24話
向日葵からでた言葉に、隆之介は自分の耳を疑った。一瞬、向日葵と功の見間違いではないかと思ったが、二人の余裕のない表情からその考えはすぐに否定された。
「魔族なんて…どこで見たんだ!」隆之介が激しく問いただした。
「僕達、ここから少し東に行ったところで木登りしてたんだ。この辺で一番デカい木に登ったときに、旗を掲げてこっちに来る魔族が見えた。人数は100人ぐらいかな…」
「村長様の所には行ったのか!」隆之介の口調がさらに激しくなった。
「行ったんだけど、門が開いてなくて…」
それを聞いた瞬間、隆之介は焦りを顔に浮かべながら木刀を拾い上げ、駆け足で外に出た。
「どこに行くの!」撫子が辺りに響き渡るような大きな声を出した。
「村長様のところだ。お前らはみんな集めて避難してろ!」
隆之介は向かいのヴィラージュの家へと急いだ。
肩の痛みで時々スピードを落としながら、ヴィラージュの家に近づくと、門の前に一人の魔族がいた。熊のような見た目で、体は隆之介よりも一回り以上大きかった。門の扉を叩きながら「ヴィラージュ様!」と叫んでいた。門はギシギシと音を立て、今にも壊れそうである。
後ろから近づくと、魔物は振り向き、不思議なものを見るような顔をした。門を叩く手も止まっていた。
「おや…君は…?」
「隆之介です。最近この村に越してきました。もしかしてあなたも…見つけたんですか」
魔物は深刻そうな表情を浮かべながら、「あぁ…」と答えた。
「そうですか。俺も直接見たわけじゃないんですか、友達が教えてくれまして。早く村長様に報告したいんです。えっと…」
「ゴリベアだ。村の見張りを担当している。早く迎撃の準備をしなきゃいけないんだが、村の奴らは僕の指示じゃ動かない」ゴリベアは苛立って歯を噛み締めながら言った。
ちょうどその時、門が開いた。向こうから、クライゼルがやかましい子どもを見るような目でこちらを見ていた。口から出たのも「うるさいですね…」という一言だった。
「クライゼル、大変なんだ!魔神の奴らがこちらに向かってきてる!」ゴリベアがしきりに手を動かしながら、クライゼルに訴えた。
「なんだって!なぜもっと早く言わなかったのだ!」
「お前が門を閉めたまま、お上のところに行くからだろう!」
クライゼルはダッシュで門をくぐって空へと飛び立ち、空中で一時停止した。「私はみんなに戦闘の準備をするよう伝えてくる。ゴリベアは見張り台で私に合図を!」指示を出した後、村の奥に向かって飛んでいった。
「ついでに向日葵たちの避難誘導もお願いします!」隆之介はクライゼルに向かって、腹の底から言った。伝わっているか微妙だったが、クライゼルがうなずいたことで、隆之介は少し安心した。
ゴリベアはドシンドシンと大きな音を立てながら、見張り台へと行こうとした。しかし、指示が出されていない隆之介に気づき、その足を止めた。
「さて、君も避難しなさい。流石に子どもに戦わせるわけにはいかない」ゴリベアは優しい表情を浮かべた。だが、隆之介は断った。
「この村の人数を数えたところ、大体70人ぐらいでした。功は相手が100人って言ってたので、人数でこの村は負けています。俺だって毎日修行してます。だから、俺も戦わせてください!」
ゴリベアは再び避難するよう諭そうとした。しかし、この少年の覚悟を見たところ、僕が止めたところで無理やり戦闘に参加するのではないか…。それはかえって危ないと思い、諭すのをやめた。
ゴリベアは少し屈み、隆之介の目をまっすぐと見た。魔族の顔がこれほど近くに来るのは初めてだったので、隆之介はぎょっとした。
「分かった。隆之介、東の方で魔神の奴らが来るのを待ってろ。時期に村の仲間が到着するはずだ。もし、仲間が来る前に魔神の奴らが来やがったら、すぐに逃げろ」
隆之介は「はい!」と元気よく答え、言われた通り東の方へと向かった。
ヴィラージュの家から稽古場の隣を抜け、目の前に林が広がる広場につくと、魔神の奴らはもう目の前に迫っていた。木と木の間から旗が見え、徐々に緊迫感が増していった。隆之介は授業で習った太平洋戦争の雰囲気もこんな感じだったのかな、と考えながら木刀を構えた。
魔神軍が近づくにつれ、木刀を構える腕が震え、隆之介は過呼吸になった。ゴリベアの前では強気だったが、敵を目の前にすると、こんなに緊張するものなのか…。隆之介は心臓のあたりを抑えながら、魔神軍が林からでてくるのを待った。そして、ついに、
「ちぇ、お出迎えはガキンチョ一人かよ」
林をかき分け、一人の魔族が顔をのぞかせた。隆之介の心臓は更に大きく脈打った。焦りに駆られた隆之介の顔を見て、そいつはベロリと舌を出した。
「こんなガキでも、一人殺せば手柄になるか!?」
魔物がナイフを構えて隆之介に襲いかかった。ゴリベアの指示が頭によぎった。でも、体が動かない。隆之介は冷や汗を垂らして、へっぴり腰で木刀を振り上げた。自分の攻撃など通じず、そのまま切られると思った。しかし、魔物は叫び声を上げながら後ろに倒れた。額には六角が刺さっている。隆之介が振り返ると、そこにいたのは
「大丈夫ですか!」
偲とエリー、そして村の魔族たちだった。




