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第11話  【初めての…②】

 9月になった。

それでもまだ陽射しは強く、ただ歩いているだけで汗だくになる。

昨今の異常気象のせいだ。

地球温暖化の影響は、気付かないうちに進行する病の様なものだと思う。


「暑っいなぁ。いつになったら涼しくなるんだ?」

そう言いながらも実際は、あと1ヶ月もすれば涼しくなって来るだろうと思ってた。


毎年10月の2週目頃には突然、肌寒くなって来て、先週まで半袖だったけど?なにこの寒さ、みたいな感じになるのがここ数年の常だ。


「ふぅ、まだ来ていないな?良かった、待つ方で」

彼女の姿が見えて手を振った。


「ごめーん。待った?」


「いえ、全然待ってないです。今来たばかりなので」

実際、5分も待たずに麻生さんは来た。

今日は、麻生さんと映画を観る為に待ち合わせていた。


(はぁ。めっちゃ可愛い。綺麗。信じられない。こんな女性ひとが自分と付き合ってくれるなんて)

手を繋いで並んで歩きながら、幸せを噛み締めていた。


映画は、麻生さんの推しアニメだ。

医務室にも、このキャラクターのマスコットが飾られている。

麻生さんは一喜一憂しながら反応し、完全にアニメ世界と一体化して没入していた。

麻生さんがキャッキャ喜びの悲鳴を上げながら、観てる姿に自分も嬉しくなって来た。

繋いでいる手の手汗がにじんで、自分のか?麻生さんなのか?あるいは2人ともなのか?分からなかったが、全力疾走してるのか?と言うくらいに心拍が上がっていた。


「はぁ。面白かったね?ごめんね。手汗かいちゃって、びちゃびちゃだ。ふふふ、手を洗ってくるね」

化粧室に向かったので、自分もトイレに行った。


「私ね、集中すると手汗をかいちゃうの。ごめんね」


「何で謝るの?俺も緊張すると手汗をかくよ」


「何で緊張するのよ?」


「麻生さんと手を繋いでるのが緊張しちゃって」


「あははは、私ね。青山くんの彼女なのよ?私の全部、青山くんのモノなの。緊張する意味が分からないよ?」


愛しい度が高まり過ぎて、思わず麻生さんを抱きしめた。

麻生さんも手を回してくれ、見つめ合った。

そのまま唇を重ねた。

まだ人前だったけど、周りの人達は関心が無いのか、2人の世界にひたっている自分達を見ない様にしてくれているのか?足早に素通りして行った。


「引かないで下さいよ?ファーストキスでした」


「うふふふ、私も初めてよ」


「あっ、でも青山くんって…ドーテーくん?」


「32歳でキスもまだだったなんて気持ち悪いですよね?」


「そんな事ないよぉ。お互い初めてどーしだし。って何言ってるの私」

顔を赤らめて両手で手を隠した。

その仕草がまた可愛らしい。


10代で経験する人が多いから、未経験の麻生さんも興味があったんだろうな。

23歳まで大切に守って来てくれてありがとう。

2人の距離がもっと縮まって、いつかそうなれたら良いなと思う。

とは言っても、山下の様にガンガン来られても、やりたいだけ?って思われそうで怖い。

こればっかりは、雰囲気とタイミングが重要だな。


麻生さんとディナーを楽しんだ後、食後の運動でゲーセンに行って遊んだ後、家まで送って行った。

玄関前でサヨナラとまたね、のキスをして別れた。

一度口付けすると、当たり前の様に出来る様になる。

幸せ過ぎる。

山下も女性の私と一緒にいる時、こんな気持ちなのだろうか?


「麻生さんとキスした…」

はぁぁぁ、何て幸せなんだろう。


こうやって、少しずつ関係が深まっていくんだな。

半年後、いや最低でも1年後には麻生さんとHしているに違いない。


麻生さんは女医さんだ。

麻生さんは、回復魔法の効果を100%プラスすると言う、超強力なスキルを持つ「聖女」の称号がある。(女性変化した時の私も持っているけども)

日本で唯一のSランクである麻生さんの事は、日本政府も把握している。(私がSSSトリプルエスランクである事は隠しているが、白面の魔女がSランク以上である事は把握されている。何故ならSランク以上だと飛行能力のスキルを持っており、白面の魔女が空を飛んでいる所を、写真にも動画にも撮られているからだ。)


