第6話 【初めての共闘作業?】
明るい陽射しがカーテンの隙間から差し込み、部屋を照らす。
カーテンを開けると、本日は快晴だった。
天気が良いと心も晴れ晴れとする。
気持ち良く出勤した。
電車から降り、バスを待っていたが、なかなか来ないので、仕方なく歩く事にした。
会社に近づくと人だかりが出来ていて、立ち止まって先に進まず、前も人混みで見えない。
前にいる人に何かあったのですか?と尋ねてみると、会社近くの商店街で立て籠もり事件があり、警察が入れない様にロープを貼っているのだそうだ。
携帯を取り出し、慌てて会社に電話してみるが誰も出ない。
皆んな出勤出来ていないのかも知れない。
「ちょっとすみません」と言って前の方に進んで行くと課長を見つけた。
「課長!」
「おぉ、青山くん。今日は会社は定休日になったよ」
「そうですか。立て籠もりがあったとか?」
「そうらしいな。私も詳しい事は分からないんだが」
巻き込まれないうちに帰れよ、と言うと課長は人混みを掻き分けながら帰って行った。
「大変な事になった。こんな時こそ、白面の魔女の出番だ」
私も人混みを掻き分けて公園に向かい、多目的トイレで『女性変化』を唱えた。
そのまま『影の部屋』を唱えて、影の世界を移動し、立て籠もりの様子を伺うことにした。
女性用下着売り場で男2人が、立て籠もっていた。
『魔法箱』
箱の中から白面を取り出して装着した。
「さてと、行きますか」
影の中を移動して、人質の確認をする。
開店準備をしていたのか女性社員が1人、白いビニール紐で縛られている。
「酷い。あんな物で縛られたら痛いのに」
影の中から現れて、1人の男に『闇の拘束』を唱えて捕らえた。
もう1人にかけると躱されて、弓矢で射られた。
「うあっ!」
左脇腹に矢が刺さった。
2矢目を放たれたので、影の中に逃げ込んだ。
「うぐぐぐっ」
筋力が足りなくて刺さった矢が抜けない。
身体状態異常無効で傷が塞がっていく。
このままでは、矢も取り込まれたまま修復されてしまう。
痛みで意識が朦朧として来ると、山下の姿が見えた。
(何しにここへ?)
山下を影の中に引き摺り込んだ。
『影の部屋』は、術者が認めた相手を招待(影の世界に入らせる)する事が出来る。
「瑞稀!」
「お願い、矢を、矢を抜いて!」
「しかし、これは…」
「大丈夫、私は自動で傷が治るの。でも矢を抜かなきゃ…」
山下が力を込めると簡単に矢は抜けた。
彼のランクはAAAで、武闘家のスキル持ちだ。
「はぁ、はぁ、ありがとう。でも、どうしてここへ?」
「瑞稀が来そうな気がして、俺も手伝おうと思ったんだ。来て良かった。瑞稀のピンチを救う事が出来て。王子様みたいだったろう?」
「もう、こんな時に冗談は良して」
「正面から殴り込むか?」
「ダメよ、一瞬で弓矢を放たれたわ。あれはスキルなのか、魔法なのか分からないけどね。それに私は対物理攻撃障壁を張っていたのに、貫通したわ。危険よ」
「貫通スキル持ちか、厄介だな」
「犯人の要求って何なのかしら?」
「さぁな?それは警察が調べる事だ。俺達はあいつをやっつければ良い」
そう言うと白面を取り出して装着した。
「それって…」
「あぁ、白面の魔女グッズさ。1番のファンの俺が買ってない訳がないだろう?」
貴方って本当に…と、言い掛けると、立て籠もり犯に動きがあった。
「くそっ、何だこの黒いロープ。外れない。何処だ!出て来い!そしてこれを外せ!じゃないと、この女を殺す!」
全く、コテコテのお約束みたいな行動を取るな、コイツ。
でも出た瞬間に、心臓を射抜かれるかも知れない。
山下を前衛にする訳にはいかない。
不死の私が前に出ないと。
しかし、魔法使いが前衛で、武闘家が後衛なんて有り得ないパーティーでしょう?
