第十八話 兄弟の集まり
あれから1時間もしない内に別の先生が教室にやって来て此処での自習は中止となり自室での待機が言い渡された。
真っすぐ自室に戻らないといけないのだが、その前に長兄のアーロンが学んでいる教室に寄る事にする。
此処の隣の校舎に教室があり、丁度いい具合に休憩時間になったようなので中を覗いてみると楽しそうに談笑しているアーロンの姿が見えた。
向こうも此方に気が付いたようなので手を振って見たが、此方に来るどころか無視してまた談笑を始めている。
昨日あんな目に合わせておいて良くその態度が出来るよな……あいつの性格だともしかして俺にあれを求めているのか。クソッ。
「あ~あ~、お兄ちゃん……お兄ちゃ~ん」
教室中の視線が一斉に突き刺さるので顔から本当に火が出てしまうぐらいに恥ずかしいが、それなのにまだアーロンは無視している。
「お兄ちゃんってば、聞こえているでしょ、用事があるんだって」
「おぉ我が弟とよ、いくら何でも学校ではその呼び方は止めるんだ。お前は本当にまだ子供だな、なぁそう思うよな」
「可愛い弟じゃないか」
「仲がいい証拠じゃないの」
周りから声を掛けられ嬉しそうに歩いて来るアーロンを見ていると、このまま戻ってやろうとも思うがその気持ちをグッと押さえ込む。
「どうした我が弟よ、もうそろそろ呼び方を変えた方が良いんじゃないか」
頼むからそのにやけ顔を止めてくれ。
「だったら本当にそうするけど良いんだね、それにさ昨日の事はまだ許して無いんだからね」
「お前なぁ根に持つなよな、ちょっとした間違いじゃないか、それよりどうしたんだ……あぁそうか、そいつらを叩きのめせば良いんだな」
いきなり走り出そうとするアーロンの背中に必死にしがみ付く。
おいおい、こんな馬鹿で近衛兵に本当になれるのか?直ぐに問題を起こす未来しか見えないんだけどな。
「違うんだって、少し話しを聞いてくれよ」
「んっそうなのか。では何をしたんだ」
その頭で理解してくれるか心配ではあったが簡潔にまとめて説明をする。
「まぁお前らしいと言えばそうなのかな、けどよぉまどろっこしくねぇか」
「仕方が無いんだよ、俺には力もないしまだ信じられる味方もいないからね、お兄ちゃんと同じようには出来ないよ」
俺にとっては頭の足らない長兄としか見えないが、人望はあるし成績もトップクラスなのだから分からないものだ。
「まぁいいけどよ、それで俺に何の用事で来たんだ?まさかその話をする為じゃないだろ」
「そりゃそうさ」
◇◇◇
『それで良いのか?間に合う訳ないだろ』
「それは分かっているさ、ただしないよりかはマシなんだ」
『私が食い殺した方が早いのにな』
「駄目に決まっているだろ、物騒なんだよ」
本心では無いとは思うけど、全くの嘘だとも思えないから怖いんだよな。
星の明かりに照らされた校庭の真ん中でアビスと会話をしながらアーロンがやって来るのを待っている。アビスは姿を消しているのでもしこの姿を見られたら手にした木剣に話し掛けている危ない奴に見えるかも知れない。
少しするとアーロンとマティアスがやって来た。
アーロンがマティアスを連れて来たのは構わないが、それよりも気になるのはアーロンが首を支点にして担いでいる切れ味の良さそうなハルバートだ。
「もう待ち構えているとは言うだけあってやる気があるんだな、さぁ始めるか」
「ちょっと待ってよ、えっ木剣はどうしたんですか、まさかそれは使わないよね」
アーロンはニタニタ笑っていて、それを見たマティアスは嫌そうな顔をしながら首を横に振っている。
「諦めなさい。早く強くなりたいなどとお願いしたお前が悪いんだぞ、そんな事を言わなければ良かったのに馬鹿だよ、どうしてそんな事を兄上に頼むかな、まぁ頑張りなさいとしか言えないな」
「変な事言うな、ユリアスよ俺に任せれば強くなれるし、俺が与える痛みに比べれば他奴から貰う痛み何て可愛い物さ」
「えっちょっと待ってくださいよ、痛みってなんですか、そもそも早く強くなりたいなんて言っていないって、俺は普通に鍛えて欲しいだけなんですけど」
「いいから俺ん任せろ、お前をあっという間に強くしてやる」
アーロンが何をする気か分からないがもう何を言っても聞いてくれそうもない。
『良かったではないか』
『良い訳ないだろ、アビスだって話を聞いていただろ、身を守る為に強くなりたいって俺は言ったよね』
『確かにそう言っていたがな』
アビスとは頭の中で会話が出来るが、もう恐怖に包まれて喉が張り付いてしまい声に出す事が出来ない。
「いいですか兄上、ユリアスを斬るのは構いませんがやり過ぎは駄目ですよ、私の回復魔法は万能では無いんですからね」
「それぐらい分かっているさ、俺が可愛い弟をそんな真似をする訳ないだろ……んっお前は木剣で俺と戦うのか、まぁどうせ当たらないからそれでも良いか」
馬鹿なの、何で強い方が真剣のハルバートで俺が木剣何だよ、無茶苦茶じゃあないか、それに最初は素振りとかじゃないのかよ。
声に出して文句を言いたいが、喉が張り付いて声に出す事が出来ない。
「もう始めては如何ですか、時間は無限では無いのですよ」
「そうだな、では始めるか、行くぞユリアス。さぁちゃんと躱すんだぞ」
「ちょっと……ギャーーーーーー」
直ぐに木剣を持っていた右手の肩から先が地面に落ちてしまい、肩からは血が噴水のように吹き出している。俺の口からは叫び声しか出てこない。
「ちょっと何しているんですか、いくら何でも斬り落としたら駄目に決まっているでしょうが」
「いや、その、だってよ、これぐらいは避けると思ったんだよ、なぁどうする」
「どうするって、あぁもう」
マティアスが傷口に手を翳すと吹き出していた血は止まったがそれだけで痛みは治まらず、もう意識は消えてなくなりそうだ。
『何をしている、早く魔法を掛けないと死んでしまうぞ』
『俺に何が出来るんだよ』
『馬鹿かね君は』




