表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グットボンドへ  作者: 魔界人EM
開戦編(四章)
26/70

26話

 ゴリベアは周辺を見渡し、全ての魔物が事切れているか確認した。片目を潰された魔物なんかはまだ息があったが、ゴリベアはその首を踏み折り、息の根を完全に止めた。「グシャッ」という音が三人の耳に入ると、隆之介とエリーは目を背けた。

「隆之介、怪我はないか。危機一髪だったな」ゴリベアがタオルで返り血を拭いながら聞いた。

「大丈夫です。それよりも偲とエリーを…」隆之介は二人の方を指した。

ゴリベアは大きな足音を響かせながら二人に近づき、膝をついた。偲は緊張状態から解放された反動で、未だ起き上がれずにいる。エリーの胸からは少しずつ血が流れていた。

「あぁ、君、怪我しているじゃないか。今すぐ手当をしよう。(エリーは断る素振りを見せた)だめだよ。病気になってしまう。さあ、僕の背中を使って」

ゴリベアは180°回転し、エリーに背中を差し出した。エリーは少し迷った。なにせ、ゴリベアの背中は汗だくで、ゴワゴワとした毛に覆われていたからだ。

「エリーさん。私は大丈夫ですから」偲はふらふらと立ち上がり、ゴリベアに向かってエリーを押した。そのまま、エリーはゴリベアの背中にもたれる状態となった。

「よし、行くぞ!」

ゴリベアはエリーの太ももを掴み、向日葵たちが避難しているところと逆方向に走り出した。

「ちょっと待ってください…どこに行くのですか?」エリーはゴリベアの行動に困惑しながらも、なるべく感情を隠して呟いた。

「どこって…村のお医者さんのところさ」ゴリベアは困惑しながら言った。

エリーは以前、村の診療所から出てきた魔族を見たことがあった。どうやら腰痛の診察を受けたらしいが、治療法は腰にいくつかの薬草からできた塗り薬をつけ、その上から葉っぱを被せるという、シンプルなものだった。その魔族の隣を通り過ぎたが、かなりの異臭が辺りに漂い、思わず鼻がもげるかと思った。

 そんな記憶もあって、エリーはなるべく別の人の治療を受けたいと思った。エリー並びに隆之介たちは、エリーの傷を一発で治してくれるような、良い人物を知っていた。

「すみませんが、琉太さんたちの方へ向かってくれませんか?ちょっとアテがありまして」エリーは息も絶え絶えになりながら言った。

「ん?そうか?じゃあそちらに向かおう」

ゴリベアが一度立ち止まり、急激に方向転換したため、隆之介と偲はぶつかりそうになった。

「あの人に体当りされた魔族も可哀想だぜ」

二人は急いで後を追った。

 ゴリベアが向日葵たちの下へ着くと、琉太とアーロンが駆け寄った。二人とも片手に竹刀を持ち、いつ襲われてもいいように身構えていたようだ。

「あ、あなたは?ってエリー!大丈夫か?」琉太は市内を放り投げ、エリーが背中から降りれるように手を貸した。ゴリベアは名を呟いた。1日2回も名前を言うのは、少し変な気分だった。

「姉ちゃんがこんなにやられるなんて…いつもゴリラみたいに元気なのに」

「あんた…後で覚えておきなさい…」エリーが背中から地面に着地しながら言った。

エリーは自分の胸に手を当てた。血がたくさんついていた。今のところふらつきはないが、病原菌が入ったら面倒なことになる。エリーはある男を要請し、アローンがそれに応じた。

 少し時間が経つと、隆之介と偲が息を切らしながら現れた。二人共、戦闘で疲れている上に、ゴリベアの体力は無尽蔵だ。隆之介は「速すぎるぜ…」と髪をかき上げながら呟いた。

「おっ、ふたりとも戻ってきたね」千代子は先程の琉太とは打って変わって冷静だった。ゴリベアから二人は無事であることを聞いたためだ。

「あぁ。特に怪我はねえけど、ゴリベアさんがいなかったら死んでたよ」

「隆之介ったら、魔族が来たときに、冷や汗ダラダラだったんだろ?姉ちゃんから聞いたよ。イケメンの僕だったら、バッシバシと敵をなぎ倒しちゃうね」アーロンがキザな雰囲気を醸し出しながら言った。

「アーロン、明日稽古場来い。みっちり個人授業してやるよ」隆之介は怒り心頭である。

「そんなことより、エリーさんのところに行きますよ。怪我の容態が心配です」

二人は避難所の外れのテントに向かおうとした。千代子とアーロンはあんまり人が多いと落ち着けないと言って、ついてこなかった。

 テントは隆之介たちが普段暮らしているものよりも、少し大きかった。中から何故か向日葵と功の声が聞こえる。隆之介は入口を開けようか考え込んだ。しかし、偲に腕を引っ張られて、すだれのような入口を開けた。

