第二十二話 エミールと
森の中での出来事は彼等に気を使って誰にも話していないのに、その気持ちを知らずにあからさまに俺を避けているし、5人の内の一人は学校を辞めてしまった。
あんな事で手を引くとはな、家の爵位の権力に頼っている奴が全部あんな連中だったらこの国は終わりだね。まぁ楽でいいけど。
今も目の前でコソコソと隠れるようにして俺から離れていく彼等をディルクが隣でしっかりと見ていた。
「君は絶対にあいつらに何かをしただろ、もしかしてアーロンさんに動いて貰ったのかい」
ディルクは俺のプライドを傷つける事が分かっていないのか軽い口調で言ってくる。
「あのね、あの兄貴が裏で動く訳ないだろ」
「そうだよな、アーロンさんなら派手にやりそうだしね」
「目立つ事に生きがいを感じている様な人だからな、それより早く校庭に行こうぜ、今から今年度初めての実戦剣術訓練だろ」
外は快晴で温度はかなり高いのでこんな日は座学の授業だけしたかったが、残念なことに暑い中で身体を動かなさ無ければいけない。
憂鬱な気分を抱えたまま教室を出て行こうとするとエリサが話し掛けて来た。
「ねぇ、アーロンさんと自主訓練しているんですって、やっぱり強いんだ」
「あのね、俺の体格を見れば分かるだろ、どうみてもそこそこにしか見えないよね」
「それでもさ、お父様から聞いたんだけどかなりの数の盗賊を一人で討伐したんでしょ」
「だ・ま・し・う・ち」
それしか言いようがないし、闇討ちで動きを封じてから殺したのだから決して褒められる戦い方ではない。
◇◇◇
『木剣を手に鎧を身に付けるとは随分と可愛い実戦訓練をするのだな、何の意味があるんだ』
『嫌味を言うなよ、これが普通で夜が異常なんだよ』
魔族は丈夫だし直ぐに回復するから無茶な訓練が出来るかも知れないが人間はそうでない事を分かってくれない。魔法で身体を直しながら訓練をする事に見慣れてしまったアビスは授業での訓練は遊びにしか見えないようだ。
集合した後は何時ものように身体をほぐすと今日は素振りなどの基本訓練ではなく、実際に生徒同士で試合が行われる。
「久しぶりに実戦形式でやるぞ、最初はそうだな……やはりエミールとカミロが戦ってお手本を見せてやれ」
カミロは自分の力を見せたいらしく気合を入れながら立ち上がるが。緑髪は木剣を杖代わりにして立ち上がり何も持っていない方の手を上げた。
「バーレント先生宜しいでしょうか」
「うんっどうした?体調でも悪いのか?」
「そうでは無くて、出来ればユリアス君と手合わせをしたいのですが駄目ですか」
エミールの奴、緑髪のくせに何を言うんだ。
「ユリアスだと」
「えぇ彼はこの前の走破でも1位でしたし夜はアーロンさんと訓練をしているそうなので是非とも胸をお借りしたいと思いまして」
低姿勢に言っているがあの訓練を見ていたら俺が実力が無いのを知っているはずなのでここで俺に恥をかかせたいのだろう。
「アーロンと訓練か、だけどよぉそれだからってな、なぁ指名されたお前はどうする?言っておくがエミールはこのクラスで1.2を競う男だぞ」
はっきり言えばやりたくはないが、それを口にしたらそれだけで馬鹿にされるんだろう。だが有利な展開に代えれば別だ。
「そうですね、ただ夜の訓練は私の特性を伸ばす為に魔法有の訓練をしています。まぁ彼が魔法有だと怖いと言うのなら木剣だけの試合で我慢致しますけど」
挑発に乗るかどうかは賭けだったが、やはりプライドがあるらしくエミールは大きく頷いた。
「魔法有かそうするとだな……ちょっと待ってろ」
バーレント先生は校庭の端で薬草を採取している治療師のミランダを見つけて直ぐに連れて来た。ミランダ先生は俺の腕を直してくれたほどの回復魔法が使える人なのでこれで心配は消えたという事だろう。
それにこの学年の中には辛うじて中級魔法が使える者がいるが殆どは初級魔法しか使えず、致命傷になり得ないと思っている事も大きいと思う。
初級魔法でも使い方次第なんだけどな。
