1話
壮大な物語の始まり始まり〜。
天際ヶ丘高等学校付属中・小学校。この学校は世界で唯一のギフテッド専門学校である。全寮制で、コミュニケーションが苦手になりがちな天才たちには、いい刺激になっている。
そんなある日の朝、ほとんど誰もいないはずの女子寮の廊下には、ドタドタと大きな音が響いていた。
「やばいー!また遅刻だよー!」
廊下を走りながら、食パンを口に頬張り、さらに髪を梳かすこの少女。この少女こそ今作の主人公、花巻向日葵である。天才であることに間違いは無いはずだが、遅刻してばかりで、ちょっとした問題児でもある。
髪を梳かし、歯を磨き、授業の準備を終えた向日葵は、食堂のおばちゃんに「言ってきます」と告げ、女子寮を飛び出た。時刻は午前八時、ホームルームの二分前だ。
急いで建物を移動し、靴を履き替え、校舎の廊下をものすごい勢いで駆け抜ける向日葵。中学校の校舎の二階、生徒玄関の一番近い階段から一番目の教室、2年A組の教室のドアを息切れ状態で開ける。その瞬間、ホームルームのチャイムが鳴った。
「へぇ…へぇ…間に合った…」
向日葵は久しぶりに遅刻しなかったことに安堵する。
「『間に合った』じゃないぞ、向日葵。もう少し早く登校しなさい」
「ギクッ」
束の間、向日葵は担任の先生に注意される。なんとも言えない表情を醸し出し、向日葵は自身の席に座る。そのままホームルームが始まり、向日葵は一人でカバン片付けをする。
「向日葵、遅刻はだめだよ。もっと早く起きないと」
「だって、目覚まし時計かけても、朝起きたら壊れているんだもん!功!」
この少年は水鳥川功。向日葵の一番の親友で幼なじみでもある。
「撫子も、昨日起こしてっていったじゃん」
「何回もドアをノックしたけど、向日葵起きないもん。先に登校しちゃった」
このスラッとした背丈の少女は、鷲見撫子。
「向日葵、前までは起きれたじゃねえか。もっと稽古を早く切り上げたらどうだ?」
撫子の隣の、撫子よりも更に大きい少年は、御影隆之介。これら四人の少年少女は、皆類まれなる才能を持っていて、幼なじみである。
ホームルームが終わり、授業が始まる。一限目は数学の授業、連立方程式を行うようだ。問題が配られ、生徒たちはそれぞれのペースで問題に取り組む。
「向日葵、わかる?」
「うーん…何一つわからない!」
「えぇ…この前も同じ問題いっしょにやったじゃん」
功は呆れ顔で、向日葵に鉛筆を握らせる。功が去った後、向日葵は問題用紙をじっと見つめていたが、数分後には絵を描き始めていた。そんな様子を見て、隆之介と撫子はため息をつく。
また、二限目の理科では、テスト返しが行われた。
「花巻向日葵」
名前を呼ばれた向日葵は、ドキドキと心臓を鳴らしながら、答案用紙を取りに行く。
「もう少し頑張れ」
その答案用紙は、
「えぇー嘘でしょ!勉強頑張ったのに!」
見事なまでのゼロ点だった。しょんぼりした顔で席に座ると、背の高い隆之介は、上からひょいと答案用紙を取る。
「おい、なんでゼロなんだ。この前勉強教えてやったろ」
「だって隆之介、早口だから何言ってるかわかんないんだもん!」
「でもさ向日葵、学習時間のときも、五分ぐらいやって遊びだしちゃうじゃん。自業自得だよ」
撫子の追撃に、向日葵はそっぽを向いて拗ねる。功が肩をポンと叩き、フォローを入れる。向日葵はほっぺたを膨らませたままである。
嫌な勉強時間が四限過ぎると、みんなお待ちかねの給食が始まる。この学校の給食は、資格を持つ生徒が主体となって考えている。そのため、栄養バランスを整えつつ、学生たちの舌を満足させるという、非常に難儀なことを実現している。それは向日葵も例外ではない。
「やったー!今日唐揚げじゃん!」
「でも、ピーマンの炒め物もあるよ」
向日葵は「ゲッ」という声とともに、頭を抱えてうめき声を上げる。
「うぅー、ピーマン食べたくないー」
撫子はそんな向日葵の腕を引っ張り、食堂へと連行する。よっぽどピーマンが食べたくないのか、向日葵はいつにもまして抵抗しようとする。しかし、抵抗も虚しく、気づいた頃には食堂の席へつき、給食が並べられていた。
「嫌だー。嫌だよー。撫子、代わりに食べてよ」
「そんなこと言ったら、食堂のおばちゃんがまたキレるよ」
向日葵は好き嫌いが多く、前におばちゃんに怒られている。そのトラウマが蘇ったのか、向日葵はピーマンを一気に平らげ、満面の笑みで唐揚げを頬張った。
「おいし〜!」
しばらく連載するつもりなので、最後までお付き合い頂ければ幸いです。
よろしくお願いします。