「あっ!隆之介!」向日葵が叫び、功と撫子も一斉にこちらを向いた。

「怪我ない?」撫子が隆之介の袖を軽く掴みながら聞いた。

「無いよ」自分の実力を過小評価されているような気がして、隆之介はうんざりしていた。

「皆さん、もう少し静かにお願いします」

先程までエリーに付きっきりだった男が、偲たちの方を向いた。ブカブカの白衣と大きな丸メガネを身につけている。背丈は功とどっこいどっこいだ。

「蛍二、エリーの調子はどんな感じだ?」

興田蛍二。あらゆる病気やその治療法に詳しく、学校にいる時は保健室に入り浸っていた。病原体や薬について研究するのが趣味で、数々の論文を書いていた。医師免許や薬剤師免許も所持している。

「ガーゼと包帯を巻きました。傷は深くないので1ヶ月後ほどで治るでしょう。まぁ、一週間は絶対安静ですかね」

エリーは髪を下ろしていた。その金色の髪を見ると、アーロンの兄弟であることをいい意味で実感させられた。

「もうそろそろ出ようか」それまで黙っていたゴリベアが口を開いた。

「エリーにはゆっくり休んでもらいたい。あまり長居しては、リラックスできないだろう」

 テントを出た後、ゴリベアは再び戦線に戻った。隆之介と偲は避難所に留まるように命じられた。数時間が経つと、ゴリベアが戻ってきて魔族の勝利を伝えてくれた。避難所は歓声に包まれた。

 その夜、琉太と千代子がヴィラージュの家に呼び出された。二人は大体なんの話がされるか分かっていた。

「こんな夜分に申し訳ありません」

クライゼルが会釈すると、二人ともお辞儀を返した。村長様の家に来るのは何回目だろうかと考えながら、いつもの部屋に入ると、中にはゴリベアとヴィラージュがいた。

「おっ、来ましたね」

「じゃ、始めるとするかのう。まず一つ謝らせてくれ」ヴィラージュは二人に向かって深々と頭を下げた。二人は慌てて両手を左右に振った。「どっ、どうしたんですか!」

「わしが村を留守にしたせいで。隆之介、エリー、偲を危険な目に合わせてしまった。言い訳をすると、あの時わしは神の都で、上様と面会していたんじゃ。魔神軍の襲撃を知る方法がなかったにしろ、本当に申し訳ない」

二人は黙った。「そんな事ありません」と否定したいとこだが、実際エリーは怪我を負っている。エリーの気持ちを考えると、ヴィラージュの謝罪を無いもののように扱うのは野暮だと思ったのだ。

 琉太は静かにお辞儀を返した。

「村長様のお気持ち、十分に伝わりました。三人には伝えておきます。それよりも、本題に入りましょう」

「―そうじゃな」ヴィラージュはしっとりと呟いた。

「今回の襲撃で、わしらの力では、お主らをいざというときに守りきれない可能性が高くなった。魔神軍というのは、わしらの何百倍―いや何千倍という兵力を持っている。いくら敵の本拠地が遠方にあるからと言って、全く油断はできないというわけじゃ」ヴィラージュの声が低くなった。

「そこで、お主らには魔力の習得を目指してもらう」

魔力―。そのフレーズに、二人は聞き覚えがあった。

「この村にお主らが移住してきたとき、わしは『心配なら村の奴らに護身術を教えてもらうとよい』と言ったはずじゃ。魔力の習得も、これの一つ。さて、どうする?判断はお主らに委ねたい」

ヴィラージュは数分の沈黙が流れるかと思った。しかし、重い空気を吹き飛ばすかのように千代子は「ぜひ、お願いします!」と元気よく言った。

 当然、ヴィラージュは困惑した。

「い、いいのか。魔力なんてよく分からないもの、不安ではないか?」

「避難しているときに、クラスメイトに一人聞いたんです。『魔力を習得できる機会があるなら参加するか』って。そしたら、全員が何らかの形で機会を得たいと答えてました。ただ、戦線に放り込まれるのは怖いって人もいるので、配慮してくださるとありがたいです…」

千代子は、最後はしんみり答えた。

「おぉ、そうか!」ヴィラージュは見るからに高揚していた。

 ヴィラージュといつ集まるか決めた後、二人は家を後にした。テントへの帰り道、琉太が呟いた。

「魔力の習得って―。一体何するんだろうな?」

「さぁ?アタイも興味はあるけど、戦争に参加する気はないね」千代子はぶっきらぼうに言った。

「俺は早く戦えるようになりたい。お前を守るためにな」

「ハァ?『お前たち』でしょ!全く、悠玄みたいなこと言ってんじゃないよ!」千代子はほんの少し頬を赤く染めた。

 琉太は「魔力」について考えながら布団に入った。なかなか眠れなかったが、布の間から入ってくる隙間風が、なぜか心地よく感じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