第十六話 作戦開始
昨日まではディルクと一緒に教室の中に入ってそこで俺と別れるのだが今日はディルクに先に入って貰い後から一人だけで中に入った。
やはり様子は変わっていてファビオは俺が中に入ったのを気が付いているはずなのだが、わざとらしく視線を外して白髪のマルセルと真剣な表情で話している振りをしている。なにより昨日までは俺の定位置だった席にはイサベルが座っていた。
俺がそっちに行ったらどんな反応するかな?まぁ空気が悪くなるのが分かるから行かないけどな、だから安心してくれよファビオ君。
『ユリアスよ、やはり君の場所は奪われたようだな』
『予想通りだね、俺としてはその方が良いんだよ』
『ではやるんだな、面白そうだから早くその時が来て欲しいものだ』
『まぁ直ぐッて訳は無いと思うけどね』
アビスと会話をしながら教室の一番端に座っているエリサの隣にそっと腰を下ろした。
「お早う、本当の意味で今日から宜しくね」
これから始まる授業の予習をしていたエリサはいきなり話し掛けた俺を見てかなり驚いている。
「ちょっと何で此処に座っているの、早くいつもの席に座りなよ」
「いやぁ俺の実家は男爵家でしょ、あの女が戻って来たら邪魔になったみたいだね」
アビスの話だとファビオは所々で俺が有能な可能性があるとイサベルにいったそうだが、頑なに男爵家である俺をイサベルは認めなかった。その結果がこれだ。
そしてエリサは振り向いた後で少しだけ嫌そうな顔をした。
「分かったけどさ、だけど此処にいちゃ駄目なの、私と関りを持たない方が良いんだよ」
「そうみたいだけどさ、もう無理かもよ、俺の視界にはあれが睨みつけてい姿が見えるからね」
「でもユリアス君はまだこのクラスに来て1週間過ぎたぐらい何だから何とか誤魔化せるから……」
小声で必死に俺をこの席からどかせようと言ってくるが、セシリア先生が教室の中に入って来たのでエリサは諦めるしかなかった。
俺を同じ目に合わせたくないんだろうな、何となく次兄のあの方法を選びたくなってきたけど俺がやると失敗するだろうな。
クラスの者達も俺があの場所ではなくこの場所に座っている事は気が付いていて俺の方を見ながらコソコソ話しているのが見えるが、セシリア先生が軽く咳払いをするとそれも治まった。
◇◇◇
1限目が終わりセシリア先生が教室から出て行くと再び俺の話をしていそうな声が聞こえてくる。
エリサは話し掛けても無視して教科書に視線を落としてい。そして丁度この席の反対側に座っているディルクやカミロはさりげなく俺を呼んでいるがそこはわざと無視している。
今はそっとしてくれよな。
『ユリアスよ、こっちに来てるぞ』
『だろうね、まぁ予想は少し外れたけど』
てっきりこんな場合は俺より遥かに強いエミールが来るのかと思っていたが、歩いて来たのは茶髪で勉学が得意のアルミだった。もしかしたら上手い事を言って俺を説得しに来たのかも知れない。
ゆっくり近づいた後で俺の肩にそっと手を置いた。
「ちょっといいかな、ここではあれだから廊下に出ないかい」
「申し訳ないけど身体の調子が悪くて立てないんだよ」
「あのね君は誤解しているんだ。悪い事は言わないから無理してでも来るんだよ」
無理やり席を立たそうと腕を掴んできたが、その力では俺を動かす事は出来ない。アルミの事は嫌いでは無いがここで従ったら意味が無くなってしまう。
「悪いけどこの場で話してくれないかな。本当に辛いんだよ」
昨日の次兄の言葉通りもう何処も痛くはないし体力も完全に回復したので行こうと思えば置けるが、周りが聞き耳を立てているこの場で会話をしてくれないと俺の作戦が上手く運ばなくなってしまう。
「そうか分かったよ、いいかい君は呼ばれなかったから勘違いをしているけど今日はたまたまイサベル様があそこに座っているだけなんだ。最初は居心地が悪いかも知れないけど上手くファビオ様が取り持ってくれるからさ、だから僕の隣に座った方がいいと思うよ」
