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第四十三話 交流試合

 公園の中央を広く確保して護衛達が等間隔で円を描くように並び始めた。それを見て最初は戸惑っていた住民たちも説明を聞いたらしく野次馬へと変わっていく。


 エリサは心配そうに俺を見ているが、もうこうなったらやるしかないだろう。


「危ないから離れてなよ、まさかいきなりこんな事になるとはね」

「ゴメンね、それにしても何で誰も止めないのかな」

「人間と獣人が戦うのが珍しいんだろ、下手な事をするとこの街から追い出されるからさ」


 もしこれがエリサでなければ流石に代わってもらいたかったけどそんな訳にはいかない。面倒だがやるしかない。


 言い出したガルトは少し離れた場所で笑顔を見せて身体をほぐしながら獣人の護衛と話している。


 俺も同じように身体をほぐしていると護衛隊長が話し掛けて来た。


「ルールを決めて来たぞ、君は魔法を使って構わないが回復薬で治せない様な魔法は止めるんだ。これはあくまでも異種族交流練習試合なんだからな……だが負ける事は許されないと思ってくれ」

「それは脅しですか」

「冗談に決まっているだろ」


 護衛隊長はそうは言うが目は笑っていないのでお互いにとって種族の威信を掛けた練習試合になりそうだ。


 勝手に国の代表にしないでくれよな。


 俺に渡された武器は木剣だが、上半身裸のガルトは素手で拳を合わせて気合を入れている。


「あの、向こうは素手なんですけどいいんですか、魔法もいいんですよね。あれだと僕が卑怯者みたいに見えるんじゃないですか」

「確かにそうだな、もう一度確認してくる」


 護衛隊長はガルト達の方に行って少しの間話したが、此方を振り向いて腕を頭に上で円を描いたのでそのままで行くと言う事だろう。


『奴らは爪を硬化させる事も出来るんだ。君のその棒なんかよりも強力だぞ」

『硬化ねぇまぁそんな事をしなくてもあの腕で殴られたら頭が吹き飛ばされそうだけどな、当たればだけどね』

『んっもしかしてあの者と話していたのは時間稼ぎか』

『当たり前だろ、向こうを観察しないとどう対処して良いか決められ無いからな、ミスったら終わるだろ』

『随分と自分を過小評価するんだな』

『その方が良いんだよ』


 誰も見ていなければ適当に戦った後で降参してしまいたいが、あまり無様な姿を見せてしまうとエリサが責任を感じてしまうかも知れない。そうはさせない為にも通用する事を見せないと。


 その時に護衛隊長が此方に向かって大声を上げて来た。


「ガルト君は準備が出来たようだ。君の方は大丈夫か」

「何時でもいいですよ」


 出来れば今の内から仕掛けをしてしまいたいが、卑怯だと思われるので合図がくるまで我慢をする。


「それでは、始めっ」


 野次馬から歓声の声が上がるがそれに気を散らされる場合ではない。先ずは【ムーブ】でつまずかせて出鼻をくじいてやる。


 開始と同時に四足歩行になったガルトは直線ではなくジグザグに向かって来る。


「何だよ、うわぁっ」


 法則を探っていたが右・左・右・右とずらされてしまいほんの一瞬だけガルトの姿を見失うと次に視界に入った時はその太い腕を振り下ろしてくる瞬間だった。


 それでも冷静であったのなら避ける事は容易だったが、ガルトが向けて来た独特の殺気を全身に浴びてしまったので身体がほんの僅かな時間だけ硬直してしまい。その手をもろに肩口に受けて野次馬の方まで吹き飛ばされてしまった。


「あ~もう、アニマ、アニマ…………」


 身体の芯にまで響く一撃だったが【アニマ】のおかげで痛みもダメージも全て消え去った。簡単に立ち上がる俺を見たガルトは向かって来るのではなくいきなり笑い出した。


「がっはっはっ、君は凄いな、何であれを受けて普通でいられるんだ? いやぁ今度は本気をだすがこれに耐えられるか楽しみだ」


 またしてもガルトは四足歩行になると同じような動きを始めた。先程はガルトを見失ったが良く見ると珍しい動きと言うだけでアーロンと比べたらその速さは比較にならない。


「ムーブ、ムーブ……」


 ガルトが左手を地面に付こうとした場所を少しだけ掘り下げるとガルトはバランスを崩して回転してしまう。そしてその動きを止めるために回転方向に土壁を出して動きを止め、次はガルトの下に穴を開けてから一気に埋めてしまう。


 どうだい、流れるような魔法だっただろ、初見殺しだけどな。


 出来ればこれで終わってくれることを願いながら生き埋めにした場所に向かって行くと、その場所から太い腕が生えてきて地上を掴むと、頭の土を払いながらガルトが顔を出してきた。


 これで終わりになる事を期待してすかさずガルトの鼻先に木剣を突きつけた。


「よ~し、そこまでだ」


 すかさず獣人族の護衛が終了の合図を出してくれたので木剣を投げ捨ててガルトに向かって手を差し伸べた。


 どう出るかと思うと、ガルトは手をしっかりと掴んで地面から出てくる。


「いやぁまさかこんな魔法の使い方をしてくるとは予想外だったな、今回は俺の負けだな」

「そうとも言えないさ、君は最初の一撃を手加減したじゃないか、もしあれが顔に入っていたら少なくとも意識を失っていただろうね」

「そうかぁ、吹き飛ばされても平気だったじゃないか」

「あんなのはやせ我慢に決まっているだろ」


 ガルトは楽し気に話してくるし、周りも不穏な空気にはならず此方を見ながら楽しそうに野次馬同士で話している。


 やはり対立はしていないんだな。


 護衛隊長は満足だったようで笑顔になるのを必死に隠しながら俺達の方にやって来た。


「もう充分だろ、さて宿に戻ろうじゃないか」


 宿に向かって歩き始めるとエリサが俺だけにしか聞こえない小さな声で話し掛けてくる。


「ねぁ新しい魔法を覚えたんだね」

「んっいつもと同じだよ」

「そんな訳ないでしょ、中級魔法の【ウォール】じゃない」

「そう見えるだけさ」


 俺もずっと勘違いをしていたが【ムーブ】は土を動かす魔法なので掘るだけでなく隆起する事も可能だ。

 ただし掘るよりかは難しく、あそこまで早くて硬くさせるのには1ヶ月の訓練が必要だったがようやく実用出来るようになった。



 ◇◇◇



 翌朝からは王国の護衛団はガルト達を護衛する事になり俺達は獣人族の護衛と一緒に共和国の王都を目指す事になった。


「悪いが、道が良く無いから馬車ではなく馬の移動になるが我慢してくれ」

「構いませんよ、それであなたが護衛隊長さんですか」

「あぁそれに俺がこれからお前さんの専属護衛となるゲレオンだ。それに隣にいるのがお嬢ちゃんの専属護衛となるヘレナだ」


 専属って、ずっと一緒じゃ無いよな。



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