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第8話  【白面の魔女狩り①】

いつも読んで頂きまして、ありがとうございます。

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「おはようございます、麻生さん」


「おはよう、青山くん」


笑顔でお互い手を振り合う。

心が通じ合っている様で幸せを感じる。

今の私に見える景色は、全てバラ色に見える。

リア充って、こう言う感じだったんだ?とようやく理解出来た。

自分とは一生縁が無いと思っていたリア充生活。

1日でも長く感じられます様に、と毎日祈っている。


麻生さんと一緒に出勤し、テンションが上がったのを維持したまま仕事をするとはかどる。

お昼を一緒に食べて、午後の仕事もテンション高目でこなす。

帰りも一緒に帰り、毎回では無いけど食事をして帰る。

麻生さんは、おごられそうになると、「そんな事いつもやってたら続かなくなるよ?割り勘で良いよ。その代わり、特別な日にはご馳走してね?」と言った。

これだけでも、麻生さんの性格を知るには十分だ。

顔良し、性格良し、スタイル良しと3拍子揃っている。

最高の彼女だ。

私には勿体無いほどの彼女だ。

「生涯大切にする」結婚もしていないのに、心に誓った。


麻生さんと別れて帰ると、女性になって山下のアパートに向かった。

録画していた華流ファリュウドラマを一緒に観る事にしていた。


観ていたドラマの中で理解出来ない所があった。

まだ子供である皇太子に使える奴婢の男の子は、皇太子と同じくらいの年齢で12歳前後だろう。

前王朝の公女(お姫様)が遊牧民の王に嫁いでおり、前王朝を滅ぼした今の王朝に復讐する為に、クーデターを計画する中で、埋伏の毒として皇太子の元で仕えさせていたのだ。

ヒロインは皇太子の従姉であり、その恋人は遊牧民の王の義理の息子(血が繋がっていない)だ。

皇太子に使える奴婢の男の子が、ヒロインをおびき出し、忍び込ませていた兵士達が連れ去った。

それを取り戻す為に恋人は、兵士達を殺し、ヒロインは、皇太子の従者だから殺すと後々面倒な事になると言って救ったが、奴婢の男の子は「兵士を殺した言い訳をどうする?お前達が犯人だと言いふらしてやる!」と言って逃げると、ヒロインの恋人が、男の子の逃げる背中を狙って弓矢で射殺したのだ。

