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第八話 討伐を終えて

 目を覚ました俺はアビスの案内で街道に出て行き、目的地であるハーゲン街に入って行く。

 

 門番をしている衛兵は俺の頭の上に浮かんでいるアビスの姿に驚いていたが、それよりも俺が手渡した袋の中身を見て更に驚いていた。


「あの、後の事はお願いしますね」

「ちょっと待って下さい。出来れば隊長が来るまで待っていて欲しいのですが」

「私の身分証は見ましたよね、先程も言いましたけどバルトルト子爵の屋敷に行かなければいけないんですよ、分かりますよねこの街の領主の所に行くんです。問題ないですよね」

「そうですよね……」


 俺の言い方は少し棘があるのは分かっているのはまだ気持ちが高ぶっているせいかもしれない。


『随分と偉そうだな、もう少し優しくしたらどうだね』

『アビスがそれを言うかな、手伝ってくれなかったアビスが』


 子爵に渡すはずの荷物を全て一人で背負い、衛兵に渡した物も俺だけが持っていた。


『もう良いじゃないか、小さいな君は』

『重いんだから持ってくれてもいいだろ』

『君の為に見張りをしていた私にそれを言うのかね』

『はいはい、有難うございました』


 子爵の屋敷はこの街の中心に位置していて門番に声を掛けると何故か驚いた表情に変化してから俺を置き去りにして屋敷の中に駆け込んで行ってしまった。


 どうしたんだ? 中に入っても良いのかな? あれっあの馬車って。


 近くに見える馬車は昨日まで俺が乗っていた馬車と、その隣には父であるヨアキムが使用している馬車があった。


 えっ何か嫌な予感しかしないんだけど。


『あのさ、俺ってどれぐらい寝ていたのかな』

『1日以上だな、君の精神が疲れていたんだろ』


 嘘だろ、起こしてくれよ。



 ◇◇◇



「バルトルト様、本当に申し訳ございません」

「何を言うんだね、ユリアス君が無事だったのだからいいではないか」

「いえっわざわざ馬鹿息子の為に捜索隊を出して貰ったというのに、どうせこやつは遊んでいて道に迷ったに違いありません。それなのにあんないい訳を意気揚々と語るとは恥ずかしくて」

「父上、私は嘘なんて言ってませんよ」


 届け物を渡しながら一昨日の事を話して聞かせたが、子爵もヨアキムもまるで信じてはいないようだ。

 馬車がこの街まで自力で来た事で俺は森か何処かで遊んでいて馬に置き去りにされたと思っている。


 随分とユリアスの評価が低いじゃないか、元ユリアスのせいか、それとも俺のせいなのか。


「もういいではないか、そなたの息子は1日以上彷徨っていたのだろ、それなのに元気そうだからそれだけで良かったと私は思うぞ」

「いや、いい訳が酷すぎるのです。こやつは赤竜を使い魔に出来る程の魔力があるのにどんなに小さな魔獣でも討伐が出来ないのですよ、それなのに10人以上の盗賊を殺したなどと余りにも滑稽すぎで悲しく……」


 ヨアキムの話の途中で執事がこの部屋に飛び込んでくるとそのまま子爵に耳打ちを始めた。


 すると無表情で話を聞いていたバルトルト子爵の顔色が変化していく。


「本当なのだな」

「勿論でございます。表に衛兵隊長が待っておりますので直接お聞きになった方がよろしいかと思われます」


「分かった。ヨアキム、君も来るんだ」

「えっあっはい」



 ◇◇◇



 ようやく俺の話が嘘では無いと言う事を分かってくれた。この世界の常識に従って偉そうな奴の首とそれ以外は手首を切り取って持ってきたのはやはり正解だったようだ。


 かなり精神を削られてしまったけど。


 どんな方法かは知らないがそれを使って身元確認をするのだからこればかりは仕方がない。


 まぁ冒険者ではない俺には銅貨すら1枚も貰えないけど。


 ヨアキムは俺の腰から剣を抜き取って真剣な表情で見始めた。


「何でお前がこんな事が出来るようになったんだ」

「この前帰ってきた時に練習に付き合わさせられましたから」

「そうか、アーロンの奴か、それにしても」


 ヨアキムはまだ信じられないようだが、バルトルト子爵はかなりの上機嫌になっている。


 普通は逆なんだけどな、俺の評価って一体何なんだよ。


「ヨアキムよ良い息子達を育てたじゃないか、長男は武に優れ、次男は知に優れ、三男は勇に優れているな、特にユリアス君は赤竜を使い魔にしているし本当に素晴らしいぞ」

「はっ有難うございます」


 まるで主人に褒められたかのようにヨアキムは喜びながら頭を下げている。


「そこでだな、1つ頼みがあるのだが聞いては貰えないかね」

「何なんりとおっしゃって下さい。断る事など決してありません」


 寄親と寄子の関係ってこんななのか?


「そう言ってくれると有難い、あのなそんなに難しい事じゃないんだ。この私が授業料や生活費を援助するからユリアス君を学校に通わせて欲しいんだよ、ほらっ丁度私の娘と同い年だからクラスも一緒になるかも知れないだろ」

「そこまでして貰って本当に良いんですか」


 おいっ俺の意見は聞かないのか馬鹿オヤジ。


「此方がお願いするんだ当たり前だな、それに君とはもっと密になりたいしな」

「はっ有難いお言葉です。こやつも喜んでいると思います」


 誰が喜んでいるんだと言いたいがこの場で言える訳がない。ヨアキムは良いかも知れないがタダで学費を出すと言うし生活費の保証もするというのだから何かがあるに決まっている。


 少しは考えてくれよなヨアキムよ。


『学校か、良いでは無いか』

『アビスは一緒に行けないんじゃないか、王都に竜を連れて行くと問題になりそうだからな』

『そんな心配はしなくていいぞ、姿を消していればいいんだろ、それにな私は君の魔力を貰っているんだ。長い間離れる訳にはいかないんだ』

『まぁいいけどさ、油断はしないでくれよ』

『誰に言っているんだ』


 油断して見られたくせに良く言えるよな、それにこの街に来た時も姿を消す事を忘れていたじゃないか。


 子爵の娘であるエリサはユリアスの記憶に中にも微かにあるだけではっきりと顔が出てこないし、もしかしたら話した事も無いのかも知れない。


 話は勝手に進んで行き、エリサが2学年に上がる時に一緒に行く事になってしまった。後から子爵に言われたがエリサの味方になってくれとの事だ。


 言われなくてもお金を援助してくれる子爵の娘の敵になどあるはずも無いが、その言い回しには何か意味があるのだろうか。


 それにしてもこの年で学校か、嫌だな。

 まぁ卒業したら1人で生きていくか。







 

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