第三十九話 作戦の効果
『やぁ皆さん元気かな、あれから2人しか死んでいないとは驚きだね、まぁちょっと不味い状況になっている人がいるのでもう1人増えるだろうけど最初の頃に比べたら良い感じじゃないかな、それで今連絡したのは……』
いきなり頭の中に観察者の声が聞こえてくるが、今は耳を傾けている場合ではないので意識をそちらに向かないようにする。
あれっ不味い状況ってもしかして俺の事か? いや、考えるんじゃない。
塔の中の明かりは全て消してあるしまだ外も暗いのでこの状態であったのなら仕掛けに気が付かないと願いたい。
すると扉が破壊されて曲刀を構えたリザードマン達が流れ込んできた。
「ぐっごほっ」
「何だ埃だらけじゃねぇか」
小麦粉や穀物の粉が1階と2階ら辺に舞い上がっているせいで入って来たリザードマンはいきなり咳込んでいる。
それでも次々と入って来てその後ろから人間の兵も入って来ている。
『アビス、もうすぐ出番だよ』
『あぁ何時でもいいぞ』
リザードマン達はそれでも1階を調べた後で2階も上がって各部屋を調べ始めているようだ。2階の捜索が終わり、粉の影響がかなり少なくなっている3階に上がってきた頃になると塔にはもう誰も入って来なかった。
◇◇◇
最初に扉を蹴破って中に入って来たリザードマンは思いきり粉を吸ってしまったのでむせてしまう。
「何だよこれは、まさか毒じゃねぇだろうな」
「あのな、この中にはガキ共がいるんだ毒の分けねぇだろうが、ただの時間稼ぎの嫌がらせに決まっているだろうよ」
「くそっ絶対に5人は食い殺すからな」
リザードマン達は1階の各部屋を見て回った後で2階へと向かっていく。人間の兵士達は遅れて入って来たのであらかじめ布で口を覆っている。それは実行隊長であるネックスの指示だった。
「おいっ此処の中はどうなっている」
「はっ隊長、彼等は1階を調べたので2階に向かっています。我々も向かった方がよろしいでしょうか」
「その前にこの階の窓を開ける事とこの原因を調べるんだ。これが何の意味なのか分からないと上に行ったら痛い目を見るぞ」
「はっ」
何か嫌な予感がしているネックスは先ずはこの状況を調べてからでは無いと上に上がる気はしない。兵士達は最初に窓を開けようとしたが魔法に寄って木片が張り付いているので中々窓を開ける事が出来なかった。
◇◇◇
『さてそろそろいいかな、良いだろアビス』
『私は何時でも構わんよ、君の好きにすればいいさ』
『そうかい、ならいくよ、ファイア、ファイア……』
身を乗り出してロビーの床に着火させると激しい粉塵爆発が起こり吹き抜けを業火の塊が登って来る。
直ぐにアビスの脚をしっかりと握ると直ぐに窓を破って屋上に飛んで行った。するとファビオは先程の業火の塊の影響を受けてしまったのか屋上の縁に身体をぶつけ蹲っている。
『アビス、向こうだっ」
『見えておるわい』
アビスは俺をぶら下げたままファビオの近づいて行く。
「俺の手に掴まって」
「あぁすまんね、間違えて中央に寄ってしまっていたんだよ」
ファビオの手を掴み、身体を持ち上げてアビスの脚を持ってもらうとそのまま上昇していく。塔の状態は1階と2階の窓からは煙と瓦礫を吐き出したようだった。
「ユリアス君、これは成功で良いのかな」
「どうですかね」
『何がどうですかねだ。こんなのは失敗に決まっているだろうが。君は言ったよな爆発が起きれば塔が倒れるだろうって、それがどうだい倒れるどころか中に入って来た連中も半分弱は生きているぞ』
アビスに言われなくても分かっている。外にいる人間も見えるし、塔から出来る兵士達の姿も見えているからだ。
「ざっとですが少なくとも外に50ぐらいはいますね」
「そうか、ほぼ半分ぐらいか、上出来ではないかね」
一見そう見えるかも知れないが俺にとっては予想以下の結果だ。やはり薄っぺらい知識では上手くいかない。
『アビス、ファビオを安全な場所に下ろしてくれ、残りは狙い撃ちするしかないだろうな』
『君では無理だな……そうだな君の魔力をかなり貰う事になるがそれでも良いのならあっという間に終わらせてやるぞ』
アビスは短い首を下に向けて俺の顔を覗き込んでいる。
『そんな事が出来るのか』
『私を誰だと思っているのかね』
『分かった。アビスに任せるよ』
アビスの返事は聞こえてこないが身体から一気に力が抜けて行く。足を持っている手にも力が入らなくなり徐々にずれ落ちてくると俺の身体にファビオの手が巻き付いた。
「どうしたんだい。もしかして何かをしようとしているのかな? 良くは分からないが無理に力を入れなくても私が君を支えるから大丈夫だ」
「有難う、助かるよ」
俺の魔力が抜けるのと反比例してアビスの身体が徐々に大きくなっていく。
『そいつに私の脚を放すように言うんだ。地面には落とさないからな心配するな』
「ちょっと、持ちにくくなってきたぞ、あっ」
言うまでもなく脚を掴みきれなくなったファビオと共に落ちていくが直ぐにアビスの広い背中の上に着地した。
大きくなったアビスの背中はゴツゴツしていて快適ではないが、それよりこの変化を目の当たりにして言葉が上手く出てこない。アビスの身体は全身が赤黒く変化して巨悪な赤竜へと姿を変えた。
『やはり君の魔力は優秀だな、まさか私の本当の姿に戻す事が出来るとは思っていなかったぞ、さぁそれでは奴らに絶望を与えてやるとするかね』
俺にはアビスがこれから何をするのか分からないが、眩暈がしてどうにも出来なくなり仰向けに寝転んだ。
あぁ風が気持ちいいな、これでもっと背中が柔らかければ気持ちよく眠れたのに。




