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第13話  【麻生さんの死】

 虚無の様な暗闇の中から薄っすらと目が開くと、灯りが差し込んで来た。

ここは天国か地獄か?あの世に着いたなら、麻生さんを追いかけなくてはと思い、ハッと我に返ると、見えていたのは白い天井だった。

人工呼吸器に繋がるマスクをし、身体中が何かのくだで繋がっている。

首を動かそうとしても動かず、目だけで周囲の様子を伺った。

(ここは…病室?)


「青山さん…?先生!青山さんが、青山さんが意識を取り戻しましたぁ!」

看護師さんが慌てて走って病室を出て行った。


(麻生さんは?麻生さんは、どうしたのだろう?助かったのだろうか?)


パタパタとスリッパの音が聞こえた。

瑞稀みずき瑞稀みずき!」


「お兄ちゃん!」


母と妹の愛蘭あいらが涙で赤く目をらして、顔を覗き込んで来た。

「あ…あ…」

麻生さんの事が聞きたいが、声が上手く出せない。


「お母さん、ちょっとすみませんよ」

医者らしき人が、母を後ろに下がらせて入れ替わった。

目を開かせてライトを当てたり、脈を見たり心音を測っていた。


「もう大丈夫、峠は越えました。彼の生命力の強さには感心しますね」


「先生、ありがとうございました。本当にありがとうございました」

涙を流しながら何度も母と妹は、医者に頭を下げてお礼を言っていた。


「あ、そ…さ。あ…そ、う…さ、は?」


「麻生さん?」

母と妹は顔を見合わせて言おうか迷っている風だった。


「大丈夫、もう少し良くなってからね?」


「お母さん、どうせ後で分かる事だから…」

母親は頭を振って言うなと、妹に合図を送っていた。


「お母さん!教えてあげた方が…。麻生さんって、お兄ちゃんの彼女だったの?」

首が動かないので、目で「そうだ」と答えた。


「お兄ちゃん、麻生さんは亡くなったのよ」


「止めなさい!」


「あれから3日経ったの。今夜がお通夜で明日がお葬式。出棺したら火葬にされるわ」


「止めなさい!身体だけじゃなく、心まで…うっ、う…」

母は言いかけると泣き出した。

妹は母の肩を抱いて病室を出て行った。


(麻生さんが、麻生さんが死んだ…。私のせいだ。私のせいで巻き込まれた。私のせいで…)


胸が引き裂かれるみたいに苦しい。

息も出来ないほどむせかえり、呼吸が苦しい。

涙が止めどなく流れ、まるで世界が終わってしまったかの様だ。

何で私だけ生きている?

どうして、あのまま死なせてくれなかったのだ?

