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グットボンドへ  作者: 魔界人EM
開戦編(四章)
27/70

27話

 明後日の朝、向日葵たちはヴィラージュの家の前に集合した。本当は翌日に行うはずだったが、魔神軍と交戦したことについて、ヴィラージュとクライゼルが上様に報告しに行ったため、一日延期となった。

 家の前には悠玄組以外のほぼ全員が集合していた。そこにはエリーの姿もあった。どうやら、蛍二に止められたものの、怪我を押して無理やり来たらしい。

 ヴィラージュとクライゼルが家から出てくると、二人は全員揃っているか確認した。ヴィラージュは話を始めようとしたが、広場の方から聞こえる声で遮られた。

「ごめんごめん!遅れた〜」

手を振りながら走ってくるのは、美猫だった。悠玄組の姿は見えない。美猫が偲の隣で立ち止まると、偲は質問を投げかけた。

「美猫さん、悠玄さんたちは一緒じゃないんですか?」

「魔力なんてどんな力なのか気になるじゃん!悠玄くんも誘ったんだけど、行かないって言ったから、結局一人で来ちゃった!」

みんな美猫に注目していた。話が長引きそうだったので、ヴィラージュは大きく咳払いした。

「まぁ、たくさんの人が学びに来るのはいいことじゃ」

向日葵はヴィラージュの雰囲気が少し変わった気がした。

「魔力。それはこの世界の全ての生きとし生けるものが持つエネルギーじゃ。生物は魔力を持って生まれ、魔力が尽きたときに死ぬ。魔力は基本的に生きた年月に比例して、どんどん大きくなっていく。お主らが今立つことができているのも、別の世界から来たときに魔力を取り込んだからじゃろう」

向日葵はなんとなく、自分の胸に手を当てた。

「魔力はその形を変えることで、戦闘に活かすことができる。その形というのは主に3つ。1つ目は『体内の魔力』じゃ。再三言うが、これはすべての生物が持ち、生きるのに最低限必要な魔力でもある。魔力を腕に集中させ、腕力を底上げする…なんて使い方もあるが、よほどの熟達者でないと無理じゃろう。この魔力を体の外に放出すると、2つ目の『体外の魔力』となる。こいつの活用方法は多岐にわたっての。放射状に体外に出してセンサーのように使うこともできるし、体の表面に張り巡らせて簡易的なバリアを作ることもできるじゃろう。しかし、『体外の魔力』を使うのには頭の中でイメージする必要があっての、まだ魔力をその身で感じたことのないお主らにはちと難しい…」

その時、ヴィラージュの声に力がこもった。

「そこで『呪文』を覚えてもらう!」

この言葉に、向日葵は聞き覚えがあった。昔、学校の図書館で読んだ小説にあった気がする…。炎を出したり、空を飛んだりできるのかと思うと、向日葵は初めてハイハイができた赤ん坊のようにワクワクした。

「『体内の魔力』を変形させ、別の物質やエネルギーを生み出すのが『呪文』じゃ。見せたほうが早いじゃろう。わしの手に注目するのじゃ」

ヴィラージュはクジラのヒレのような手のひらに、小さな水柱を出した。水柱は次第に高度を上げていき、ヴィラージュは向日葵たちに当たらないように調節しながら、辺りに水を振りまいた。向日葵たちが上を見上げると小さな虹ができていた。向日葵と功は目を輝かせた。

「水を生成し操る呪文―『バッサー』じゃ。他に攻撃に使う呪文というと、炎を生み出す『フレイム』、風で相手を切り裂く『ウィンド』などがあるかの。この3つの呪文は多くの魔法使いに使われているから、『三大基礎呪文』なんて呼ばれたりもするの」

ヴィラージュはクライゼルの方をチラっと見た。クライゼルは小さく頷き、「ワープ!」と唱えて向日葵たちの上空に飛んだ。

「クライゼルのワープも魔力による呪文の一つじゃ。魔法使いにもそれぞれ得意とする呪文があるが、クライゼルの場合はこれというわけじゃ。お主らの中にも、一つの呪文しか使えない者や、複数使える者、そもそも呪文や体外の魔力に変換できない者も出てくるじゃろう」

向日葵たちは自分が魔力を本当に使えるようになるのか不安になった。しかし、その不安もヴィラージュの次の言葉で払拭された。

「まぁ安心せい。魔力はイザナギ様が生み出した概念じゃが、格差が起きないように、『体内の魔力』しか使えない者は魔力の量に応じて、素の身体能力が上がるように作ったのじゃ」

