2話
大きく物語が動くことになります。
給食が終わり、残り二限の授業を終えると、天才たちにとって最高の時間が始まる。部活の時間。自分たちの「個性」磨きの時間だ。スポーツが得意な者はその競技に没頭し、勉学が得意な者はその教科の研究を行う。また、実技系の部活もあり、様々な作品や料理を創る事もできる。
部活の時間になると、向日葵たち四人は道場へ移動する。向日葵と功は、テコンドーや空手などの格闘技に取り組み、撫子はダンス、隆之介は剣道や柔道を磨いている。
部活の時間が始まると、早速、向日葵と功の手合わせが始まる。競技はテコンドー、互いに装備を身につけ、拳や足を繰り出す。
「はぁ!やぁ!」
向日葵の足技は見事なもので、体を撓らせ、功の防御を崩していく。功も負けておらず、向日葵の攻撃を受け流し、反撃の隙を狙う。
「いま!」
功は、向日葵の足技が大ぶりになったタイミングで、全身全霊の蹴りを放った。しかし、それは向日葵のフェイントで、功の蹴りはかわされてしまう。向日葵はにやりと笑い、功にとんでもない威力の踵落としを叩き込んだ。次の瞬間、終了の合図が鳴り、向日葵の勝利で手合わせは終わった。
「いや~、テコンドーじゃ向日葵に勝てないや」
「えっへん!これで八十八勝目だね!」
「柔道では負けないからね!」
「望むところだよ!」
向日葵は互いに実力を高め合う、良いライバルである。天才たちは互いをライバルとして認め合い、切磋琢磨している。
向日葵と功が雑談しつつ休憩していると、隆之介と撫子が二人の元へ、訪れてきた。二人とも汗びっしょりで、首にタオルを掛けていた。
「おつかれ!功、向日葵には勝てたか?」
「今日もだめだった…。隆之介の方は?」
「結構いい感じだと思う。今度の大会で、負けるわけにはいかねぇからな」
隆之介と話し、功は元気になった。今度は功の方から、柔道での手合わせを提案する。向日葵は
「次も負けないよ」
と告げ、柔道着に着替えるべく、更衣室へと向かった。功も更衣室へと向かう。隆之介と撫子がふたりきりになると、隆之介は質問をした。
「そういえば、ダンスは何してるんだ?バレエだったか」
「うん。コンテストが近いからね。減量とかがきついけど頑張ってるよ」
「そうか。見に行ってもいいか?応援させてくれ」
「いいよ!」
隆之介と撫子も、得意分野は違えど、とても仲が良い。幼なじみだけではなく、ギフテッドならではの苦悩や苦労も、互いに理解できるのであろう。
しばらくすると、柔道着を身にまとった二人が、隆之介たちの元へと帰ってきた。功は隆之介に審判をお願いし、畳の上に立つ。向日葵も深呼吸をした後、試合の準備をする。
「用意は良いか?」
「うん!」
二人の息ぴったりな返事に、隆之介は吹き出しそうになった。
「はじめ!」
合図が鳴ると、二人は一気に距離を近づけた。柔道着をつかもうと、互いに腕を繰り出す。初手は功で、向日葵の柔道着をつかみ、一瞬にも満たない時間で巴投げを繰り出した。向日葵は必死に体を捻り、背中がつかないようにする。
「技あり!」
これをもう一回取れば、「合わせ一本」で功の勝ちになる。
「技ありか…。まずい」
功は優位を取っているはず。しかし、漠然とした不安があった。そして、向日葵の目は、まだやる気に満ち溢れている。
「向日葵に同じ手は通用しない。どうしようかな」
二人がはじめの位置に戻ると、再び始めの合図が出される。激しい打ち合いの末、柔道着を取ったのは、功だ。功は素早く両足をとり、双手刈を試みる。だが、向日葵は足をどっしりと構え、
