20話
村に移住してから一週間がたった。向日葵たちはそれぞれの得意分野に合わせて活動を始めている。アーロンは頻繁に海に行くようになり、隆之介やエリーは稽古場に入り浸っている。
そんなある日、向日葵と功が和室で柔道の練習をしていると、一鉄が訪れた。背中には大きなバックを背負っている。
「向日葵ちゃん、功くん。ちょっといいかい?」
「一鉄くん。どうかしたの?」
二人は組むのを止め、柔道着を整える。
「今から近くの鉱山に行こうと思ってるんだけど、一緒に行かない?」
「え〜。道場に隆之介がいるから、そっちに頼んでみたら?私、功と稽古したい」
「ついさっき、断られちゃったんだよね。それに、鉱山にはお宝もあるかもしれないよ」
お宝という響きに、向日葵は心躍った。
「へぇ〜。なんか面白そう!やっぱ行く!」
「向日葵が行くなら…僕も行く!」
二人は元気に返事をした。
村から西に約3キロ、川から少し離れたところにその鉱山はあった。地面に直径6メートルほどの大穴があり、そこから梯子を伝った所に入口があった。梯子の隣には鉱石を引き上げるための滑車が設置してある。
「ここが鉱山…なんか炭臭くない?」
「村長さん曰く、石炭がよく取れるらしいけど、まだ探索しきれてないところもあるって」
鉱山に入ろうとすると、一鉄たちを呼び止める声が辺りに響き渡った。向こうから走ってくるのは、大きなバックを背負った少年。
「待ってぇや、一鉄!俺を置いていくなんてひどいで!」
少年は一瞬で一徹たちに追いつく。
「何だ、平一郎か。てか、声かけてないのになんで来たのさ?忙しそうだったし」
「鉱山なんかおもろそうやん。少しでも金の匂いがするなら俺はどこでも駆けつけるで」
乾平一郎。大企業の御曹司と言われる人物で、類まれなる商才を持っている。手先がかなり器用なので、理容師免許など幅広い資格も習得している。
「ちゅーわけで、案内頼むで、一鉄!」
一鉄は「全く…」とつぶやきつつ、少し笑みを浮かべながらはしごを降りる。向日葵はスカートで来ていたので、功や平一郎に「上見ないでね」と念押ししてうるさかった。
「そう言われると…見てみたくなるもんやなぁ」
「平一郎くん、向日葵に殺されるよ」
功は静かに告げた。
梯子を降りると、入口にはトロッコが見えた。しかし、錆がこびりついており、長らく使われていないようである。一鉄は違和感を感じた。
「トロッコは直さないのかな」
違和感を胸に、一鉄は松明を取り出し、鉱山の中へと入った。
鉱山の中は入口よりも更に炭臭く、壁には石炭から出たであろう煤がたくさんついていた。壁にはつるはしの跡があり、所々に掘りたての石炭が置かれていて、この鉱山が現役であることを証明している。一方、平一郎は煤を吸い込み、苦しそうにしている。
「そういえば俺、喘息持ちだったわ…」
「なんで来たのさ…」
平一郎は息をヒューヒュー鳴らしながら、一鉄たちとともに進む。その隣には、先程のトロッコの沿線が奥へと続いている。一鉄はトロッコがいつから使われていないのか、使われていない理由は何なのか疑問に思った。
歩き始めてから30分、入口からの距離が2キロを超えたところで、つるはしの跡が急に古いものになった。足元に石炭や鉱石は見当たらない。
「この辺は採掘に使われていないっぽいな。確かに、トロッコが使えない以上、あまり遠くで採掘すると、鉱石が運べないしな」
「功、なんか出てきたら私を守ってよ?」
「向日葵なら多分なぎ倒せると思うよ…」
一鉄が鉱山内で思考を巡らせる中、向日葵や功はいつものように互いにふざけ合っていた。一鉄はそんな二人を見てくすっと笑った。その時、平一郎が何かを見つけた。
「一鉄!なんか変な石見つけたで!」
その石を渡されると、一鉄は目を見開いた。
「これ、鉄鉱石だ!今までなかったのに…」
一鉄は加工のスペシャリスト。そのため、金属などの素材にも詳しい。一鉄は一つの仮説を導き出した。それは、ヴィラージュたちは放置されていた鉱山を再利用していること、そしてここではもともと鉄鉱石が採れたが入口付近では採り尽くされてしまったというものだった。
「へぇー。つまり、村の中では鉄鉱石が枯渇しているかもってことやな。ええやん、これはビジネスチャンスやで!」
平一郎は、この鉱山の可能性に目を輝かせた。
鉱山に突入して35分ほど経つと、向日葵と功に疲労の色が見え始めた。本来は稽古の後に昼食をとるはずが、二人はそれをスキップしてしまったので、空腹がひどいことになっている。
「はぁはぁ…お腹すいた…。でも、お宝も気になる…」
「止めといたほうがええで、向日葵ちゃん」
「僕と向日葵はもう帰るね。方位磁針ちょうだい」
功は向日葵をおんぶし、二人に別れを告げた。
そこから少し進むと、二人の前に分岐が現れた。トロッコの路線は両方に続いており、足元には進行方向を切り替えるレバーがある。平一郎は試しにレバーを押そうとしたが、やはり錆でびくともしなかった。
「何やこれ、修理せんのかいな」
一鉄が看板を読むと、それぞれの道で採れる鉱石が記してあった。どうやら、右の道では鉄・銅・アルミニウムが採れ、左の道では金・銀・鉛が採れるらしい。他にも文字が記してあったが、かすれがひどくて読めなかった。
「よし、右の道に行くぞ」
「なんでや!左行ったら金採れるんやで!左行こや」
平一郎は駄々をこねたが、一鉄は背中を掴んで右の道へと進みだした。たくさんの金属が眠っているからか、一鉄は心を躍らせていた。