文字通り涙が枯れるほど泣いた。


「待てよ…」

泣いて心が落ち着いて来ると、1つの事が頭をよぎった。

光魔法の最上級呪文に死者を蘇生する呪文があったはずだ。

SSSランクである自分しか使えない呪文だ。


『女性変化』

女性の姿に変身した。

衣装替チェンジ

動きやすく女性らしい服装に一瞬で着替えた。

魔法箱マジックボックス

白面の仮面を取り出して装着した。

『影の部屋シャドウルーム

影の中に沈み込む様にもぐって行った。

この様に連続で呪文を唱えた。


あまりにも焦り過ぎていて、この時は頭が完全に働いていなかった。

病室には防犯カメラがある事を。

重傷者の自分が突如病室から消えれば、消息を辿たどる為に必ず防犯カメラを確認されるであろう事を。


「麻生さん!ダメよ!」

着いた時は既に火葬のスイッチを、ご両親が押してしまった後だった。


「ダメよ!焼いてはダメ!」

火葬のシャッターを開けるボタンを押そうとして、火葬場の職員達に止められた。


「もう、業火に包まれてる。途中で火が消えないまま出す事は出来ないし、邪魔すると犯罪になりますよ?」

私は力無くその場に座り込んで号泣した。


「娘の為に、ありがとうございます」

ご両親が倒れ込んでいる私に手を差し伸べて、起こしてくれた。


火葬が済むまで1時間以上待つ事になる。

親族達の中に場違いな私が1人いるが、そんな事を気にする心の余裕は無かった。

手渡されたホットコーヒーが、今は冷たくなっている事にさえ気付かなかった。


麻生さんの親族の女の子が私に声を掛けて来た。

「お姉ちゃんって、白面の魔女さん?」 


「そうよ」


「佳澄お姉ちゃんのお友達だったの?」


「そうよ」

涙が込み上げて来て、再び泣いた。

女の子が私の頭を優しく撫でてくれていた。


火葬場の職員が呼びに来て、火葬ホールに集まる様に指示された。

棺桶は灰になり、骨だけになった麻生さんの姿を見ても、どこか非現実的で、信じたく無い気持ちでいっぱいだった。


今までこの呪文は死んだ直後に唱えていた。

死体、つまり肉体に対して唱えていた。

骨になった状態でこの呪文を唱えるのは初めてだ。

心の底から祈った。

麻生さん、生き返ってと。


死者蘇生リアニメーション!』

麻生さんの骨は白い光に包まれると、それは一瞬で肉体を再生した。


衣装替チェンジ

全裸の麻生さんに慌てて服を着せた。

身内とはいえ、男性が半分以上いるのだ、恥ずかしい思いはさせたく無い。

一瞬だったので、ほぼ裸は見られなかったはずだ。


麻生さんが目を開けたのは1分後だったと思うけど、何時間にも感じられた。

「良かった…」

麻生さんの首に抱きついて、泣いて喜んだ。


本当に、この能力を授けてくれてありがとうございます、神様。

正直、今初めて心の底から神様に感謝を伝えます。


麻生さんの親族達から、感謝され続けた。

私は病室を飛び出して来た事に対して、我に返った。

どう言い訳をする?

何せもうすっかり傷は、治ってしまっているのだ。

痕すら残ってはいない。


トイレに行ってたふりをして病室に戻ると、母と妹、医者と看護師、それから警察がいた。

やばっ、病室抜けたのが警察沙汰にまでなったのか?と思ったが、事情聴取に来ただけだった。


医者に別室に呼ばれると、母と妹もいた。

「青山くん、医者には守秘義務がある。だから警察にも当然言ってはいないから安心して下さい。貴方が病室からいなくなり、お母さんが大変心配なされてね?病室の防犯カメラで貴方の足取りを確認したんですよ。何が言いたいか、分かりますよね?」


私は溜息をついて、母と妹を見た。

「これは、例の声で得た能力なんだ」


『女性変化』

母と妹と医者の目の前で女性になった。


「お兄ちゃん?お兄ちゃんが白面の魔女なの?」


「そうだよ」


「うそっ!」


「でも誰にも言わないでね?それから、この姿でいる時は心もと言うか、中身は女性なの。だからお兄ちゃんがオカマになったとか思わないでね」


瑞稀みずき、傷は?傷はもうなんとも無いの?」


「私のスキルに身体状態異常無効ってのがあって、手足の欠損も身体状態異常と見做みなされて、すぐに治るの。だけど私の能力は女性にならないと何も使えないのよ」


「そうなんだ?えへへへ」


「どうしたの?愛蘭あいら


「嬉しいの。だって私、お姉ちゃんが欲しかったんだもん」


「じゃあ、今からショッピングにでも行く?」


「行く、行く!」


「先生、もう傷も治ってるし、退院しても大丈夫ですよね?」


「あ?あぁ」

前例にない事で、戸惑ったみたいだけど了承された。


「そう言えば先生。どうやって私は助かったんですか?」


「近くにこれが落ちてたのよ、お兄ちゃん」

そう言われて妹の手に握られていたのは、麻生さんから貰ったゲームキャラクターのコイン型ペンダントだ。


よく見ると、変形していた。

恐らく微妙に心臓の位置をズラしてくれたのだろう。

貫通魔法がかかっていても、軌道を変える事は出来る。

麻生さんが、私を救ってくれたに違いない、そう思うと込み上げてくるものがあった。


瑞稀みずき愛蘭あいら、お母さん退院の手続きして帰るけど、遅くならないようにね?」


「はーい、分かりました」

愛蘭あいらは棒読みで応えた。


麻生さんも生き返って良かった。

あっ!あのQTVの記者も生き返らせてあげなきゃ。

明日で良いかな?