「やああぁ!」
と大きな声を張り上げ、俵返で功の背中を完璧に床へとつけた。
「一本!勝者、向日葵!」
「やったー!」
よっぽど嬉しかったのだろう。向日葵は試合終了の挨拶もせず、その場で飛び跳ねていた。
「巴投げで一本取ろうと思ったんだけど…やっぱり向日葵はすごいや」
向日葵の実力を素直に認めた功だが、やはり悔しいのか、その場で地団駄を踏んだ。ちょうどその時、部活終了十分前のチャイムが鳴った。隆之介は功の肩をポンと叩き、向日葵たちの道場を後にする。撫子もそれについていった。向日葵は半ば放心状態になっている功に右手を差し出し、
「また明日もやろうね」
をにっこり笑った。功はその右手をがっしり掴み、
「うん!」
と笑顔で答えた。
この後、お風呂に入って汗を流した後、食堂で晩ごはんを食べる。晩ごはんの後、三〜四人の個人部屋に移動し、一時間半の学習時間が始まる。この時間で、一日の学習の復習をし、明日の授業やテストの準備をする。この時間に他の部屋へ行くと、罰当番が待っている。そのため、厳粛な雰囲気が求められている。
「隆之介…また勉強教えてよ…」
「また来たのか…早く帰れよ。先生に怒られるぞ」
向日葵は、廊下をこっそり歩き、窓と窓を飛び移ることで、隆之介の部屋へと侵入していた。まるで忍者のようである。隆之介はうんざりとした顔で、深くため息をつく。
「まぁ、いいじゃん。向日葵ちゃんに勉強教えてやりなよ」
「そうだぞ。モテる男の義務だ!」
ルームメイトによる囃し立てに、隆之介のイライラ度がどんどん高まっていく。そして、そのイライラをぶつけるがごとく、向日葵をひょいと持ち上げ、
「もう二度と来んなよ」
と吐き捨て、窓から放り投げた。そこは一階であったため、向日葵に怪我はなかった。しかし、向日葵が落ちる音に先生が反応し、向日葵は無事、罰当番の刑に処されることとなった。
翌日、またしても遅刻ギリギリになった向日葵はひどく落ち込んでいた。
「どうしたの?」
「あっ、功聞いてよぉー。昨日ね、隆之介の部屋に行ったらね、隆之介が私を窓から放り投げたの。それで、先生に見つかっちゃって…今日から十日間、罰当番だよぉー」
その話を聞いた功は、とある方向に指を指した。その指の先には、隆之介。向日葵は、口笛を吹いてやり過ごそうとしている隆之介の元ヘ行き、何回もローキックを繰り出した。
「痛い!痛いって!分かったよ!窓から放り投げたのは悪かった!だから蹴るのやめろ!」
隆之介の謝罪を聞いた向日葵は、満足した様子で、自分の席にちょこんと座った。
1限目の国語が始まり、先生による朗読が始まる。向日葵はいつものようにあくびをしながら、ぼーっと教科書を眺めていた。どのくらい時間が経っただろう、先生の朗読が終盤に差し掛かった時、突如、カタカタカタと音がなり始めた。そして、教室全体が大きく左右に揺れだした。
「キャァッーーー!」
「地震速報なんて鳴ってないぞ!」
揺れの大きさは、震度7に迫る勢いだった。普段冷静な隆之介も、同様を隠すことができない。二十秒ほど経つと、なんと教室の中心に大穴が空いた。その穴を中心に暴風が吹き、生徒たちは次々に吸い込まれていく。
「先生!」
「待ってろ、今助けるからな!」
向日葵は偶然か必然か、いちばん最後まで残っていた。腕を限界まで伸ばし、先生の手をつかもうとする。しかし、奮闘虚しく、向日葵までもが大穴に吸い込まれてしまう。次の瞬間、大穴は消え、教室にはその場で崩れ落ちる先生しかいなくなっていた。
次回から新章開幕。乞うご期待!