第二十三話 思惑
◇ファビオの話◇
特別に学校から与えられた広い個室の中でファビオは眼下に広がる緑豊かな校庭を眺めながら一人で考えている。
その様子を少し離れた場所からエミール達が気不味そうにしながら見ていた。するとファビオは軽く咳払いをした後でエミール達の方に振り向いた。
「あのさぁ私は彼に余計な事をするのは止めなさいと言ったよね、エミール、君はその時は納得して賛成してくれたじゃないか」
決して他の人前では出さない冷たい声をエミールに向けている。
「申し訳ありません。ですがアーロンとの訓練を盗み見ていけると思ったんです。ですから男爵家のくせに生意気なあいつに教育をしてあげようと考えたのです」
「その結果があれなのかい。他の人達は彼を卑怯だとか陰険だと感じているが私に言わせれば彼は立派だよ。自分の力をよく理解しているのさ、君とは違ってね」
ファビオの表情は怒っている様には見えず、いつもと変わらないが内面は怒りで満ちている事を知っているエミールは項垂れてしまった。そのエミールの代わりにマルセルがフォローを試みる。
「お言葉ですがそれでも奴は卑怯者です。授業では【ウォーターボール】を飛ばすどころか出す事すら出来なかったのに戦いの時だけ使用するなんて汚いではないですか」
その言葉にファビオは冷笑を浮かべる。
「あのね君は本当にその魔法だと思っているのかい。この私の目にはそうは見えなかったけどな」
マルセルは魔法には人一倍自信も実力もあるのだが、攻撃魔法は飛ばすものだと頑なに信じている。
「私の予測ですが、彼は幻覚魔法か……」
「君の分析はどうでもいいよ、だってさ布で口や鼻を隠すように指示をしたが全然効果が無かったじゃないか、間違っているんだよ君は」
「それは……」
マルセルも項垂れてしまったので今度はアルミが二人の弁解に入る。
「それにしても視界を奪って攻撃をするなど騎士道を知らないのでしょうな。確かに勝利は得たかも知れませんが周りから賛同は得られなかったではありませんか。確かにエミールは負けましたが奴もある意味では負けたのです。騎士として失格したのです」
その言葉を聞くと初めてファビオの怒りの表情を見せた。
「君が騎士の何たるかを良く言えるな、あの5人をそそのかせたのは君だしそれが失敗したからエミールを仕向けたんじゃないのかね、そっちの方が騎士として失格だと私は思うがどうなんだ」
初めてファビオに怒りを向けられた3人は委縮して身体が小さくなってしまっている。それを見て再びファビオは冷静に話始める。
「まぁそれを知っていて止めなかった私にも責任はあるんだな」
慌ててマルセルが声を上げる。
「いえ、そんな事は決してありません。我々が浅はかだったのです」
「良いんだよ、イサベルの機嫌をとる為にエリサを切り捨てたのがそもそも失敗だったんだ。それにしてもまさか彼がこんな僅かな時間でこの状況を生み出すとはね、彼には何かがあると思ってはいたがここまでとはな」
再びファビオは視線を窓の外に送り、自分だけの世界に入って行く。
上手く立ち回れると思っていたんだがな、私もまだまだだと言う事か、ただ今回の事でイサベルは大人しくなったようだからそんなに悪くは無いのかも知れんな、それに私が直接に彼と敵対した訳では無いのだから何とか出来るかも知れん。それならば私がやる事は……。
そんな風に考えているとは知らずにエミールは立ち上がって宣言をする。
「この次、いや明日には再戦をし、今度こそは圧倒的に勝利を掴んで見せます」
同意したマルセルも立ち上がる。
「良く言ったエミール、私も協力するぞ、魔法の対策は任せてくれ」
そしてアルミも便乗して立ち上がり何かを言おうとする前にファビオは振り返り、呆れたような口調で言ってくる。
