第四十四話 砂漠の中で
熊型の獣人であるゲレオンは俺の専属だそうで、兎型の獣人のヘレナがエリサの専属となり問題が起こらないように護衛をしてくれるのだそうだ。
そうは行っても日中は学校があるので送り迎えだけらしいが、彼等がと一緒でなければ王都を歩く事は許されないのだそうだ。
「何でそこまでするかな、別に護衛なんてしなくていいよ」
「それは無理だな、今回は初の交換留学なんだから間違いがあったら困るんだ。それよりよぉ、お前の頭の上に飛んでいるゴーストの存在は知っているのか?」
馬に乗って並走しているゲレオンは俺の頭の上を見ているが、俺にはアビスが何処にいるのかなど分からない。
『やはりこいつらの感覚は鋭いな、だがこの私がゴーストだと、この姿を見てもそんな馬鹿な事が言えるのか』
「ちょっと待てって」
思わず叫んでしまったがそれでもアビスは止まらずにその姿を見せてしまう。
「ほぉ可愛い子竜だったのか、ゴーストじゃないようだからそれはお前のペットなのか」
『何だとこの腐れ獣人め、なぁ人間じゃないなら食い殺しても構わんよな』
『絶対に駄目だからな、ちゃんと説明するから我慢してくれよ』
これ以上アビスを怒らすとどんなことになるのか分からないので早く訂正しなければいけない。
「アビスって言って俺の使い魔なんだけど、ペットではなくて仲間かな、それに言葉を理解しているから不用意な発言は控えて下さい」
ゲレオンはじっとアビスを見た後で満面の笑みを浮かべたが、熊に近い顔をしているのでかなり怖いがそれに触れる事は出来ない。
「そうかアビス殿か、これからよろしくな」
そう言いながら頭を下げると他の護衛達も寄って来た。
「今のは隊長が悪いですね、小竜とはいえ竜種なのですから考えて下さいよ」
「本当にそうだったな、すまない」
他の獣人も意外と簡単にアビスを受け入れている。それによく思い出してみると確かに最初こそ驚かれてはいたがそれが大問題になった事は1度もない。もしかしたらわざわざ姿を隠させる必要は無いかも知れない。
『分かれば宜しい』
◇◇◇
トレストイ街を出てから数日経ったがここまで立ちよった街は王国では村と名がついてしまう程の規模でしかない。
ガルト王国がこの共和国に力を貸さなければまだ戦争は続いていたはずなのでもっと貧しい国になってしまっていただろう。
5日目に入ると今度は視界が全て砂地の砂漠が見えてきたが、何故か入口に港の様な施設があった。
「あそこに何であんな施設があるんだ? 何も無いよな」
「此処からは馬では無くてラージャで移動するんだ。お前達の国にはいない魔獣だぞ」
その言葉を聞いたエリサは何故か嫌そうな表情になった。
「もしかして知ってる?」
「ええ、ラージャはね砂漠に生息する魔獣よ、私達の国では名前が違うけどね」
「お嬢ちゃんは良く知っているな、中々なつかない奴なんだがなつくと便利だぞ」
ゲレオンは港の中ほどにいる老人に声を掛けるとその老人は籠の中に入った肉を港の中に投げ入れる。すると港の中の砂が唸り始め巨大なミミズが肉を飲み込むと、その口の中に老人はどんどん肉を投げ入れる。
『何の事かと思ったらただのワームじゃないか、よくこれを手なずけたな』
『やはりなつかないよな』
『そりゃそうだろ、あれに知恵があるように思えるか? あれはただ食う事しか頭にないんじゃないか』
『いやな予感しかしないんだけど』
ワームなど信用できないのでそれに乗るなど考えたくも無かったが、護衛達は次々とその背中に飛び乗って行く。
おいおい、乗る場所ってただの背中じゃないか、何か変な毛も生えているし気持ち悪いな。
俺もエリサも躊躇しているとゲレオンがいきなり抱えて飛び乗ってしまう。その背中は思ったより硬かったが決して快適では無くて何だか背中が痒くなってきたような気がする。
「お前らしっかりと手を付けろよ、さぁ出発だ」
砂漠の海を滑るようにワームは進んで行く。かなりの速度が出ているのだが、俺達の手はワームの背中吸いついてしまっているみたいで振り落とされる事は無い。
これはちゃんと外せるんだろうな、掌から伝わってくる温度が気持ち悪いんだけど。
俺はどうしても顔を歪めてしまうが、隣のエリサは何故か無表情のままだ。
「エリサって意外と平気なんだな」
『こいつは気絶しているぞ』
アビスはエリサを支えてくれ、照り付ける日差しを浴びながら進んで行くと徐々に王都が見えてくる。
砂漠の中にあるとは思えないほどに緑に囲まれ中にある建物はまるで中東のような造りになっていた。
「どうだ、中々立派だろ」
「そうですね、幻想的ですよ」
不快なワームの上にいる事を忘れて見ていると、ゲレオンが王都の説明をしてくれる。
此処からではまだ見えないがあの中央には湖があり、そこに人が集まったのでこの国でも最大の街になり王都になったそうだ。
それでも砂漠の中なので不便では無いかと思ったが、砂嵐が来ないように障壁が張ってあるし、実は移動も簡単に出来るらしい。
いつの間にか目覚めたエリサはその話を聞いて今度は怒りを抑えながらゲレオンに文句を言い始めた。
「へぇ~砂漠の中に四つもトンネルがあるんですか、それなのにわざわざこれに乗ったと言うんですね、そうですよね、王都なんだから獣人達の往来も頻繁にあるはずなのにこれだと不便ですもんね、何でこれに乗せたのかな」
「お前さん達に観光気分を味合わせたくてな、珍しい乗り物だから楽しいだろ、いてっ」
楽しそうに話しているゲレオンの頭をヘレナがいきなり叩く。
「だから言いましたよね、こんな過去の移動手段は使わない方が良いですよって、見て下さいよこれに乗って喜んでいるのは隊長だけです」
他の護衛達も一斉に頷いたので誰もが気持ち悪いと思っていたのだろう。
そんなひと悶着はあったがそれでもようやく共和国の王都に到着する事が出来た。




