第三十三話 サボイ島に到着
出発してから1時間程で向こう岸が遥か遠くに見える程の広い川に到着し、波止場にはまるで海賊船のような派手な船が止まっていた。
こんな大きな船をこの世界の技術でどうやって動かすんだ? まさか人力じゃないよな。
誰かに直ぐにでも聞いて確かめたいが、もしかしたら誰もが当たり前に知っている事かも知れないのでその気持ちを押さえつける。
すると近くにいた1年生が手を上げた。
「先生、こんな大きな船をどうやって動かすんですか」
「魔道具だよ、この船の底には多くの魔道具が取り付けられているんだ。ただ動かすには魔力を流さなくてはいけなくてね、この船の中には動かす専任の人が6人いるんだ」
「「「へぇ~~~」」」
知らないのは俺だけじゃ無かったのでホッとしたが、魔力を流すだけで良いのなら俺だけでも可能なのだろうか。
全員が船の中に乗り込むと音もなく船は動き出し、水の上を滑るように進んで行く。速さはそれほどでもなかったが2時間も過ぎると湖の中に入り、その中央にあるサボイ島に到着する。
その島は半分は草原となっていてもう半分は森が広がっている。そして見渡しても全てを視界に入れる事はできない程の大きな島だった。
島の中心には宿泊施設となっている15階建ての太くて大きな塔があり、1Fは食堂やら講義室や共同浴場などがあり、2階から上が宿泊施設となっている。
地下にも階段が伸びているのだが生徒は立入禁止となっていて何があるのか分からない。
ロビーに全員が集まると学年主任であるロッケン先生が声を上げた。
「各班のリーダーは集まってくれ、部屋割りを鍵を渡すからな、いいか各自で部屋に荷物を置いたら自由にしろ、ただし夕食の時間にまたここに集合だ」
「「「はいっ」」」
鍵をリーダーが貰うと300人弱の生徒が吹き抜けを囲むように造られているらせん階段を登っていく。魔道具で昇降機の様な物を期待したが残念ながらそんな便利なものは無く、ただひたすら自分の脚で登るしかない。
ずっとここ迄テンションが高かったディルクは俺の前でかなり疲れた顔をしている。
「はぁはぁ、次は何回だっけ」
「9階だよ、なぁもう少し身体を鍛えた方が良いんじゃないか」
「君が異常なんだよ、どうしてそんな涼しい顔で登れるかな、何か秘密でもあるのかい」
「ないない、ないよ、鍛えているからに決まっているだろ」
意外と鋭いじゃないかディルク君、俺にそんな体力がある訳ないだろ、全て魔法のおかげだよ。
俺達の班はいつもの4人組となっているでアビスも姿を現した。ディルクもクロードもかなり疲れたらしく夕食の時間まで部屋で集合のんびりと過ごすものだと思ったらカミロは荷物を投げ入れるとそのまま部屋を出て行こうとする。
「どうしたんだ? 何か忘れものでもしたのか」
「あっ、いや、ちょっとな、俺の事は気にしないでくれ」
顔を赤らめたカミロに対してクロードは冷たく言い放つ。
「もう君はリカと会うつもりなんだね、夕食で会うって言うのに元気だね君達は」
その言葉に疲れて床に倒れていたディルクが元気を取り戻した。
「何時の間にそんな事になっていたんだい。まさか君がねぇ~へぇ~」
「あのなそんなんじゃねぇよ、家同士で決められた事なんだよ、だから……」
「だから何なんだよ、その割には楽しそうに行くんだね」
ディルクはカミロをからかうのが本当に楽しそうだが、少しだけカミロが可哀そうなので助ける事にする。
「もういいだろ、若者同士楽しんだって良いじゃないか」
「君っ」
「おいおい、まさかこの部屋に年寄りがいるとは驚いたね」
ディルクとクロードが俺に注目している間にカミロは姿を消した。
「「あっ逃げたぞ」」
「もういいだろうに」
もてない二人のやっかみは聞いていられないので窓から島が一望できるので見ていると、部屋の扉が開きエリサが顔を入れて来た。
「ねぇユリアス、暇ならちょっと歩かない?」
エリサの言葉にディルクとクロードも「お前もか」と言う反応をしているが気にしてはいられない。
「あぁいいけど、友達と一緒にいなくていいのか」
「みんなは少し泳ぎに行くんだってさ、女子だけじゃ無いから恥ずかしくてね」
「そっか、だったら島を少し案内してよ」
『私は行かんからな』
『分かったよ』
アビスは自由に何処かに飛んで行ってしまったので二人だけで散歩する事になった。部屋を出る時の視線が少し気になったので後で何を言われるのだろうか。
そうなるとこれはデートなのか? 俺の年齢だと犯罪じゃ無いのか? いや同級生だから良いんだよな。
「どうしたの、黙らないでよ」
「あぁゴメン、ちょとね」
何だか久しぶりの青春なのか、どうする? このまま流れに身を任せてもいいのか?
少し歩くだけで湖にでたが、ここは泳げる場所ではないらしく周りには誰の姿も見えない。
もういいよな、これはあれだよな。こうなったら男を見せるか。
『何をする気なんだね』
『おいっ何処かに行ったんじゃないのかよ』
手を肩に回そうとした瞬間にアビスの声が聞こえたので心臓が飛び出してしまいそうになる。
「どうしたのアビスちゃん。何をする気って何の事かな」
『お前な、余計な事を言うなよ、何で俺だけに聞こえるように話さないんだよ。もしかして馬鹿なんじゃ無いのか』
デリカシーのないアビスに腹が立ってきた。そしてその気持ちはアビスも同じだったようだ。
『ユリアスは君を押し倒すつもりだたようだな、その後ろにある手が証拠さ』
エリサが直ぐに後ろを振り返ると空中で行き場を失くした俺の手が見えてしまい感情を失った様な表情になった。
「へぇそんな事をするんだ」
「違うって、誤解だよ」
「ふんっもう一人で戻るから付いて来ないでね」
そのまま立ち上がりさっさと行ってしまった。俺はただその背中を見送る事しか出来ない。
『冗談の分からん娘だな』
「あのな、どうしてくれるんだよ、お前が余計な事を言うからだろ」
『ふんっ、誰のせいだね』
アビスはまたしても姿を消してしまった。
どうしよう。