日本政府としては、麻生さんの貞操を守る為に、私に接触して来る可能性がある。

世界情勢や日本の立場を訴えられ、金でも渡されて「別れろ!」と脅されるかも知れない。

麻生さんと付き合い始めて間もないから、まだ動き出して無いけど、1ヶ月も付き合うとHするカップルもいるから、今月中に接触して来る可能性がある。


当然、拒絶するが、家族を人質に取られる様な真似をして脅されたら、どうすれば良い?その場しのぎで別れると言うのか?いや、出来ない。

それに当然、念書を書かされるだろう。


そうなった時、SSSランクである事を明かして、麻生さんとの交際を認めてくれる代わりに、国に協力するとでも言うしかない。

日本政府からすれば、Sランクと引き換えにSSSランクが手に入る事になるのだから、承知するに違いない。


山下の彼女が実は私だと知った時、麻生さんはどんな反応をするのだろうか?

だましてたと怒って、フラれてしまいそうだ。

山下にも軽蔑されるだろうな。

自分の彼女が、実は中身が男の私だと知ったら…。


意味はあるのか?いや、ある。

麻生さんの自由と引き換えだ。

私は不老不死だから、永遠の時間を生きる。

麻生さんは、悲しくて考えたく無いが、いつか必ず亡くなる。

山下は不老長寿だから、女性の私とは長い時間を一緒に過ごす事になるだろう。

その頃には男の私は死んでいて、女性変化100%永続中となり、女性として生きているに違いない。


ただそうなっても、子供だけは絶対に作る訳にはいかない。

スキルは遺伝しない。

神の声に願って手に入れたスキルだからだ。

それに願ったスキルと同じではなくて、近いスキルが手に入る。

何故なら私は、女性変化なんて望んで無いからだ。


子供は長寿ではなく、無限の時間を生きる私にとっては、一瞬で亡くなってしまう事になる。

山下が不老長寿なら、一体何人の子供を生む事になる?

それに長寿でも、いつか山下も亡くなる。

私は悲しくて寂しくて孤独に耐えられず、また山下の面影に似た相手と付き合うかも知れない。

それが自分の子供の子孫とは知らずに。

子供を生めば、自分の子孫と再婚してしまう可能性があるのだ。

生む訳にはいかない。


考えればキリがない。

そう考えていた時、黒猫の目を通して映像が脳裏に描き出された。

覆面の男達に麻生さんが拉致されている映像だ。


「今、玄関まで送って来たばかりだぞ!?」

慌てて『女性変化』を唱えると、全力で飛んで向かった。


上空から攻撃を仕掛けても良かったけど、車が横転したり事故したりすると麻生さんも無事ではいられない。

車内で麻生さんに変な事したり、傷付けたりしたら、絶対に許さない。

山奥にある廃工場で車は止まった。


どうやら麻生さんは気を失っている様だ。

犯人達の目的が分からない。

全部で6人いる。

そのうちの1人が麻生さんの服を脱がせ始めた。

まさか最初から、猥褻行為が目的か?


「お前達それ以上、麻生さんに変な事をしたら許さないわよ!」

地上に降り立ち、怒りに震えた声で犯人達に言った。


「うひょう。本当に白面の魔女が現れたぜ」


「まずはその仮面を取って見せてくれよ」


「お前達は何者だ?」


「月並みな質問をするねぇ?だが、発言権はこちらにある事を忘れるな!」

細身の男がアゴで指図すると、麻生さんの服を脱がそうとした、小太りの男は麻生さんの頭に銃を突き付けた。


「分かったわ」

白面の仮面を外すと床に投げた。


「おぉ〜。溜息が出るくらいの美女だな」


「殺すのが惜しいな」


「私を殺すのが目的なの?どうして?何かしたの?」


「あははは。無自覚が1番タチが悪いってなぁ。お前がこの間、倉庫で捕まえた奴は組織の仲間でな。報復にお前を殺せって命令されたのよ。このSランクと仲が良いらしいから誘い出せるってな。じゃあ、あばよ!」


「ぐはっ」

突然何かが、背中から胸を貫通した。

血を吹いて地面に倒れると、血の付いたゴルフボールが跳ね返って目の前に転がった。


「ゴルフボール…?」

遠ざかる意識の中で、男達の声を聞いた。


「おーい、まだ声が聞こえるか?このSランクがお前を殺した犯人って事になるのよ。わははは!」

男達は笑いながら立ち去った。

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