14話
久しぶりに月曜日に更新することができました。
向日葵たちが歩きだしてから一時間弱、山の傾斜がかなり急になってきた頃、琉太の前に「山頂」と書かれた看板が現れた。その先では、木と木の間から、青々とした空が顔をのぞかせている。
「いよいよか…」
「なーんか緊張するね…」
琉太たちは山頂へと足を踏み入れると、
「おぉ…」
「うわぁ~」
朝日を浴びて萬緑に輝く山林が、琉太たちの目に飛び込んだ。山頂は辺りがよく見えるように、周りの木々が薙ぎ払われている。山林から吹く風が、向日葵たちの髪を優しく巻き上げる。琉太はその絶景に心躍らせながら、懐から双眼鏡を取り出した。どうやら、こちらも葉月から借りたものらしい。
「さぁここから何が見えるか…」
琉太は倍率を調節しながら、山頂から見える景色の端から端までをじっくりと見渡す。その間に、向日葵たちは山頂を軽く探索していた。
「功、見てみて!ナナフシ!」
「へぇ〜。始めてみたかも」
向日葵と功は相変わらず。隆之介、エリーは森の中に入り、鬱蒼とした険しい道を歩くことで、トレーニングを行っているようだ。
「琉太〜。なにか見つかった?」
「待てアーロン。あと一時間だ」
「長いって…」
そんな会話を何回か繰り返し、アーロンがうんざりし始めたその時。突然琉太が、
「むっ!あれは!」
と大声で叫んだ。普段無駄に騒いだりなどしない琉太からは、想像もできない大声で、アーロン以外の四人もすぐに再集合した。
「んで?何が見つかったの」
「あれを見てみろ」
アーロンは双眼鏡を覗くが、琉太が指差す方向には何も見えない。
「何も見えないけど…」
「もう少し上だ」
言われるがままに、アーロンが双眼鏡を上に向けると、
「ん…何あれ?」
なんと、多くの建物が密集した村のようなものが見えたのだ。向日葵は「見せて見せて」とつぶやき、アーロンから双眼鏡を奪い取る。
「ホントだ!」
続いて、功、隆之介、エリーもその村をしっかりと目視した。
「確かに…あれは村だな。人がいるかはわかんねぇけど」
隆之介は驚きを隠しつつ、冷静に状況を分析する。
「今から急いで下山すれば、日が落ちる前に帰れる。早くみんなに報告しなければ」
琉太は、早くみんなに村の存在を伝えたいようである。隆之介たち五人はそれに賛同し、その日のうちに広場へと帰還した。
翌日の朝、琉太はみんなを集め、山頂で村らしきものを見つけたことを報告した。希望を見出す者、危機感を感じる者、興味がなさそうな者など、反応は様々だった。
「村らしきものか…。琉太、アンタはどうすんだい?」と千代子。
「もちろん、訪れるつもりだ」
「…アンタならそう言うと思ったよ」
千代子は、琉太の返答をある程度予想していた。双眼鏡でないと見えない距離まで歩くということは、体に多大な負担がかかる。クラスのためなら自分の体でさえも厭わない、それが琉太だ。
「琉太。アンタこれ以上働くと、体壊すよ」
「十分に休みを取ってから、行くつもりだ」
二人の言い合いで、場の空気は一気に引き締まる。向日葵や一鉄は仲裁に入ろうとするが、二人の真剣な表情に圧倒され、言葉が詰まってしまう。
「お前がなんと言おうと俺は学級委員だ。みんなの生活をより良くするために、動かなければいけないんだ」
琉太の言葉が強くなる。
「アタイだって学級委員だ。アンタほどじゃないけど交渉もできる。それに今アンタが倒れたら、クラスを引っ張っていく存在はいなくなるよ」
琉太の言葉を受けて、千代子の言葉が更に強くなる。互いに一歩も引かず、話し合いが硬直状態になったその時、一鉄が口を開いた。
「俺は…千代子ちゃんに賛成。琉太の気持ちも十分分かるけど、体壊すって分かって行くのなら、行かせられないな」
琉太は言葉が詰まる。そして、再び場の空気は重苦しいものになってしまった。そんな状況を見て、それまで黙っていたアーロンが、琉太の背中をぽんと叩いた。
「そんな深刻にならなくていいって。要するに、働き過ぎだから安めってことだろ。誰にだって休みは必要さ」
アーロンの空気を読まない行動に、琉太は思わずほくそ笑む。
「そうだな。俺にも休みは必要だな」
アーロンもニカッと笑い返した。
「じゃあ、村に訪れるメンバーは、アタイと…」
「ロペスじゃないか。村の奴らが日本語を使うかも分からないしな」
今まで端っこで話を聞いていたロペスは、思わず体をビクッと震わせた。ドラミニ・ロペス。主要言語のスペシャリストで、使用できる言語は20にも及ぶ。このクラスの中では珍しく、内気な黒人の男の子である。
「僕…ですか…」
「あぁ。相手がどんな言語を喋ろうと、お前なら対処できると思ってな」
「でも...僕は戦闘もできないし…。大して役に立ちませんよ」
琉太がロペスの正面に立つも、ロペスは下を向いて目を合わせようとしない。
「遠出するのが怖い?」と千代子が聞くと、ロペスはこっくりとうなずいた。
「大丈夫だよ。ちゃんと武道に秀でたやつを連れて行くから」
「じゃあ…僕も行きます」
ロペスの合意を得ると、琉太がつぶやいた。
「護衛は必要だもんな。隆之介もエリーもだめとなると…偲か…?」
すると、突然琉太の真横から、
「呼びましたか?」
落ち着きのある澄んだ声が聞こえた。もちろんロペスもエリーも喋っていない。
「うぉ、偲か…。相変わらず神出鬼没だな」
服部偲。忍びの一族の末裔であり、その瞬発力は校内随一だった。学校時代には、陸上などの競技で活躍し、隆之介やエリーとよく手合わせをしていた。
偲は千代子から全ての事情を聞かされた。偲は胸に手を当て、「承知しました」と返答をする。すんなり了解する偲を見て、アーロンが物申す。
「偲ちゃん。今回はかなりの遠出だよ。もしかしたら可愛い顔に傷がついちゃうかもしれないし、もう少し考えてみたら?」
言い方はいつも通りだが、アーロンなりの気遣いが垣間見えた。しかし、偲は表情を一切変えずに、
「お気遣いありがとうございます。でもわたしの役目は皆様を守ることなので」
と答えを返した。淡々とした返答に、アーロンたちは静まり返る。
「…じゃあ村に行くメンバーはこの3人でいいね」
千代子の発言に、琉太たちは頷く。こうして、遠征隊のメンバーが決定した。