話が一段落ついたようで、ヴィラージュはため息をついた。辺りにちょっとした風が巻き起こり、向日葵や撫子の髪が持ち上がった。

「説明が長くなったのう。なにか質問はあるか?」ヴィラージュが問いかけると、琉太とロペスが同時に手を上げた。琉太はロペスの方を見て、ゆっくりと手を下げた。

「あの…『体外の魔力』や『呪文』が発現するのって、何らかの要因があるものなんでしょうか…?例えば…生まれつきの才能とか…」ロペスはドキドキしながら聞いた。

「いい質問じゃ」ヴィラージュは口角を上げた。「残念ながら、『体外の魔力』や『呪文』を使えるようになるのは、生まれ持った才によるものが大きい。しかし、それらが使えんからといって戦闘者として無能な訳じゃない。そんなことで憂う必要ないというわけじゃ」

ヴィラージュは穏やかに言った。

「まぁ、『体内の魔力』しか使えなくても、自身の能力を強化する方法はある。じゃが、それはお主らが魔力を扱えるようになってからにしよう」

琉太は最後の発言が少し気になった。話の続きを聞くためにも、早く魔力を会得したいと思った。

「さて、これから訓練に移ろうかの」

ヴィラージュはヒレの先を側頭部に当てた。

「呪文を発動させるのに必要なのは、想像することじゃ。手に意識を集中させ、炎が出る想像をすればよい。水や風が出るイメージをしてもいいじゃろう」

「村長様は初めて呪文を出したときって覚えているんですか?」両手のひらを目の前に突き出しながら、桜花が聞いた。

「うーむ。詳しく覚えて無いんじゃが、両親からイメージを固めろと言われたのは覚えておる」

ヴィラージュは髭を触りながら呟いた。

 それから一時間、向日葵たちはヴィラージュに言われた通り、視線を腕の先っぽに集中させ、炎や水、風が出る想像を続けた。しかし、呪文を唱えられた者は誰一人としていなかった。向日葵は疲労が限界に達したようで、地面に突っ伏し、狼狽の声を上げた。

「もう無理〜。疲れた〜」

「ホッホッホッ。そう簡単にできるものではない。魔力の存在を知ってすぐに会得したら、それこそ本物の天才じゃよ」ヴィラージュは笑顔で言った。

「よし、訓練はやめじゃ。以後、今日のように、お主らを集めて一緒に練習する機会は設けん。各自、スキマ時間を見つけて訓練をするのじゃ。今日のところは解散としよう」

向日葵たちは魔力に対する自分の考えをグチグチ述べながら、それぞれの仕事場へと戻った。隆之介、エリー、偲の三人も稽古場に行こうとしたが、ヴィラージュとクライゼルに呼び止められた。その場には何故か一鉄もいた。

「呼んですまぬ。明日の朝、一人でいいから、わしと一緒に神の都へ行ってほしい。上様が戦闘の様子を聞きたいそうじゃ」

ヴィラージュに申し訳ないが、三人は早く稽古場に行きたい気持ちでいっぱいだった。その雰囲気を偲が察知して、名乗り出ようとした。だが、エリーが片腕を突き出して止めた。

「ここは私が行きましょう」

「でも、エリーさん―。お体に障りますよ」偲が心配そうに言った。

「大丈夫ですよ。第一、このまま稽古場を続けたところで、傷の痛みで大した訓練はできませんし。ここは私が一肌脱ぎましょう」エリーは微笑みを浮かべた。

「―分かりました」偲はなにか言いたげだったが、エリーの気持ちを尊重することを選んだ。

ヴィラージュは「よし、決まりじゃな」と言い残し、クライゼルとともに家の中へと入った。

 その場には四人が取り残された。偲とエリーは黙って向日葵たちの待つ稽古場に向かった。隆之介は一鉄に一つ質問を投げかけた。

「一鉄も村長様に呼び出されたのか?」一鉄は首を縦に振った。

「詳しいことはまだ秘密って言われてるから、隆之介もこれ以上は聞かないでくれ。でもまぁ、三人にとっていいことではあると思うよ」

一鉄は頑張って秘密を隠そうとしているようだった。しかし、その顔は笑っていた。

 隆之介は稽古場にいた向日葵たちにこの事を話した。エリーに「秘密なのになんで話しちゃうんですか!」と怒られたが、気にも留めなかった。

 向日葵と口喧嘩しながら、半日稽古した後、隆之介は自分のテントに入った。一鉄の秘密やアシナヅチについて色々考えてしまったため、ほとんど眠ることができなかった。

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