18話
その日の夜、千代子の呼びかけで緊急の話し合いが開かれた。千代子は村に耕作が見たような生物がたくさんいたこと、村の長が移住しないかと提案してくれたこと、移住した場合戦争に巻き込まれるかもしれないことなどを報告した。その話し合いには、悠玄組も参加していた。
「なるほど。ヴィラージュさんは俺達を受け入れてくれると。しかし、戦争に巻き込まれるというのは…どういう意味だろう」
「戦争」という言葉。これが琉太の判断を鈍らせる。
「僕は移住に賛成。海で漁ができるとか最高じゃん!」
「お主は黙っとれ、アーロン」
アーロンの呟きを塞いだのは、なんと耕作。実は、アーロンと耕作は犬猿の仲であり、目を合わせるだけで言い争いを始めてしまう。向日葵は隣の千代子に問う。
「ねぇねぇ、なんであの二人って仲悪いの?」
「あいつらは食べ物に対する愛がすごくてね。アーロンは魚、耕作は肉が好きだから、それが原因で対立してるのさ」
アーロンは目くじらをたて、耕作に掴みかかろうとした。しかし、琉太が間に入る。
「ここで喧嘩をするな。話し合いを潰す気か」
二人は「琉太が言うなら…」といった顔で、拳を下ろした。
話し合いを進行すると、琉太はクラスの中で賛成派と反対派が入り混じっていることに気づく。このままでは埒が明かないため、数決を採ることにした。
全23人の内、賛成は18人、反対は5人。一時は迷っていた琉太も賛成派に名を連ねた。一方、反対派の中でもひと際存在感を放っていたのは、悠玄組のリーダー、黒澤悠玄。
「お前は反対派か…悠玄」
悠玄は「フン…」と愛想のない返事をする。琉太と悠玄も、耕作とアーロンに負けず劣らずの不仲である。悠玄が一方的に嫌っている感じはするが。
「あら、あなたも同じだったのね」
「僕も悠玄くんの意見に賛成するよ」
悠玄組も悠玄と同じ意見らしい。
「お前ら、俺にこだわらなくてもいい。移住したいなら、『賛成に』手を上げろ」
悠玄は、なかなか自分の意見が言えないひまりや創のことを心配している。しかし、ひまりは首を大きく横にふる。
「私は悠玄に賛成する。移住すれば、研究とかしやすくなるかもしれないけど…私は数学だから」
ひまりの一途な思いに、エリーはニンマリする。その様子を、アーロンは気持ち悪そうに見ていた。
「そういえば、アンタはなんで反対なのよ」
「簡単だ。戦争が本当かどうか分からねぇ。どっちにしろお前らを巻き込むわけにはいかねぇだろ」
悠玄が反対していたのは、自身を慕ってくれる仲間を守るためだった。
「じゃあ、悠玄がみんなを守ればいいんじゃない?クライゼルさんも武器の修行をつけてくれるって言ってたよ」千代子が呟く。
「それはそうだが…」
「ハイハーイ!ボク、千代子ちゃんにさんせー!ボク、やっぱり村で研究したい!クライゼルさんの見た目とか気になるし!」
美猫の発言を皮切りに、コルチも手のひらを返す。
「そうね…私も研究したいし、やっぱり『賛成』にしようかしら」
悠玄はひまりと創の方をちらっと見る。
「私は…悠玄の意思に…従う…」
創もひまりに頷く。しかし、悠玄は分かっていた。ひまりは自分の意見に賛成するだけでなく、移住に不安を感じていると。悠玄はひまりの隣に座り、その目を見る。
「ひまり。お前のことは俺が守る。だから一緒に行こうぜ」
「うん…。悠玄が守ってくれるなら…」
二人の仲良しぶりに、話し合いの場が静まり返る。コルチはいやらしい笑みを浮かべながら、ひまりを肘で小突いた。
「アンタ、いつの間に悠玄と進展したの?」
「べべっべべつにしてないよ!」
悠玄はひまりの様子を見てくすっと笑った。そして、琉太と目を合わせ、宣言を口にする。
「琉太、悠玄組は移住に賛成する。俺としては不本意だがな」
自身の気持ちよりも仲間の気持ちを最優先する悠玄の言動。これが悠玄組ができた理由であろう。
「そうか。俺達はヴィラージュさんのところに移住するぞ!」
琉太は拳を突き上げ、高らかに宣言した。
そこから1週間後の朝、各自荷物をまとめた後、テントも片付け、向日葵たちは広場へ集合した。琉太の話によると、偲が先に村へ赴き、事情を説明しているらしい。
「準備も整ったことだし、出発するぞ」
向日葵たちは琉太を先頭にして一列になって進み、一日目で広葉樹林の途中まで移動を終えた。二日目の午前に草原に到達し、そこから丸二日かけて針葉樹林の目の前まで移動した。三日目の午後に針葉樹林に突入すると、クラスが騒がしくなる。
「アーロン!アーロン!前歩いてよ!」
「桜花が前が良いって言ったんだろ!今さらカラスにビビってもだめだよ。ホラ、姉ちゃんもニコニコしてないでなにか言ってよ!」
「だって、怖いものは怖いし…ってキャアアアアァァァァ」
クラスの中で一番うるさかったのは、アーロンと桜花だった。アーロンは仕方なく桜花の前を歩き、桜花はその背中を掴んで進んだ。
四日目の朝になり、そこから半日歩くと、琉太たちの前に光が見えた。琉太たちは急いで針葉樹林を抜けると、その前に現れたのは、
「ようこそ、魔族の村へ」
ヴィラージュとクライゼルだった。琉太は頭を深く下げる。
「本日からお世話になります。土佐琉太と申します」
学校を離れてから1ヶ月半、向日葵たちは新たな生活を掴んだ。そして、この移住が向日葵たちの運命を決定づけるものとなる。