妹の愛蘭あいらは、兄の自分が言うのも何だが、客観的に見ても可愛いと思う。

オタクな自分とは違って、いわゆる陽キャだ。

少なくとも中学生の頃から、彼氏が途切れた事が無いのではないだろうか。

32歳の兄に、24歳の妹。

麻生さんの1つ上ね。

とか思いながら並んで歩いていた。


「ねぇお兄ちゃん。ずいぶん若く見えるけど、女の子のお兄ちゃんって何歳なの?」


「うんと、ねぇ。20歳固定なのよ。年齢は」


「えぇ!う〜ん、そっか、そっか…あたしがお姉ちゃんなんだ」

変な笑みを浮かべて私の顔を見た。


「じゃあ、今からあたしが、お姉ちゃんね?」


「え?えぇ…」


「うふふ、あたし、妹も欲しかったんだぁ。こんな形で願いが叶うなんて」


妹は上機嫌だ。

まぁ確かに見た目が私の方が若いので、妹が私にお姉ちゃんなんて言ったら、周りは違和感しかないだろう。


「うわぁ、めっちゃ可愛いねぇ。美人姉妹だ。ねぇ、お兄さん達と一緒にお茶しない?」


金髪のお兄さんと、時代錯誤に剃り込みを入れているお兄さんがナンパして来た。


「ごめんなさい。2人とも彼氏がいるので、失礼します」


「待てよ、つれないな。何も俺達は取って食おうって訳じゃ無いんだぜ?お茶飲むだけじゃん。浮気にならないから、さぁ行こう、行こう」


無理矢理肩を抱かれて、いかにもヤバそうな個室付きの喫茶店に連れ込まれそうになった。

周りの人に目で助けを求めるが、誰も目を合わせようとせず、知らん顔して足早に通り過ぎて行った。


「おい!何してる!」


「何だ、お前?」


見て見ぬふりをしてる中で、唯一声を掛けて助けてくれた人は、山下だった。


手前てめぇ舐めてんのか?コラァ!」


「おい、よせ!行くぞ」


殴り掛かって来そうな剃り込みのお兄さんを、金髪のお兄さんが制止して去っていった。

恐らく、鑑定が使えたのだろう。

山下は武闘家スキル持ちのAAAトリプルエーだ。

殴り合っても勝てないと思ったのだろう。

私は隠しスキルで、偽のステイタスを標準で見せているから、弱々しく見えたはずだ。


「カッコ良すぎて泣きそう」

そう言って私は山下に抱きついた。


「えっ?ちょっと、お兄…。瑞稀みずき、何してるの?」


「え、ごめんなさい。お姉ちゃん。彼氏の山下くんです」


「はぁ?何言って…。ちょっとこっちに来て!」


妹に手を引かれて、山下から距離を置くとヒソヒソ話で聞いて来た。


「ちょっと、どう言う事なのよ?」


「男の時の私が言ったと思うけど、女性の姿の時の私は、女性なの。だから彼氏がいるのよ」


「えぇ!それって…何だか複雑…。麻生さんと、山下さんは知らないのよね?」


「知らないわ。だから言わないでね!」


「そんなの、いつかバレるよ?どうするの?」


「うん、ごめん。今はまだ知られたくないの」


「分かった。口裏合わせてあげる」


山下は、私に久しぶりに会えたので、何していたのか?とか、今からお姉さんも一緒に食事でもとか言われたが、断った。


「ごめんなさい。久しぶりの姉妹水入らずなの。明日必ず、会いに行くから、今日はごめんなさい」


「分かった。瑞稀みずき、また明日!楽しみにしてる!」

手を振って山下と別れた。


「お兄ちゃん、本当にヤバいからね?バレたら終わりだよ?」


「うん、いっそ、男と女に分裂出来たら良いのに…」


「まぁ、いっか。見守ってあげる。今はショッピングを楽しもう。姉妹として」


