STORIES 018:パンドーラーが残したもの
STORIES 015
彼女が僕のアパートに泊まりにくるようになると、少しずつ彼女のものが増えていった。
といっても、着替えのシャツとか肌寒いときに羽織る上着とかとか、そんな程度。
せいぜい、中くらいのダンボールに収まるくらい。
誰かが訪ねてきたときに、彼女の下着やなんかを見られてもイヤなので、押入れの中には納めるのだけれど…
ひとり暮らしの部屋は、部屋自体も収納も狭い。
自分の洋服が詰まったタンスには余裕がないし、本当にダンボールに入れて、というのもなんだか、ね。
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そんなわけで、池袋のロフトあたりで適当な収納ボックスを探すことにした。
今なら100均で探しただろうか。
ただの押入れ収納用だし、こだわりはない。
だから、あまり迷うこともなく…
油絵の果物かなんかがプリントされた、手頃なサイズ感の蓋付きのものを選んだ。
こうして、彼女専用の収納場所が用意される。
ただの箱なんだけれどね。
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ここに置いていくものは、この中に収まる範囲でお願いします。
彼女は笑いながら、たたまれた服や小物を収めていった。
その頃、僕らは歩いてすぐの距離に住んでいたので、彼女は帰ろうと思えばいつでも自分の家に戻れた。
つまり、泊まったり着替えを置いていったり、それは気分的なもので…どうしても必要なわけではない。
特に洗濯物なんて、自分の家に持って帰ればいいだけなんだけれどね。
でも彼女は、鼻歌を歌いながら…
洗い終えたTシャツや下着なんかを、僕の部屋の隅に干し、そのまま残していく。
一緒に住んでいるわけでもないので、乾いた洗濯物をたたんで片付けるのは僕の役割になってしまう。
なんだかね。
オトコが女性の下着をたたむというのは、なんとも言えない気分になる。
恥ずかしいというか、不思議というか、ともかく友達には見られたくない光景。
アレは、我々オトコにとっては、なんというか神聖なものなので…
慣れないんだよね、いつまでたっても。
まぁとにかく、彼女専用の収納ボックスは…
中身が増えたり減ったり、時々入れ替わったりしながら、そこに自分の居場所を確保し続けた。
いつも同じ、押入れの左下に。
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ある日、彼女の収納ボックスは空っぽになった。
ハンカチひとつ残さないように点検される。
手提げ袋に移された中身は、彼女の家に届けられた。
冬の朝、何も詰まっていない収納ボックス。
いつかはこんな日も来るだろう。
少し前なら、そんな予感なんてまるで無かったのだけれど。
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ひとりの部屋で、蓋が閉められた彼女の収納ボックスを眺めていると…
まだ中身がたっぷり詰まったままのような気もしてくる。
もう一度、蓋を開けてみる。
もちろん何にもない。
下着もシャツも靴下もスウェットもスカートもジーンズもなんにもない。
空っぽ。
そこには…
思い出すらも残されていない気がした。