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第十七話 いよいよ始まるぞ

 セシリア先生は他の生徒にも聞かせるためなのか教壇の前に立ってイサベルを視線で殺すかのような鋭い目を向けて怒りに満ちた声を出した。


「どういう事か説明して下さるわよね」

「あの、今のは言葉のあやでして」

「あやであの言葉が出るのですか、それにそれだけじゃないようですしね、良いから説明して下さい」

「えっいや、あの……」

「もういいです。誰か説明して下さい」


 周りを見渡すが、やはり侯爵家であるイサベルに気を使っているのか誰も発言しようとはせずに視線をそらしている。


 これは想定道理だな、まぁ俺は言ってしまうんだけど。


「誰も言わないようですので私が言います。まず獣人族の女性の事は半年前の食堂で起こった事だそうです。僕以外の証言を求めるなら貴族の生徒ではなければ証言してくれると思いますよ。まぁ目の前では侯爵家の威光が怖くて言えないと思いますけど」


「どういう事です?話が見えなくなったのですが」

「まぁ先生方が本気で調べれば分かるんじゃないですか、此処に来たばかりの俺が知った事なんですから。あっそうだ。公爵家である学長なら貴族のクラスの人達も嘘を言わないで全ての事を話すんじゃないですかね」


 俺が学長が公爵家であることを言うと、クラス中にざわめきが流れた。


 あれっもしかして秘密の話だったのか?だったら何でマティアスは知っているんだ?


「ユリアス君は余計な事を他では言わないようにして下さい。それとイサベルさんは私と一緒に来なさい。他の人達は静かに自習をするように」


 二人が出て行った後の教室は静かになる訳は無くて、此方を気にしながら近くの者達と話を始めている。


『ユリアスよ、どうして無視されている事は言わないんだ?』

『そっちは様子見だよ、下手したらこのクラスの全員が怒られるんだぜ、そんな事になったらもと酷い状態になりかねないからな、まぁエリサの今の立場がどうなっているのかは直ぐに分かってしまうけどね』

『人間とはやはり面倒だな、おっ凄い形相でやって来るぞ』


 てっきりイサベルの取り巻きの女性達かファビオ一派の誰かが文句を言いに来るだろうと予測していたが、アビスの言う凄い形相の持ち主はディルクで俺の手を取るとそのまま教室の外に連れ出された。


「どうしたんだい。何をそんなに慌てているんだよ」


 ディルクは俺の質問を無視して誰も使用していない教室に中に入り、そこでようやく手を放してくれた。


「よくそんな風に平気でいられるよな、学長が公爵の爵位を持っている何て知らなかったけどその学長の耳に入ってしまうなんて問題が大きくなり過ぎじゃないか」


 ディルクは悪気はないのかも知れないが、その言葉を聞いてしまうと怒りで怒鳴りつけたくなる。


 俺は大人だから冷静に話すけど。


「わざと大きくしたんだよ、この国は獣人国の国であるエノワ共和国と友好関係にあるから亜人なんて言ったら大問題になるに決まっているだろ、それにな調べれば今のエリサがどうなっているのかなんて直ぐに分かるさ、まぁ分からなければ俺が言うけどな、それに君はエリサが半年もクラスの連中から無視された事はどう思うんだい。君だったら耐えられるのかよ、イサベルはそな酷い真似を仕向けたんだ。その報いは受けて貰うさ。公爵家である学長がどう動くのか楽しみで仕方がないよ、それに上手くいかなかったら別の手段を使って追い詰めてやるさ」


「君の実家に迷惑が掛かるって事を考えないのかい。もっと別の方法でエリサちゃんを助ければ良かったじゃないか、いてっ」


 アビスはイライラしたのかディルクの後頭部を叩いた。


「半年もエリサを無視した君がそれを言うとは驚きだね、あのさぁ俺と距離を置きたかったら構わないぜ、何処が部屋割りを決めるか知らないけどそこに言って別の部屋に変えて貰えよ、それにな君達みたいな奴等が上級騎士を目指すなんて馬鹿げているけどな」


 ちょっと興奮して言い過ぎてしまったが、無言になったディルクをそのままにして教室に戻って行く。


『随分と攻めたじゃないか』

『元の世界の俺と被ったんだろうな、昔の俺なら同じようにしていたはずだからイラついたんだよ』


『性格が変わるほどの時間を過ごしているとは思えないがな』

『良く分からないけど、どうせなら自分が好きな俺になりたいんだろうな』


 教室に戻ると一斉に視線が降り注ぐが特に俺に対して何かを言ってはこない。ただ緑髪のエミールだけは俺の方に向かって来た。


 今度は力で来るのか、まぁいいけどな。


『やられそうなら助けてくれるかな』

『食い殺して良いのなら手伝うがそれでも良いのかね』

『駄目に決まっているだろ、極端なんだよな、いいさ、何とかなるだろう』


 エリサは困ったように俺とエミールを交互に見るが俺は大丈夫だと声を出さずに合図を送る。


「何をしたか分かっているんだろうな、そのまま外に出ろ」

「残念だな、もう少し話が分かる奴だと期待していたんだけどね」

「何をごたごたと、ごぶっふぅ」


 俺に掴み掛ろうとしたその手を口に持って行き、よろよろと階段を登った後で床に蹲った。


 気持ち悪くさせるだけか、これだから俺の魔法はいまいちなんだよな。


 俺がやったのはただ【ウインド】の魔法をエミールに向けて放っただけだ。但し開いた口に直接送りこんだ。


 この世界の人間は頭が固いのかそれとも出来ないのか知らないが魔法を直接当てる事は殆どしない。不思議なのは【ファイア】などは竈に直接火をつけるのにどうして人に着火させないのだろうか。


 特にこの前の授業で他の生徒がやっていた【ファイヤーランス】などわざわざ自分の前に出してから発射させている。それだから躱されてしまうのに。


「どうした緑」

「何だと、人の髪の色で呼ぶんじゃねぇよ」

「あっそう(ウインド)」


 小声で唱えれば魔法は発動する。再び口から風を流し込むとかなり気持ち悪いのか今にも吐きそうな顔をしている。


 すると茶髪のアルミと白髪のマルセルが助けに来たので【ウインド】を解除する。もしかしたらマルセルに気が付かれてしまうかも知れないと思ったがまだ原因は分かっていないようだ。


 エミールは流石に分かっているよな、それすら分からない馬鹿かな。


 クラスの人達もこの状況に騒ぎ始めるといきなりファビオを机を叩いて大声を張り上げた。


「静かにしたまえ、エミールは具合が悪いなら治療室に行って来い。今は自由時間ではなくて自習時間なんだぞ、騒いで良い訳ないだろうが」


 その声でクラスには静けさが戻り、エミールはアルミに連れられて治療室に連れていかれた。


 たかが口の中に風を流しただけだから意味は無いと思うけどな。


 席に座ると心配そうな顔をしたエリサが小声で話し掛けてくる。


「あんな騒ぎをおこして大丈夫なの」

「まだ始まりだよ、もっと大きくなるのかあれで終わるのかは学長の対応次第だね」


 面白くなってきたぞ。

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