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第三話 俺の役目って

 今の父親であるヨアキムに連れられて護衛隊の詰所に入って行くとそこには5人の男達が座っていたが誰もが俺と恰好とは違ってラフな格好をしていた。


 そんな軽装で魔獣と戦うのか?


「お早うございますヨアキム様、あの、本当にお坊ちゃまを護衛隊に入れるのでしょうか」


 最年長だと思われる男が立ち上がりながらおずおずと言ってくる。


「気にしなくていいから君らと同じように扱ってくれ、こいつはこの見た目通り力はないし魔法も使えないが弓を扱わせれば中々だぞ」


 ヨアキムは元のユリアスの事を言っているのだろうが俺は弓など触った事すらない。


『気にするな、時間が経てば勝手に記憶が改ざんされるはずさ』

『そんなもんか』


「父上、私は弓は使えませんが、多少の魔法なら使えますよ」

「うんっ? あれっ……儂は何を勘違いしていたんだ。そうだよな、お前は魔法の素質があったんだよな」


 ヨアキムは魂が抜けたような表情を少しの間していたがその間に記憶の改ざんが行われているのかも知れない。


『大丈夫なのか』

『心配するな、理屈は分からんが最初の内はこんな事が起こるのさ、だがな誰も気にしないから大丈夫だぞ』


『どうしてそこまで知っているんだ。魔王だったからか』

『私も思い出したんだよ、魔王の前は君と似たような存在だったのさ』


 ……この事は後回しにしよう。



 ◇◇◇



 このマロネ街には王国軍から派遣されている衛兵が10人いてその中の一人が護衛隊を指揮している。それが先程の年長者であるヤプールだ。


 そしてその他の護衛隊の隊員は農家のフリオ、チコ、イシドロ、ルイスがいる。彼等と共に農作業をしている人達の護衛をするのだが、討伐が目的ではなく柵の修理や補強がメインで魔獣の姿を見かけたら大きな音を出して追い払うのが役目となっている。


「それでは行きましょうかお坊ちゃま、ただ一つお聞きしたいんですが何故その恰好なんですか」 


「そうですよね、これは僕の意志では無いので明日からは普通にします。それよりヤプールさんは僕に気を使わないで下さいよ」


「そうは言っても私は平民ですよ」


「本当に止めて下さい。お願いしますよ」


「はぁそれで怒られたら頼むよ」


 この街の外れには広大な畑が広がっていてそこの畑の周りには柵があるにはあるのだが、魔獣によって壊されてしまったり古くて痛んでいるそうだが全てを新品にかるほど材料も人員も不足しているそうだ。


 護衛隊と言うより補修隊の間違いじゃないか、まぁ討伐をしなくていいなら助かるけど。


 ヤプールが俺達から離れて農家の人と話していると同じ隊員のフリオが話し掛けて来た。


「聞いていいかな、俺達はどう接すれば良いんですかの」


「どうって何ですか? 僕は新人なので普通にしてくれたら嬉しいんだけど」


「あっしらは平民ですぜ、不味いんじゃないかと思ってよ」


「気にしなくて良いですよ、だったら俺も普通にするからお互い様にしよう、それが良いな」


 見た目は俺が一番年下だが本当の年齢は俺が一番上だと思うのでそうしてくれた方が楽でいい。それにしてもこの世界は貴族と平民にかなりの壁がありそうだ。


「だったら皆も同じで良いんだな」


 フリオはチコ達にもその事を伝えに行ってしまったので俺だけが此処で取り残されている。


『人間てのは馬鹿なのか』

『そう見えるよな、こんな子供に気を使うなんて嫌な世界だよ』


 直ぐにヤプールが俺達を手招きしたので集合すると、この近くに農民が魔獣を見かけたそうなので森の奥深くに追い返す事になった。


 フリオ達の後について行こうとするとヤプールに肩を掴まれる。


「ちょっと待ちなさい。お坊ちゃま、いや、ユリウスは危険だから行かなくていい。君には柵の縄が緩んでいる場所が無いか見て来てもらおうかな、いいかい余計な事は決してするなよ」


 言葉使いは良いとしてもやはり待遇はそうは変わらないようだ。


 討伐はしなくて良いのは嬉しいけどちょっとつまらないな、折角こんな若い身体を……そうだよ若い身体じゃないか。


「わっかりました。では行ってきま~す」


 勢いよく走り出すが直ぐに足がもつれて盛大に転がってしまい、身体中が泥だらけになってしまった。視線を感じるのでそっちを見るが気を使っているのか一斉に目を逸らされた。


 はぁはぁ、マジかよ、これじゃ元の身体と変わらないじゃないか、ユリアスが鍛えていないのかそれとも元の体力のままなのか。


『情けないな君は、走る事も出来ないのかね』

『もっと軽快に動くと思ったんだよ、君だって別の身体になった時は戸惑ったんじゃないか』

『微かな記憶でしか無いから覚えていないな、それに前の身体は別の存在だった気もするんだよな』


 そうなるともしかしたら俺は魔獣になる可能性もあったというのか……怖っ。


 姿を消したままの使い魔の小竜と柵に様子を調べることにした。見ている場所は木は古いが縄は真新しいので最近になって締めなおされたのだろう。


『君、それは面白いのかね』

『あのね、面白いとかじゃないんだよ、それにな、そうだな鴻上、いや明、違うな、ユリアスと呼んでくれよ、そっちは何て呼んだらいいんだ」


『呼び名か、前は魔王様としか呼ばれていないからな、まぁ好きに決めてくれ』

『そんなんでいいのかよ、そうだな…………アビスで良いかな』

『アビス? まぁいいだろう』


 気に入ってくれたのか? 昔飼っていた犬の名前だけど良いよな。


「ごがっぶっぶっ」


 アビスと話していると変な鳴き声が柵の向こうから聞こえて来た。


『何かな、なぁアビスは分かるか』

『分かるに決まっているだろ、雑魚だよ、捕まえたらいいんじゃないか』

『そうなのか、まぁ雑魚なら俺でも大丈夫か』


 柵を乗り越えて森に近づいて行くとそこから俺の身体よりも大きくて長い牙を持った猪のような魔獣が姿を現した。


『おいおい、あれの何処が雑魚なんだよ』

『魔法で倒せば簡単だぞ』

『いきなり出来る訳ないだろ』


 急いで柵に中に逃げ込もうと思ったが初めて見る魔獣の迫力に負けてしまい身体が思うように動いてくれない。


 ピンチじゃんかよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 作り込まれた世界観、引き込まれます。 面白かったです。 ゆっくり読ませていただきます。
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