第二十一話 森林マラソン大会
これから始まる男だけの外での授業は学校の近くにある森の中を走破して戻ってくるという中々過酷な内容の授業が行われる。
『アビス、どうだった?何か話していたか』
『当たり前だ。君は完全に狙われていぞ』
『そりゃ絶好のチャンスだからな、それでどうやってやるつもりなのかな』
『それがなお粗末すぎるのだが、君が一人になって周りに人がいないのを待つそうだ』
その状況を生み出すのが作戦だと思うが、どうやらそこまでの知恵は無いらしい。
『それで君はどうするんだい。誰かと一緒にいれば安全に済みそうだが』
『いや、そんな幼稚な事しか思いつかないうちに対処するよ、奴らにとって最高の場を俺が用意するさ』
Aクラスの者達は森の前で集合し簡単な説明をバーレント先生がしている。いまから入る森は王国軍が管理しているので魔獣対策はしっかりとされておりそう言った危険はないのだが、整備された道はないとの事だ。
それに上級騎士を目指すのであればのんびりと走る事は許されないし、インチキする事も厳禁だ。そもそも折り返し地点には他の先生がいてちゃんとチェックをしているので誤魔化す事は不可能となっている。
そして生徒達は万が一の事があっても対処出来るように木剣を手にしながらスタートの号令を待っている。するとカミロがそっと近づいて来て耳打ちしてくる。
「いいか絶対に俺達から離れるなよ、もしかしたら偶然を装って奴らが手を出してくるかも知れないからな」
「気持ちは有り難いんだけどさ、本気で実行する奴がいるかどうか確かめたいんだよね」
「止めとけよ、何されるか分からないんだぞ」
「まぁ殺される事はないだろ、アーロンの兄よりかはマシじゃないか」
「お前なぁ」
その言葉でカミロは何とも言えない表情を浮かべた。するとバーレント先生が手を叩いて注目させる。
「よ~し、それじゃ始めっぞ、では行ってこい」
一斉に森の中に向かって走り出す。誰もが走りやすい場所を選んで中に入るが俺はその輪から外れた場所から入って行く。
森の中は太い木が生い茂っており、地面から根がうねるように飛び出ているので走りにくいし体力を奪われるが俺には【アニマ】という卑怯な魔法がいくらでも使えるからさほど問題にはならない。
暫く進むと少しだけ開けた場所に出たが、ここではいくら俺が叫んでもバーレント先生にもディルク達にも俺の声は届かないだろう。
『どう?ついて来ている奴らはいるかい』
『かなり離れているがな、奴らは馬鹿なのか?そんなに離れていたら見失うだろうに』
『だったら待ってやるか』
捲くのは簡単だがそれだと全く意味がない。それにさっきはカミロに格好つけて言ってしまったが俺の予想だと直接的な攻撃はするはずもなくせいぜい脅しをかけてくる程度だと思う。
俺がチクり魔だと思っているはずだからその程度だろうな、身体に傷がついていなければ俺がいくら先生に訴えても嘘だと言えるからな。
さぁどんな脅しかな、楽しみだよ。
『正確に分かったぞ、隠れているが5人だな、ただあいつらはいないな』
『そうかファビオ達はいないのか、残念だけどやはりそこまで馬鹿じゃないか』
もしかしたら白髪や茶髪ぐらいはいるとは思ったが来るのは中途半端な連中だけらしい。
疲れて休んでいる振りをしているとにやけた顔をしながら名前すら憶えていない連中が姿を見せて来た。
「どうした、もう疲れたのかよ、何でこのルートを選んだのか知らねぇけど馬鹿だね、楽な道が隠れているとでも思ったのかい」
疲れている訳があるかよ、こっちは何度も【アニマ】を唱えているから絶好調なんだけどな。
「良く分からないけど、先に行けば良いじゃないか、それとも俺に用事でもあるのかい」
「貴様はたかが男爵家の新参者のくせに生意気なんだよ、いいか父上に言えば男爵家なんかどうにでも出来るんだからな」
「そんな事を言っても大丈夫かな、怖くてまた学長に言ってしまいそうだよ」
これがカミロ達を遠ざけた理由の一つだ。いくら何でも恰好悪すぎる。いくら何でもこんなに堂々と言ったら貴族らしくないと引かれてしまうだろう。どの世界でも告げ口をする奴は嫌われるし貴族であればなおさらだ。
「貴様は本当に情けねぇ奴だな、そんなことばかり言っていると仲間にも嫌われるぞ」
「何を説教しているのかな、そっちは5人もいてよく言うよ、卑怯なのはそっちもだろうに」
「何だと、いい加減黙りやがれ」
「コオロ、もういいよこいつには身体で分からした方が良いんじゃねぇか」
「そんなことすると退学になるかもしれねぇぞ」
それをしたら問題になるのが分からないのか?だからこいつらはファビオの取り巻きに選ばれなかったんだ。だったら仕方がないな。
「あのさ、そんな事言わないからかかってきたらどうだい。まぁ俺は1人しかいないけどそれでも怖いのかな」
「何だと~俺がやってやる」
「もういいって、ウォタ……」
面倒なので5人の口の中に無理やり水を流し込む。どうなるか分からないが実験材料になって貰おう。
「ぐぃごぼっがぼっ」
「あががっ」
咳込む者もいれば喉を抑えながらのたうち回っている者もいる。向かってきそうな奴には更に流し込んでやった。
「これは只の遊びだけどまた何か絡んでくるようなら次は遠慮しないからな」
その言葉を残して走り去るが、心の中では予想以上の効果で心臓が高鳴っている。
『あのままだと死ぬ奴もいるが解除しなくて良いのかね』
『そうなの、死なせるのは不味いって』
『だったらもう少し考えるんだな』
『初めてなんだから仕方がないだろ』
魔法を解除して水を消してから全力で森の中を走る。少しでも息が苦しくなると【アニマ】を唱えているのでほぼ全力疾走のままで中間地点に到着する事が出来た。
中間地点の目標である一本杉の下では教師のバサライトが暇そうに空を見上げていた。
「先生到着しましたユリアスです。これで良いですか」
「中々早いじゃないか、ではこの木札を持って戻り給え」
再び全力で走ると途中で何度か転んでしまったがそれすら【アニマ】で回復する事が出来る。
こんなに便利だし初級なんだからもっとみんなも使えばいいのにな、そういや魔力の消耗が激しいと言っていたがどうなんだろう。俺には分からないな。ってゆ~かどれだけ俺は魔力があるんだよ。だったら上級魔法どころか神格魔法も使えたんじゃないのか。
何とも言えない思いを抱えながら走っているといつの間にかバーレント先生の元に戻って来た。
「えっ何でお前がもう戻って来たんだ?まさか諦めたのか?」
「そんな訳ないでしょ、木札だってありますよ」
バーレント先生が驚いたのも無理はなく、誰も期待していなかった俺が断トツの1着だった。
すべて【アニマ】のおかげだけどやり過ぎだったかな、まぁいいよね。