ヒロインの恋人は男主人公だ。

何の躊躇ためらいもなく子供を殺したのだ。

例え子供であっても悪事に手を染めた者は容赦しないと。

ヒロインも子供だから見逃してあげて、とは言わない。

殺されるのは当然だとばかりの態度を取るのだ。

日本であれば、例えドラマであっても子供を殺したりはしない。

例えがあれですが、例え反社会的勢力の方々でも、子供は見逃す。

日本人と中国人の考え方の違いをドラマから感じ取れるシーンだ。


「ちょっとひどくない?本当に主人公の2人なの?子供は見逃してあげましょうよ。信じられない」

山下に熱弁で語る。


「あははは」


「何がおかしいの?」


「えっ?いや、仲の良い会社の先輩と似ているなって思ってね。先輩もそうやって納得いかないシーンを語るんだよ」


「へ、へぇ…そうなんだ」


「この間のプールにも来てたんだぞ。麻生さんの彼氏だ」


麻生さんの彼氏…良い響きだ。

それにしても、中々鋭いな。

警戒心も緩緩ゆるゆるだったから、同一人物だと尻尾をつかまれない様にしなくちゃ。


「ドラマ観て怒ったりしないで」

背後からハグをされ、そのまま胸を触られた。

1度許すと、そこまでするのが当たり前になる。


「もう、エッチなんだから止めて」


「男なんだから、しょうがないよ」


正面に向き直されると、口付けをされてベッドに押し倒された。

服の上から胸をまさぐる様に触られ、今度は服の中に手を入れて下着の上から触ろうとして来たので、押しのけた。


「はい、もう終わり」

服の乱れを整える。


「もう遅いから泊まっていったら?」


「えー、だって襲われそうだもん」


「しないって約束だろ?」


「そうだけど…」


服の上からなら胸を触って良いと許したが、最近は下着の上から触ろうとして来る。

これを許すと今度は直接触ろうとして来るだろう。

1つ許すとそれだけでは満足せずに、段々とエスカレートしていくのは目に見えている。

だって私は本当は男なのだから分かる。

麻生さんにも同じ事をしようとするだろう。

キスもまだだけど。


山下とこんな関係を続けていてはダメだと思っている。

しかし、女性化した時の私の心は女性となり、山下が恋しくてたまらなくなる。

もはや理性だとか理屈などではない。

好きなものは、どうしようもないのだ。

もう自分でも神崎瑞稀を抑える事が出来ない。

記憶は共有されているが、完全に別人だと言える。


私は山下のアパートを出ると、考え事をしたくて珍しく歩いて帰った。

いつもは影の中を飛んで帰っているので、新鮮な感じがした。

女性の時の自分は逆に男の時の自分の事を考える。

山下と違ってあまりにも奥手すぎて、付き合ったものの、麻生さんの方が何も手を出されない自分に魅力が無いのか?と勘違いしないか心配した。


女性は自分から行くと、はしたない女と思われたく無いので、積極的に押されるとOKだったりもする。

男性は積極的な方が良い。

近年の結婚率減少の要因の1つは、草食系男子と呼ばれる風潮にも問題があると感じる。

女性は男性からのアプローチを待っているのに、肝心の男性からアプローチされないから、カップルが成立しない。

そう言う自分も麻生さんから告白して欲しい空気を出されて、勇気を振り絞ったなぁ。

人の事は言えないわ、と笑った。


ふと、何かの気配を感じ、立ち止まって振り返った。

しかし、誰もいない。

歩き出すと間違いなく、誰かの気配を感じる。

まさか付けられている?ストーカー?

今度は少し早歩きをした。

付かず離れず距離を保たれている。

もう間違いないと、確信して反転して走った。

すると、1人では無くて男が3人いた。


「何か用ですか?」


「美女に声かけられちゃったよ」


「馬鹿、見つかったの間違いだろ?」


「自分から声かけて来るなんて、自意識過剰だな。溜まってるんなら、俺達が相手してやるぜ?」


男達は話ながら移動し、私が逃げられない様に取り囲んだ。

私は張り紙をチラリと見た。

そこには「チカンに注意!」のポスターが貼ってあった。

後で分かった事だが、最近この辺りでは、婦女暴行未遂や強制わいせつ等の事件が多発していたらしい。


男の1人が背後から羽交締めにしようと飛び掛かって来たが、上空に飛んでかわした。


「こいつ飛行スキル持ちか?」

Sランク以上は飛行能力を持っているが、日本ではSランク1人と白面の魔女の合わせて2人しか確認されていない。

だからSランクだとは思わず、飛行スキル持ちだと考えたのだ。

まさか目の前の私が白面の魔女だとは思っていないだろう。


「降りて来い!」

怒鳴った相手を『光之拘束ライトバインド』を唱えて動きを封じた。


パーン!と音がすると、胸から血を流していた。

地上に落下して激しく身体を叩き付けられると、手足があり得ない方向に折れ曲がっていた。

動かなくなった私を彼らは、死んだと思い、拘束されてる仲間を見捨てて走って逃げて行った。

残された仲間を、殺人犯に仕立て上げるつもりかも知れない。

そう思うと憐れみを感じたが、犯罪者には違いない。


私は身体状態異常無効スキルがあるので、直ぐに身体が自動で回復する。

普通なら即死する様な目に合っても、不死のスキルで死ぬ事はない。

拘束している男のポケットの中から、スマホを取り出して通報した。

この時になって男は、私が白面の魔女である事を知った。


通報して、逮捕された犯人は、数日もすると刑務所から出て来た。

私が現行犯で捕まえたのに、証拠不十分だそうだ。

納得がいかない。



「有難う御座いました、兄貴」


「あの女、死んでなかったんだな?」


「はい。どうやら白面の魔女の正体だったみたいですぜ」


「だろうな。死体があったとニュースにならず、白面の魔女がお前を突き出したそうじゃないか。推測はつく。だが、これはチャンスだ。あの女は、犯罪組織の邪魔ばかりしているから、闇であの女は高額の懸賞金がかけられているんだ。しかも、情報提供だけでも良いと来てる。俺達は、あいつの顔を見てるからな。何処に住んでるか探るんだ」


「大丈夫ですか?あの女はSランクと言う噂じゃないですか?」


「なんだお前、女なんかにビビってんのか?」


「女なんか無理矢理、犯しちまえば言う事を聞く様になるさ。動画をばらかれたいのか!って脅してな」


「それに、この弾がある。こいつには貫通魔法が付与されている。1発しかないが、これで200万もするんだぞ。防御魔法でも防ぐ事は出来ない。いざとなったら、こいつで終わりよ」


「へぇ、この弾が200万もするんですかぃ」


「念の為に組織に連絡をしておけ!ここに連絡先が載ってる」


男達は、大金を手にしたら何をするかと、楽しそうに酒を飲んでいた。

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