13話
翌日、一番に目を覚ましたのは、隆之介とエリーだった。二人はそれぞれのテントから、同時に顔をのぞかせ、互いに挨拶をした。そして、無言で食事をする。朝ご飯はもちろん栃の実だ。二人がそれぞれのタイミングで食事を終わらせると、隆之介が口を開いた。
「暇だな…」
「暇ですね…」
互いに顔を見合わせず、そっぽを向いて話す。
「一番最初に琉太が起きると思ってたが…お前が最初だったか」
「いえいえ、隆之介さんが先でしょう」
二人は、謎の譲り合いを見せる。
「隆之介さん…手合わせしましょうか」
「あぁ。その言葉を待っていたぜ」
ここで、二人は初めて互いに顔を見合わせる。その口角は、ニヤリと上がっていた。特にエリーは、昨日のほほえみとは違い、まるでこれからフェンシングの試合が始まるかのような、破格の笑顔を見せていた。
「おはよう。ってなんで二人とも剣を…」
準備体操をしていると、アーロンが顔をのぞかせた。
「ちょうどよかった。これからちょっとした決闘が始まるのよ」
「絶対ちょっとじゃないでしょ…」
いつもは、ハイテンションなアーロンをエリーが止めているが、今回ばかりは立場が逆だ。
「お前はどっちを応援するんだ?」
「うぇー。どっちにしようかな」
「どっちにするの!」
自分を応援してもらおうと、二人はアーロンに詰め寄る。アーロンは動揺しながらも、
「おぉ…。いつも二枚目なのにモテないアーロン様が、ここに来てモテるように…」
と独り言を漏らした。しかし、それは聞こえていたようで、二人はスッと元の位置に戻った。
「おはよー。二人とも何してるの?」
「おっ、向日葵ちゃんおはよ。今日もかわいいね」
「アローン黙って」
向日葵は眠そうに目をこすっている。
「隆之介と姉ちゃんが手合わせするんだって。向日葵ちゃんはどっち応援すんの?」
「えぇ〜。昨日隆之介に怒られてムカついたから、エリーちゃんかな」
「何だその理由!」
隆之介が鋭いツッコミを入れる。向日葵は幼馴染に対する失言が多いので、隆之介にとって、ツッコミは慣れてしまったものである。
「そろそろ始めましょうか」
エリーは右手にレイピア、隆之介は両手に木刀を構える。
「それじゃあ、始め!」
アーロンの合図とともに、両者が同時に踏み込む。5mほどあった距離は一瞬で縮まり、両者は剣を交えるかに思われた。なんと、隆之介との距離を縮めた瞬間、エリーはレイピアで鋭い突きを繰り出したのだ。初見殺しの一撃。しかし、隆之介はそれをサイドに躱す。
「何回お前とやってると思ってんだ!」
そのまま隆之介はレイピアの懐に入り、木刀の鍔を押し当て、鍔迫り合いに持ち込んだ。エリーはなんとか持ちこたえるも、力では隆之介に敵わない。徐々に体勢を崩していく。
「やべえ、姉ちゃんがピンチだ」
このまま勝負がつく。アーロンはそう思った。だが、エリーはここで、自身の身体とともにレイピアを大きく後ろに引いた。
「なにっ!」
体重をかけていた隆之介は、前に体勢を崩す。エリーはその隙にレイピアの鍔を使って、木刀を絡め獲った。隆之介は丸腰になり、エリーはその首元にレイピアをかざす。
「勝負ありですね」
「くっそ〜」
こうして、二人の手合わせはエリーの勝利で終わった。隆之介はエリーの手を取って起き上がると、
「驚いたぜ。まさかレイピアにあんな使い方があるなんてな」
と驚きを素直に口にした。
「ふふっ。お母様から教わったバリツの裏技です」
エリーは得意げな顔で言った。ちょうどその時、琉太と功がその場に現れた。琉太と功は急いで朝食を済ませ、出発の準備をする。向日葵たちもテントの片付けを始めた。
数分後、2つのテントは綺麗にまとめられ、隆之介の背負うバッグにピッタリ収まった。琉太は方位磁針を使いつつ、山頂までの道を確認する。
「今日は山頂まで行くぞ」
「何が見えるか楽しみだね」
焚き火を消し、琉太を先頭に向日葵たちは歩き出す。そして、山頂で発見したものが、向日葵たちの運命を大きく狂わせることになるとは、向日葵たちはまだ知らなかった。