「君達は何を考えているんだね、もし本当にそうするつもりだったらこの先は君達との付き合いを見直さないといけないかも知れないね」
エミールとマルセルは戸惑っているので代わりにアルミが尋ねる。
「あの、どういう事ですか」
こいつらは本当に馬鹿なのか、もう切り捨てるか……そうだとしても直ぐにしてしまうと周りからの私の評価が下がってしまうだろうな……だったらこいつらには成長してもらうしかないか、イサベルも変わったのだからこの馬鹿共も変わるかな。
3人はファビオが口を開くのをじっと待っている。そしてゆっくりと間を開けてファビオは話し出した。
「有能な人材は意外なところにいたという事だよ。君達は今度からそう言う人材を見つけたらもっと上手く扱う事を覚えた方がいいな」
エミールには理解出来ず的外れな事を言ってしまう。
「今度は強制的に従わせればいいのですか」
ファビオはほんの一瞬だけこめかみに血管が浮かび上がったが直ぐに消えてなくなる。
「そうじゃない。同じ仲間として一緒に過ごすんだ。学校の中では上下関係は無いんだと思考を変えなくてはいけないのさ、卒業してからはそうはいかないだろうがね」
エミールはその話を聞いても納得は出来なかったが、自分の将来を考えてその気持ちを押さえ込んだ。
我慢するんだ俺よ、いつかまた戦える日が来ると信じるしかないな。
マルセルはユリアスと仲良くなれば魔法の秘密が分かると思い、それでも良いかと思い始めている。
ユリアスに出来るのだったら私はもっと上手く出来るはずさ、彼と魔法の情報交換をすればもっと高みにいけるかも知れないな。
アルミはもうこの話はどうでも良くなり、ファビオとの縁が切れない事を願っている。
そいいやユリアスと仲良くしたらマティアス先輩と話す機会があるかな、出来れば色々と教えて欲しい事があるんだよね。
◇◇◇
あれからクラスメートと壁が出来てしまったが、1週間もすると風向きが変わったのか普通に話し掛けてくれるようになっている。
俺は知らなかったがファビオが裏で動いていたようで、それをディルクから聞かされたが何て言ったら良いのか分からず、困っていた所にファビオが自ら近寄って来た。
昔のように人が良さそうな笑顔を浮かべながらそのまま話し掛けてくる。
「このクラスを良くしたいんだけど君は賛成してくれるかな」
「良くするのなら反対する理由なんてないよ、だけど俺は関係あるのかい」
「君は重要人物なんだよ、ちょっと来てくれるかな」
ファビオは笑顔を絶やさず俺の手をとってそのまま教壇の前まで行ってクラスの皆に向かって大きな声で話始めた。
「みんな、よく聞いてくれ、ユリアス君とも話したんだけど明日の授業が終わったら『木漏れ日の店』で全員でパーティをしようじゃないか、この事は学長にも話を通してあるし費用は心配しなくていいから好きなだけ食べたり飲んだりして、あっ飲むのはお酒じゃないからね、流石にそれは私が怒られてしまうからさ」
別にそんなに面白い話ではないが笑い声が所々で起きている、
「大事なのはこのクラスが一致団結する事なんだ。みんなで楽しい時間を過ごそうよ、いいかな」
声を上げて賛成する者もいれば拍手をする者もいる。心の中は分からないが誰一人として嫌な顔をする者はいなかった。
『そんなに嬉しい事なのか』
『さぁどうだろ、だけど公爵家と侯爵家のお墨付きのパーティなんだから反対何て出来ないさ』
『下らんな、だがどうして君が前にいるんだね』
『俺に恩を売っているんだろ、まぁ有難く受け取るよ』
直ぐにアルミが出欠席を確認するが、予想通りに誰も欠席する者はいない。分裂しつつあるこのクラスも表面上は一致団結したという事だろう。
『中々の人たらしだな、裏があるんじゃないか』
『完全な善意では無いと思うけど良い事じゃないか……だとすると訓練はもう終わりにしてもいいかな』
『無理だろ、あやつが許すと思うかね』




