22話
一鉄たちが粘土を求めている頃、琉太と千代子はヴィラージュの家を訪れていた。ヴィラージュから招集がかかったのだ。その場にはクライゼルもいた。
「先ほど、クライゼルがワシに報告してくれたことを、部下を通じて上様にそのまま伝えたところ、一鉄と平一郎を連れてこいとの命が出た。そこで、お主らに来てもらったわけじゃ」
琉太と千代子はヴィラージュが何を言っているのかわからなかった。
「なぜ俺達なのでしょうか…?」
「それがの、上様に『二人は今忙しい』と伝えたら、『代役を出せ』とおっしゃったのじゃ。ちょうど挨拶もしたかったことだし、みんなの代表者であるお主らが適任と思ったのじゃ」
その話を聞く限り、上様は非常に幼稚な性格だと考えられる。琉太はこれから挨拶に行くことを想像すると、とても不安になった。
ヴィラージュの話が終わり、二人は部屋の奥へと案内された。最初の挨拶でヴィラージュが出てきたドアを逆に進み、二人はヴィラージュの私室に入った。そこを更に奥に進むと、琉太たちの前に現れたのは光り輝く扉。学校ではありえない光景に、二人は動揺した。
「ここをくぐるんですか…?」と千代子。
「えぇ。さぁ行きますよ」とクライゼルが声をかける。
ヴィラージュは身体のサイズを限界まで小さくし、真っ先に扉に飛び込んだ。クライゼルが続き、琉太と千代子は同時に扉をくぐった。
次の瞬間、二人はまるでジェットコースターに乗ったようにひどく身体を揺すぶられた。周りの景色はSF映画で流れる時空の狭間のように、ぐわんぐわんと揺れている。俺達はどこへ向かっているのだろうか…。二人は目の前の景色を疑った。一方、ヴィラージュとクライゼルは「自分たちは慣れている」といった顔で静止していた。
「さて、もうすぐつくぞい」
ヴィラージュの言葉の直後、琉太たちは眼前からのまばゆい光りに包まれた。
十分ぐらい経っただろうか。琉太は頭をくらくらさせながら目を覚ました。近くにはヴィラージュとクライゼルが立っている。
「目を覚ましたか。これがお主らにとって初めての移動じゃ、ちときつかったかのう」
二人はぼやける視界を目でこすりながら、真正面の景色を見た。次の瞬間、二人はその景色に驚愕することになった。
「何だ…これは」
二人の目に飛び込んだのは、高さ100メートルはあろうかという金色に輝く大きな城だった。また、琉太たちと同じ人間の見た目をした人々が城の周りを往来しているではないか。
「ほれ、ぼーっとしてないで、早く行くぞい。上様がお待ちじゃ」
二人がその光景に目を奪われていると、ヴィラージュが呆れ顔で指示を出した。二人はまだ城を見ていたかったが、その指示に素直に従った。
中に入ると、受付の人がヴィラージュに話しかけてきた。ヴィラージュが要件を伝えると、受付の人は「少々お待ちください」と言って城の中へと消えた。しばらくすると、中から初老の男性が現れた。大きな口ひげを携えており、その貫禄に琉太は少し興味を持った。
「ヌーラス殿。久しぶりでございますな」ヴィラージュが挨拶をする。
「えぇ、ヴィラージュ様が直線ここにいらしたのはいつぶりでしょうか。クライゼルもお久しぶりです」
「そうですね」クライゼルは軽く会釈した。
社交的な大人の挨拶を見せられたところで、琉太たちはヌーラスに連れられて城内に入った。城内では槍や鎧で武装した近衛兵や、書類の山を持って歩く事務員など、様々な人が忙しそうに歩いていた。また、ファンタジー映画で見るような魔法使いもいた。その様子を見て、本をよく読む琉太と千代子は自分が今まで読んだ小説を思い出して、色々な思いに浸っていた。
受付から10分ほど歩くと、琉太たちの前に見上げるような大きな扉が現れた。この扉の先に「上様」がいらっしゃるらしい。
「なんか緊張するねぇ」と千代子。
「こんなに空気の圧迫を感じるのは初めてだ…」琉太も緊張を隠せない。
「くれぐれも、粗相のないように」
ヌーラスの指示で扉が開かれると、50メートルほど先に見えたのは、和装に身を包んだ10歳ほどの男の子だった。
「こ…この方が上様…」
琉太はてっきり「上様」のことを落ち着いた雰囲気のある殿様のような人物だと思っていた。しかし、実際は威厳を醸し出しつつも、まだ幼さを隠しきれない少年だったのだ。
どのような顔をすればいいか悩んでいると、いつの間にか「上様」の下へ案内されていた。琉太はヴィラージュと初めて会ったときよりも早く、反射的に頭を下げた。
「アシナヅチ様、こちらが魔族の村に新たに移住してきた者です」
この名前に琉太は聞き覚えがあった。
「面を上げるが良い。お主らが、琉太と千代子じゃな?」
二人は指示通り顔を上げ、ヴィラージュの時と同じように名乗った。「上様」は3メートルはあろうかという王座に座っており、その幼い声にはやはり威厳を感じさせる。
「本当は平一郎と一鉄とやらに会いたかったが、ヴィラージュの話を聞いて、お主らにも興味を持ったのじゃ。まろはお主らに会えてとても嬉しい」
「上様」はにっこりと笑顔を見せた。それは見た人の心を浄化するような、純粋な笑顔だった。
「先ほど『アシナヅチ』という名前が聞こえたのですが…」琉太は質問を投げかける。
「うむ!いかにも、まろはアシナヅチじゃ!」アシナヅチは自信満々に答えた。
千代子がなぜ聞き覚えがあるのか聞くと、琉太は古事記や日本書紀でこの名前を見たことがあると返答した。
「ほう、お主らにもまろの名前は知られているのか。嬉しいのぉ!」アシナヅチは扇を持ちながら、王座で足をブラブラさせた。その姿も、さながら幼児のようである。
「アシナヅチ様。もうそろそろお時間が…」
ヌーラスが告げると、アシナヅチは「もうそんな時間か」とつぶやき、自らの足で王座を降りた。
そして、二人と目を合わせ、
「今日は来てくれてありがとう。また会える日を楽しみにしてるぞ」
とそっと呟いた。琉太はその貫禄に脱帽した。
「これがヴィラージュ様たちを束ねる貫禄か…」




