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第一話 初日

「何だ、やっぱり夢だったのか…………嘘だろ」


 視界に広がっているのはあの小部屋の中では無かったがいつもの俺の部屋とは全くの別の部屋で大きなベッドの上で寝ているし周りに置いてある物も見覚えのない物ばかりだった。


 そしてあの言葉を思い出した。


『君達の中には浮かれる馬鹿もいるだろうけど頼むから大人しくしてくれよな』


 ちょっと待ってくれよ、一体何処までが本当の事なんだ。


「ううぅっ」


 いきなり頭の中に別の人物が見た光景や音声が流れ込んでくる。余りの速さにはっきりとは分からないがそれが終り少し時間が過ぎると段々と頭の中で理解した。


 記憶を植え付けられたのか。こんな技術がある訳ないと言う事は本当に異世界に俺は連れて来られたのか。


 どうやら俺はユリウス=プルクナーと言う少年で男爵家の三男として育ち年齢は15歳らしい。34歳であるはずの俺が15歳になるなど少し無理があるんじゃないだろうか。


 そしてこの場所はガルト王国の辺境の地だそうだがそんな国は勿論一度も聞いた事が無い。それに使用できる魔法とやらも理解出来ているがどれもがくだらない魔法だ。


 火属性魔法(ファイア、顔の大きさ程度の火が出せる)

 水属性魔法(ウォタ、飲料水が出せる)

 土属性魔法(ムーブ、最大で1m四方の土を動かせる)

 風属性魔法(ウインド、それなりの風が吹く)

 聖属性魔法(アニマ、少しだけ体力回復)

 闇属性魔法(ダークアイ、暗い場所でも昼間の様に見える)


 子供が考えそうな可愛い魔法だな、これで戦ったりすればいいんだな……あほか、出来る訳ないだろうが、それに魔法名なんて安易すぎやしないか。こんなものを頭の中に入れやがって、何の実験なんだ。


 こんな事には付き合っていられない。早く此処から逃げ出して警察に行かないと……いや先ずは会社に行ってからだな。


 鴻上明は会社の呪縛から逃れる事が出来ずに冷静な判断がずっと出来ていない。


 ベッドから下りて窓に掛かっているカーテンを開けると空に雲がかかっているのか暗闇が広がっていた。


「何だよ見えないじゃないか、そうか、ダークアイ、何て…………えっ本当に魔法なのか」


 呟いた途端に目の前の暗闇が消え失せて見えなかった風景がはっきりと見えるようになってきた。


『そろそろ良いかね』


 いきなり背後からバリトンの聞いた声が聞こえてきたので振り替えると30cm程の小さな赤い物体が浮かんでいる。


「もしかして竜なのかい、まさか……どうして」


『どうしてって、この私が君の使い魔だからに決まっているからだろ』


「ちょっと待ってくれよ、竜だって俺は何で知っているんだ」


 頭の中に竜の知識が浮かび上がって来る。


『どうやらまだ混乱している様だな。話にならないようだからまた後にするか』


 その言葉を最後に目の前にいたはずの子竜は姿を消してしまった。目をどんなに擦ってもその姿は何処にも見えなくなってしまった。


 頭の中がパンクしそうになったのでベッドに腰を掛けると再び色んなことが思い出される。


「これは現実でユリウス君の知識や思い出で間違ないのかな」


 彼の性格は分からないが見てきた事や知識が少しずつ頭の中に浸透しているようでそのまま蹲ってしまう。


 もしかして俺の身体に入った奴もこうして俺の記憶を植え付けられているのだろうか、誰だか知らないけど頼むから両親と妹の面倒を見てくれよ、それと会社の事……もう行かなくて良いのか。


 マジかよ、俺の代わりに俺の身体に入った奴が行ってくれるのか、嘘だろ、最高じゃないか。


 もしかしたら俺は自由かも知れない。いや待てよ、こんな力しかないのにこんな世界でどうやって生きて行けば良いんだ。


 この男爵家はどうせ長兄が継ぐだろうし次兄は頭が優秀だそうで何とかなりそうだがこのユリアスはどうしてこうなんだ。


 初等学校を卒業してから上等学校に進んでいないじゃないか、何を考えているんだ。


「いや、それでも元の世界の知識があれば何とか生きていけるのかな、どうやら文明が遅れている様な世界だけど……だからと言って俺に何が出来るんだ」


 感情がジェットコースターのように揺れ動いていると再び子竜が目の前に浮かんできた。


『落ち着いたかね、そろそろ契約を済ませたいんだがね』


 どんなに考えても小竜であることは理解出来るのだが使い魔が何なのかが全く理解出来ないのでユリアスの知識の中に入っていないのだろう。


「契約ってどういう事なんだ、何かしなくちゃいけないのか、別に俺の使い魔とやらにわざわざならなくても君は自由にしてもいいんだけど」


『私が困るんだ。いいからじっとしてくれるだけでいいさ、まぁ深くは考えるな、勝手にやらせて貰うぞ』


「えっ、それは無いんじゃ……痛っ」


 右手の甲に痛みが一瞬だけ走ったが直ぐに何事も無かったかのように痛みは消えて行った。


『これで私の君の間に契約は交わせたな、もう言葉で話さなくても頭の中で念じるだけで会話が出来るぞ』


『これでいいのかい、それで君は俺の部下みたいな存在なのかい』


 俺の言葉が届いていないのかそれとも何かが気に食わなかったのか小竜から嫌な気配がしてくる。


『この私が君の子分だと、元魔王であるこの私を部下に出来ると思うのかね』


『ちょっと待って、魔王?』


『そうだ、元だがな』


『あの魔王様、そうなると俺が部下になるんですかね、そもそも使い魔って何ですか』


 どう見ても魔王のようには見えないが、此処は元の世界とは違うのだからあまりうかつな事は言わない方がいいだろう。


『別に普通に話してくれて構わんよ、私は元魔王ではあるが今は観察者によってこんな身体にされたんでな、それで使い魔の意味だが……まぁ簡単に言えば契約をしたからには君に簡単に死なれては困ると言う事だ』


 何が言いたいのか意味が分からないが、ただ俺に力が無い代わりに元魔王ならその身体でもそれなりの力があるんじゃないだろうか。


『相棒みたいなもんなんですかね』


『まぁそれでも構わんぞ、ただな君が思っている様な力は私にはないから期待しすぎるなよ、今の私に出来るのは姿を消したりだとかその程度だな』


『えっ竜だったらブレスとか出せるんじゃないの』


『この身体なんだぞ、出せたとしても威力があると思うか、まぁ出せんがの』


『俺を乗せて空を飛ぶことは?』


『この身体の何処に乗るんだね、それに大きくなれる訳がないだろうが』

 

 たしかかなりのポイントを消費したはずだ。それなのにこれは無いだろう。


『君の存在意味って……』


『さぁな、知らんよ。それでも契約をしたという事で君が死ぬまで魔力を勝手に貰う事になっているからな』


 それだと俺はただのエサなのか? それに元魔王なのに何も出来ないのかよ。


『ちょっと聞いていいかな、元魔王なのに使い魔になった訳を聞かせてくれないか』


『いくつか人間の国や獣人族の国を滅ぼしたせいかな、ただ魔族も気に食わん種族は殺しまくったぞ、けどやり過ぎたのか勇者にやられてしまってな、本当だったら消滅するはずだったんだが【観察者】が暫く使い魔として生きれば消滅を防いでやると言って来たんでその条件を飲んだだけさ』


 何だそれ、虐殺魔が俺の使い魔になったのかよ。



 


 





  

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