妹と、もしかしたら初めて2人だけの買い物を楽しんだ。

本当、妹がお姉ちゃんに見えるから不思議だ。

自宅アパートに帰ろうとすると、部屋の灯りが付いていて、料理の匂いがした。

麻生さん?

ヤバっ、危なっ。

この女性の姿のまま部屋に入ったら、浮気相手に鍵を渡していると、麻生さんに誤解されたかも知れない。

アパートを通り過ぎて、近くの公園で男の姿に戻った。


「麻生さん!えっ?生きてるの?」


「嘘つき!瑞稀みずきちゃんが私を生き返らせてくれて、青山くんも入院してるって言うから私も病院に行ったのよ。そしたら担当医さんが、白面の魔女が傷を治したって言うじゃない?私が生き返った事も知ってるはずよ」


黄色に白いレースのフリルの付いたエプロンを着て出迎えてくれた麻生さんは、激可愛げきかわだった。


「あははは、嬉しくって、驚いたフリをしちゃいました」


「もーう!」


「麻生さん、本当に良かった。生きててくれて」


「青山くんが無事で良かったよ」


口付けをすると、麻生さんを抱きしめながらフローリングに押し倒して、胸や太腿ふとももを撫でながら下腹部に触れた。

麻生さんは既に濡れていたし、ヒートアップしてもう止める事が出来なかった。


麻生さんをお姫様抱っこして、ベッドに行くと、少しずつ服を脱がせながら口付けをした。

全く抵抗する気配が無いので、2人とも全裸になって抱き合った。


「麻生さん大好きです。生涯大切にします。麻生さんが欲しい」


「ふふふ、何それ?プロポーズみたい。良いよ…青山くんなら」


そう言って目を閉じた麻生さんに口付けをしながら、麻生さんの中に入った。

1つになれた喜びもあったが、麻生さんが痛そうで苦しそうな表情をしていたので、心配で動く事が出来ずに身体を合わせたままにしていた。


「動いても大丈夫?」


「うん…」

そう言いながらも、苦しそうな呼吸をしていた。

私は早く終わらせてあげようと思って、痛くない様に気遣いながら、腰を動かすと、初めてな上に麻生さんを抱いた喜びと興奮で、あっと言う間にイッてしまった。


「はぁ、はぁ、はぁ。青山くん…気持ち良かった?」


「良かったです。1つになれて幸せです」


「私もよ」


「あっ!」

急な展開で避妊をするのを忘れて、中に出してしまった。


「ごめん」


「赤ちゃんデキたら、責任取ってね?」


「授かり婚じゃなくて、ちゃんと結婚したいですね」


「うん、でもデキちゃったら私は、ちゃんと生んであげるからね。青山くんが責任取ってくれなかったら、シングルマザーになるよ」


「麻生さんを裏切ったり、悲しませたり、しませんから」


「うん、信じてる」

いつもよりも長い口付けをした。


一部赤く染まったシーツを急いで洗って、シーツを取り替えた。

ベッドに横になると、麻生さんは胸に頭を乗せて来た。


「えへへへ、しちゃったね」


「やっぱり痛かったですか?」


「うん、噂に聞いてた以上に痛かったよ。でも幸せ。幸福感で満たされたよ」


愛しい。

麻生さん、一生大切にします、と心に誓った。


「あっ!何か忘れてると思ったら、料理の途中だったじゃない!」


「もう良いよ。麻生さんと、ずっとこうしていたいよ」


「もう、お腹空いたし、お風呂にも入らせてよ」


むくれる麻生さんも可愛いかった。

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