山下の耳元で作戦を囁いた。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。万が一、私が射られても不死の私は死なないから安心して。でも貴方は違うから心配なの」
影の中から現れた私は、矢が刺さっている様に見せかけて、矢尻を握って苦しそうにお腹を押さえた。
既に傷は塞がっているが、血が服にベッタリと付いているので、犯人は信じきった。
「はぁ、はぁ、もう止めて投降して。私が死んだら、貴方は殺人犯になるのよ。今ならまだ間に合うわ」
「うるさい!そうなったら、この女も殺して俺も死ぬ!」
「自暴自棄にならないで。なんでこんな事をしたのよ?」
「この女はな、俺と一緒になると言ったから、離婚して結婚を申し込んだんだよ。そしたらな、ただのパパ活で、初めから金が目当てだったんだよ!」
(何だ、てっきり、社会に不満があるとか、お金目的とか、店に恨みがあるのかと思ったけど、その女性が目的だったのね)
「貴方には同情するけど、奥さんがいるのに若い女の子に夢中になったのも問題じゃないの?」
「だまれ!お前から殺してやろうか?」
弓矢を私に構えた。
そこへ背後から突然現れた山下に羽交締めにされて、抵抗して暴れ回った。
『光の拘束』
光のロープで犯人を拘束した。
山下は、犯人2人を私に託して姿を隠した。
私と同じ様に空を飛んで去る事が出来ないからだ。
私が商業ビルの入口のシャッターを開けて出て来ると、歓声が上がった。
待機していた警察に犯人を引き渡した。
山下は、いつの間にか取り囲んでいる群衆の中にいた。
私はウインクして、飛び去った。
その日のニュースを山下のアパートで一緒に見ていた。
TVに映っている私を見て山下は得意げだった。
彼の肩にもたれかかり、凍らせたフルーツを摘んで山下の口に運んだ。
「好吃吗?(美味しい?)」
「好吃!(美味しいよ!)」
口付けをされると、ヒンヤリとした舌が入って来て、その舌が温かくなるまで絡め合った。
「幸せって、こう言う事を言うんじゃないのかな?」
「俺といて幸せって感じてくれてるんだ?」
「うん…」
返事をすると、押し倒されて胸元を開けられ、首筋を舐められながら胸を触られた。
「あっ!ダメダメダメ。Hはしないって約束したじゃない?」
口付けされて、口を塞がれ言葉を遮られた。
「はぁ、好き過ぎる。挿入れる以外はOKって事じゃないのか?」
「まだ早いよ。それ以上されると泣いちゃう」
そう言うと、ポロポロと涙が流れて来た。
「ごめん。泣かすつもりは無かった」
私を抱き起こして、背中をさすりながら言った。
「本当に、ごめん。嫌いにならないで」
「嫌いにはならないよ。泣くつもりは無かったんだけど、涙が出ちゃって、ごめんなさい」
仲直りのハグはいつもよりも長く続いた。
涙を拭くと、「明日も仕事が早いから、またね」と言って、キスをして部屋を出た。
飛行スキルで自宅アパートの近くまで飛び、周囲に誰もいない事を確認してから部屋に戻った。
男に戻った私は、ベッドに腰掛けて頭を抱えた。
「どんどん深みにハマって行く…。女の私、何がしたいんだ?もはや多重人格レベルだ…」
女性化している間の感情のコントロールも出来なくなっているし、自分は男なんだと言う意識はあるのに、まるで透明な箱に入った男の自分を見下ろしているみたいな感じがする。
もう女性になるのを止めようかと、思い悩んだ。
「はぁ。泣かしてしまった。初めは付き合ってもらえるだけで満足だった。でも人の欲は尽きない。キス出来たら次は触れたくなる。触れた次はHしたくなるだろう。手に入った次は、失うのが、誰かに奪られるのが怖くなり、今度は他の男と仲良くしているだけで嫉妬に狂うに違いない。誰にも渡したくないと。それは心にゆとりが無く、自信が無いからだ。瑞稀が付き合ってくれていると言う事は、他の男よりも好きでいてくれているって事だろう。それを信用してない訳ではない。ただ自分に自信が無いだけなんだ。瑞稀が側にいてくれる幸せがいつまで続くのかと。結婚するまで操を守るって?もしかして瑞稀はクリスチャンなのかな?今度会ったら聞いてみよう」
瑞稀が去った後の玄関をぼーっと眺めると、頭を抱えて思い悩んだ。
2人の思いが交錯する夜が更けていった。
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