「それなら魔法有の試合をやってみろ、危ないようだったらすぐに止めるからな、先生もよろしいか」
「えぇもしもの時は直ぐに打ち消しますので大丈夫です」
ミランダ先生は余裕そうだが、魔法を打ち消すなど俺もユリアスの記憶も知らない。
『魔法を打ち消すって何だ』
『その言葉通りだろ、まぁ実力が相当上でないと出来ないがな、君らの魔法はそのレベルだと思っているんだろうな、果たして君の連続魔法でもそれができるのか試したらどうだい』
『俺の相手は先生じゃないからね、そう言った事があると知っただけで充分さ』
俺がアビスと話しているとエミールの側に白髪のマルセルが近づき何やら助言をしている。すると口と鼻を布で隠し始めたのでもうマルセルは俺の対策を思いついていたようだ。
見えない場所には魔法を出せないからな、簡単に対策されるなんて俺の魔法って何だよ。だけどそれだけだと30点かな。
「さて、お前ら準備しろ」
少し離れた場所にお互い向き合うと、エミールは自分の木剣に炎を纏わせた。
あんな事をして木剣って燃えないんだ。【ファイア】だと燃えるよな。
「ユリアス、何しているんだ。エミールみたいに準備しろよ、始められないだろうが」
「大丈夫です先生、これが私のやり方ですので」
「そうか、なら怪我してもさせても構わないからな、始めっ」
教師とは思えない言動で試合が始まった。エミールは木剣に火を纏わせたまま俺の方に向かってくる。
飛ばさないのかよ、そうなるとあれは只の【火剣】か、たかが火傷するだけじゃないか。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ」
「元気だね、ウォタ、ウォタ……」
エミールの視界を奪うように【ウォタ】を目にぶつける。直ぐに水は重力に負けて落ちるが何度も当てているのでかなり煩わしいはずだ。
「がはっ」
エミールの口と鼻を覆っていた布が水を吸って息が出来なくなったのか、自ら布を取って片手て口と鼻を隠し始めた。
「ウォタ、ウォタ、さぁ行くよ、ウォタ、ウォタ……」
視界が奪われどうしようもなくなったエミールは木剣を持った手の上腕で水を払おうとしたのでそこに木剣を打ち込み、先ずは両手の指を潰してしまう。
「がっ貴様、卑怯な」
「ちゃんとした魔法だよ、ウォタ、ウォタ……」
くだらない言葉を無視して視界を塞いだり鼻に水を流し込んだりしながら顔中を木剣で叩きまくる。どうしても片手は【ウォタ】の標準の為に前に突き出しているので片手では威力のある攻撃は出来ないが、無防備な相手を打ちのめすのはたやすい事だ。
「ごっがっがっ」
「ほらほら、ウォタ、ウォタ、何かやってみろよ、ウォタ、ウォタ」
顔に打ち込むたびに赤い水が飛び散るが、そんな事は気にしていられない。アーロンにはこれ以上の事をやられいるんだから。
俺の攻撃は上半身に移ったがそこで木剣は動かなくなり、原因を確かめるために振り返ると眉をひそめたバーレント先生が木剣を掴んでいた。
「もういいだろ、お前の勝ちなんだけどよ、ちょっとやり過ぎだな」
「いやいや見た目は酷いかも知れないけど、これ位じゃ死なないでしょ、もっとやらせて下さいよ」
「駄目に決まっているだろ、それに魔法の使い方も何だかなぁ」
「何だかッて何ですか、効果的じゃないですか」
バーレント先生は魔法は派手に撃てば良いと思っているのだろうか、もうこれ以上は話しても無駄だと思いディルクの方に戻るとやはりそこでも苦いものを噛んだような顔をして出迎えてくれる。
「おめでとう……だよね」
「当たり前だろ、対格差や【ウォタ】の魔法を最大限に利用した戦いじゃないか」
かなりイラついていたが拍手の音が聞こえたのでその音の方を見ると、俺と視線は合わないで彼等はミランダ先生のおかげで傷が治って立ち上がったエミールに拍手を送っていた。
『こいつらは何なんだ』
『卑怯な戦いに見えたんじゃないか、人間はこれだから……』
それからは誰も俺に文句を言ってきたり嫌がらせをする者は現れないが、アビスに話だと俺は危険人物だと認定されてしまったそうだ。




