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第三十八話 夜明け

 屋上に戻ると髪をなびかせたファビオが真剣な表情で森を見ていた。将来の国王にはなれないのかも知れないがそれでもかなりの権力を手にする事が出来るし美形まで兼ね備えているのだから少しだけ羨ましく思える。


 そして森を見ながら俺に向かって声を掛けてくる。


「準備が終わったんだね、もうやってもいいのかな」

「そうだな、遅くなると後手に回ってしまうからそろそろやろうか、さっきも言ったけど此処にいると思わせたいから属性を変えた魔法を撃ってくれ」


「私は器用貧乏だから任せてくれよ、当てる必要はないんだろ」

「あぁそうさ、種類と回数だけが必要なんだ」

「分かったよ、さて……精霊たちよ、私に力を貸してくれ」


 ファビオが細身の剣を上に突き上げると、属性の違う4つの球状の塊が浮かんできた。


「羨ましいな」

「そうでもないさ、さぁ行け」


 4つの塊は一気に弾け四方に飛んで行く。そしてまた剣の上には塊が出来つつある。急いで下を見下ろしてみると敵は慌てたように逃げ出したりはじき返したりしていた。


「良い感じだね、もっと頼むよ」

「次は形状を針のようにして見るかね」

「それじゃ俺もやりますか、ファイア、ファイア……」

 

 俺の狙いはあくまでも燃えやすい木でいくら見えているからと言って敵には当てない。どうせ少しの敵を狙ったところで効果は薄いからだ。


 あくまでも俺達が向こうに思わせなくてはいけないのは魔法もまともに撃てない雑魚しかいないと思わせなくてはいけない。


 すると下からあの男がまた大声を出して叫んできた。


「そんな魔法をいくら撃っても意味が無いぞ、無駄な抵抗は止めて我々の指示に従うんだ」


 出来れば返答して時間を稼ぎたいが俺やファビオの声では子供だとバレてしまうのでそれは出来ない。


 さてどう出るかな。


「それじゃ行って来るけど引き続き頼むな、あっ魔力は大丈夫かな?」

「威力なんて無いに等しいから魔力の消費は最小限だよ、それに魔力回復薬も持っているしね」

 

 やはり侯爵家だけあってそんな高価な物を持っているんだな。


「あれっそういや同時に違う属性の魔法を使っているよな、それって白髪より凄くないか」

「君ねぇそろそろ名前を呼んであげてくれないかな、マルセルは魔法に関しては私よりも優れている男だよ」

「ふ~ん、ってのんびり話している場合じゃないよな、それじゃよろしくな」


 下からは怒号が聞こえてくるのでもう少ししたら塔の中に入って来るだろう。螺旋階段の上から見下ろすと良い感じに粉が舞っている。アビスもその中では耐えられなかったのか上に上がって来ていた。


『本当にこれでうまくいくのかね』

『そうなってくれないと困るんだけどな』

『それにしても暇だな、ちょっとからかって来ても良いかね』

『あぁ好きにしても良いけど何をする気なんだ』

『石でも投げていたぶってやるのさ』


 元魔王が石投げか、笑いたくなるがここで笑ったら機嫌が悪くなるだろうな。



 ◇◇◇



 人間の指揮官であるバイツ将軍とリザードマンの指揮官であるリベラ将軍は降り注いでいる魔法を見ながら対策を話し合っている。


「おいっあいつら抵抗しているじゃねぇか、貴殿の予測は外れたようだな」

「落ち着いては如何かなリベラ殿、見てごらんなさい威力もさほどない情けない魔法ではないですか、彼等は必死に最後の悪あがきをしているだけですぞ、意味が無いと気が付いたら私に言う事を聞くはずです」


 だがリザードマンのリベラ将軍はそうは思っていない。


 教師が撃っているのだろうがやはり兵士慣れない奴らの魔法はこの程度か、だが馬鹿にされているようでイライラするぜ、どうせ貴族のガキは奥の方で隠れているんだから手前から殺して行けばいいじゃねぇか。


 バイツ将軍も顔色を変えずに心の中で思っている。


 トカゲは所詮トカゲだな、こんな子供の遊びみたいな魔法に一々反応しないで欲しいものだね、こいつらの好きにさせたら貴族の子供も殺してしまうんだろうな、それに隠し子の顔すらこっちは知らないんだから差し出せるのを待つしかないんだ。全くこんな連中と手を組むなんてあのお方もどうかしているよ。


 すると目の前の木がいきなり燃え始めた。


「ああん、いつ魔法が当たったんだ?」

「そうですな、私の目にも見えませんでしたぞ、もしかしたら王国には魔法を隠す何かがあるのかもしれませんな」


「そうかも知れねぇがそれにしてもうぜぇな」

「まぁそろそろ時間が来たようなので声を掛けてみますか」


 バイツ将軍は魔法に声を乗せて勧告をしてくるがそれに対する返答はなく、未だに定期的に魔法は降り注ぐ。


 その様子を見てリベラ将軍はイライラを募らせた。


「あぁもういい、お前ら咆哮を浴びせてビビらせてやれ」

「「「わっかりやした~」」」


 リザードマンが一斉に各方向から塔に向かって咆哮を浴びせると、人間の兵士も同じように罵声をぶつけたが、更に馬鹿にしたようなしょぼい魔法が降ってくる。


 すると1人の兵士がバイツ将軍の元に駆け寄って来た。


「報告致します。反対側では戦闘不能になった者達が出始めています」

「はぁ? 向こうでは何があったんだ」

「申し上げにくいのですが石礫が飛んできまして」

「はぁもしかして石でやられたのか」


 バイツ将軍はそれでも必死に奥歯を噛みしめて冷静さを保とうとしたが隣のリベラ将軍はそれをあざ笑った。


「何だい石でやられたのか、たかが子供が投げる石にかよ、やはり人間は軟弱なんだな、もしかして子供が怖いから交渉をしていたのかね」


 馬鹿にした笑いを始めたリベラ将軍の前にもリザードマンの兵が走って来た。


「報告します。同胞が石によって3体殺されてしまいました」

「くっ何だと、もう我慢できん。いいか全員に告げよ、今から中に入り貴族のガキを探すんだ。少しでも抵抗したら食い殺して構わん」

「はっ」


 直ぐにリザードマン兵が動き出し、その後に人間の兵士達も動き出す。



 ◇◇◇


『我ながら上手いではないか、このままいったら奴らを全滅させてしまうかも知れんの、まぁそれはつまらんから戻るとするか』


 アビスは遊ぶ事を止めてユリアスの元へ戻って行く。

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