上じゃ。エリー、話してくれてありがとうの。他になにかあるか?」

エリーが首を横にふった。アシナヅチが扇子を懐にしまうのを見て、ヌーラスは王座から下ろそうとした。しかし、その前にアシナヅチは自分の足で降りた。

「さて、まろが出口まで送ってやろう。ほれ、行くぞ」

あっけにとられるヴィラージュとクライゼルを素通りして、アシナヅチは向日葵たちに手招きした。ヴィラージュの知る中で、アシナヅチが出口まで送るなんて事は今までなかったのだ。向日葵たちは困惑しながら、アシナヅチの後を追った。

 受付の近くに着くと、ヴィラージュとクライゼルは軽く一礼して神の都を後にした。エリーも向日葵の方を何回も振り返りながら、二人を追いかけた。向日葵もエリーに続こうと思ったが、アシナヅチがモジモジしているのに気づいて足を止めた。

「…向日葵!」顔を赤くしながらアシナヅチは叫んだ。ホールに声が反響して、神族の人々が一斉に

アシナヅチの方を向いた。

「どうしたの?」向日葵はお姉さんらしさをアピールするために優しく尋ねた。

「これから定期的にまろと遊んでくれるかの…?」

「えっ、一緒に遊んでいいの?」向日葵の表情が自然と緩んだ。

「え―ええぞ」

「やったー!ねぇ、功も連れてきていい?私の親友!」

アシナヅチが首を縦にふるのを確認し、向日葵はスキップしながらエリーたちを追った。

 向日葵の姿が完全に見えなくなったタイミングで、受付係の神族が何やっているんですかという表情でアシナヅチのそばに現れた。

「アシナヅチ様…こんなところにまで…。危ないですよ。いったいどうしたんですか?」

アシナヅチは心臓がまだドキドキしているのを隠しながら茶を濁した。

「別に。ただの気まぐれじゃ。ただ、たまにはヌーラスのしつけに背くのもいいのう」

受付係が「ヌーラスさんは?」と問うと、アシナヅチは「光の宝玉の台を戻すのが遅かったから、そのまま置いてきた」とぶっきらぼうに答えた。

 神族の街から吹く心地のいい風が、アシナヅチの髪をなびかせた。

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