「別にここでも良いんじゃないか、かなり広く使えるしね」
「後でゆっくりと説明するけどこの席は君に相応しい席じゃないんだ」
アルミは早く終わらせたいのか少し興奮し始めている。
だったらもう仕掛けてみるか。
『アビス、頼む』
『まだ早いんじゃないかね、まぁやっては見るがね』
「あのさ、相応しく無いって意味が分からないな、俺がこのクラスに来てから6日、いや、7日、いや、8日かな、ねぇどうだっけ」
周りは完全に俺達の会話に注目し始めているので時間を稼ぐために少し強引に話を伸ばし、それにゆっくりと話ている。
「そんな事はどうでも良いんだよ、後で説明するって言っただろ、先ずは席を移動するんだ」
「そんなに言うのなら君に従うしか無いのかな、さて、あっゴメン落としちゃった」
「何をしているんだ君は」
わざと袋の中身をぶちまけた後でゆっくりとそれを拾い時間稼ぎをする。調子が悪いと言っているので手を震わせ手に持ってもまた落としたりしている。
どうみても大根役者だよな、まぁいいか。
隣のエリサはいきなり俺が変な動きをしているのに視線は教科書をずっと見ている。あくまでも俺を遠ざけたいようだ。
『ユリアスよ、此方は良い感じだが本当に上手くいくかね』
『どうかな、今回は練習のつもりだから失敗しても良いよ』
袋にしまった後で今度は眩暈をしている振りをして俺は動かない。
「君はわざとやっているのかい」
「今頃気が付いたのかよ、ちょっと遅いんじゃないかな、あのね俺は君達と距離を置こうと思っているんだ。だってさ男爵家の存在を嫌っている人があそこにいるじゃないか、何でわざわざその人の近くに行かなくちゃいけないんだい。楽しくないじゃないか。まさかクラス内で身分差別をしている人がいるなんて驚きだけどね」
わざと大きく声を出してクラス中に聞こえるように言ってみると、俺の予想を超えて単純な性格だったのかイサベルが挑発に乗って来た。
「そこの貴方それは私の事を言っているのですの、いいですか私は全ての男爵家が嫌いなわけじゃありません。貴方みたいな卑怯な真似をするのが嫌いなんです」
「どういう意味かな、それは俺が入学試験を受けてないからかい」
『おいっまだか、早くしろ』
『まだ上手くいっていないんだ、悪いけどどうにかして止めてくれないか』
『全く、面倒だな』
「そうです。どうせ貴方の兄からの臨時収入で不正に入学したんでしょ、男爵家はお金に物を言わせる卑しいお方が多いですからね」
俺の誘導が下手なせいで上手く話の流れが良く無いが、もう強引に仕掛けるしかない。イサベラとこんな風に言い合えるチャンスはそう簡単には訪れないだろう。
教室の入口では扉を開けようとしている音が聞こえるが、アビスが開かないように押さえてくれている。
「いやぁ素晴らしい差別意識だな、金で男爵の地位が買えるのは国王様が決めた事なんだぜ、そんな考え方だから獣人族の事を亜人と言ったり、たかが失敗しただけで殴ろうとするんだな、よく自分の母親と同じような年齢の女性に酷い事が出来るよな」
『強引過ぎないか、ちょっと言葉がおかしいぞ』
『仕方が無いんだよ、だけどさ馬鹿だから顔を真っ赤にしているぜ』
「何て事を言うのですか、亜人と私の母を一緒にするなんてどうかしています」
「何でだよ、獣人族をただの使用人としてしか見ていないのか」
「亜人が使用人ですって、あんなのは使用人以下の奴隷ですわよ、言葉を理解しないようだから身体で教えようとしただけです」
その瞬間にアビスが押さえていた手を放すと勢いよく扉が開かれて、怒りに顔を赤く染めたセシリア先生が中に入って来た。
『さぁどこまで聞こえてたかな』
『人間の耳だと上手い具合に亜人の言葉位からだと思うぞ』
もしそれが本当に正しければいいタイミングだと思う。
『有難う、感謝してるよ』




