第十三話 エリサの敵
転校生にありがちな呼ばれてから登場するので教室の外で待たされ、いつ声が掛かるのか分からないその時を待っている。
『昨日は眠れなかったようだが、どうするのか考えは決まったのかね』
『まだだね、出来ればエリサと話したかったけど女子寮には入れなかったし食堂にもいなかったからな』
少しして呼ばれたので中に入ると教室の中は大学の講義室の様な造りになっているので、他の生徒からの視線が上から降って来るように感じた。そして簡単な自己紹介が終わる。
エリサは……やはり端で一人か。
「ユリアス君、ここでは席は決まられていないので空いている場所に座って下さい」
「分かりました。失礼します」
「ねぇ、だったら私の隣に座らないかい」
教室の一番奥の中央に座っている金髪が良く似合うイケメンの男が手を上げて声を掛けて来た。
静まり返ったこの状況で声を掛けると言う事は自分が中心であることを俺に示しているんだろうな。
もし俺ではなくアーロンだったのならその声の持ち主に断りを入れてエリサの隣に座るのだろうが、俺は最初にこのクラスの中心人物と接触したかったので都合のいい展開になってくれた。
注目を浴びながら彼の側まで行き、笑顔を見せながら手を差し伸べた。
「呼んでくれて有難う、今日からよろしく」
「良いんだよ、人に優しくするのは当然の事だろ、私はファビオ=エストラダさ、何でも聞いてくれ」
想像通り、彼は侯爵家の子息だったか。
ファビオは人の好さそうな笑顔を向けながら話掛けて来たので、もしディルクからあの話を聞いていなければ彼に心を許していたに違いない。
『飲み込まれるなよ、こいつは本心で笑っている様には見えないぞ』
『そこまでガキじゃないから大丈夫だよ、俺はこの見た目だけどこいつより倍以上生きているんだぜ、まぁどんな奴か知るにはいい機会だね』
ディルクによるとファビオはノートを取らないのに成績がいいので、どうせ不正をしているはずだと言ってきている。
確かに彼はノートを開こうともしないし教科書にも目を向けていないようだが、その視線はセシリア先生をじっと見ている。俺が彼をチラ見している事すら気が付いていないようだ。
凄まじい集中力だな、もしかしたら厄介な男の可能性もあるな、出来ればただの年上好きであってくれたら助かるんだけど。
◇◇◇
「久しぶりの学校はどうだった?」
「そうだね、まさか初日からがっちり授業があるとは思わなかったな」
「それはここがAクラスだからさ、上級騎士を目指すならこれになれないといけないが、もしそうでないならBクラスに変えて貰った方がいい。私はお勧めしないがね」
まさか同じ学校でしかも貴族は2クラスしかないのに授業内容が違うとは思わなかった。
「あれっ男なら分かるけど女性にはそこまで必要なのか? 全員騎士になりたいのかな」
「そんな訳ないだろ、色んな意味があるのさ、そのうち分かるよ」
もしかしたら良い縁談を見つけたいのかも知れないが、だとすると子爵の思惑が分からない。寄って来る男を排除する必要は無いと思うのだが……。
翌日からも教室に入るとファビオから声が掛かり必然的に隣に座る事になった。そしてこの近くにはいつも3人の男がいて彼等もファビオのお気に入りのようだ。
緑髪のアーロン以上に身体の大きなエミール=アドラーは伯爵家であり、その見た目通り体術や剣術ではこの学年では不動の1番だ。
茶髪で異様なまでに痩せている神経質そうなアルミ=ジャマスは勉学に優れており実家は子爵家である。
最後に白髪で少し太っているマルセル=ブロックは伯爵家の跡取りでその見た目通り動きは鈍いが火属性魔法と風属性魔法は中級魔法まで使いこなせることが出来る。
この学年の優秀な3人と言ったところか、やはり平民のクラスからは成績上位者は出ないんだな、それよりもなぜファビオは俺に必要以上優しくするんだ? 人気取の為か? いや、優秀な2人の兄のせいだろうな、だから俺にも何かがあると思っているんだろうか。
いつも同じ人間とファビオは過ごしているが、別にそれ以外のクラスメートと距離を置いている訳ではなく誰でも気さくに声を掛けている。
ただ、エリサにだけは存在が見えないかのように振舞っていた。
そして数日が過ぎて、ようやくエリサを孤立させる原因となったイサベル=モンロイがようやく学校に登校してきた。
教室に入ると真っすぐファビオの元にやって来る。
「お早うございますファビオ様、私もようやく父から解放されて登校できるようになりましたわ」
「話は聞いているよ、モンロイ卿のお供でエノワ共和国に行っていたんだろ、ご苦労だったね」
「よして下さいな、あやうく私が交換留学生に選ばれるところでしたわ、もし本当に選ばれたらどうしましょう」
エノワ共和国? あぁ獣人国の国だよな、よくあの言葉を言った彼女が行ったものだな。
「まぁそんな事は決してないから心配しなくても大丈夫さ、そうだっ君の慰労を兼ねてお茶会を開こうと思うのだが今日の放課後はどうかな、友達を誘って来ないかい」
「喜んで行かせて貰いますわ、それで他には誰を呼ぶのですか」
「急に決めたのでいつものメンバーに加えて此処にいるユリアス君も招待するつもりだよ」
「確かアーロン様の弟ですよね……あの実は」
「今日は俺は行けないよ、補修をしなければいけないんでね」
わざとイサベルの言葉を遮るようにして嘘でお茶会を断る事にした。
「そうなのかい、ユリアス君は来れないのか、イサベルもなのかい」
「いえっ私は大丈夫ですので是非とも参加させて貰いますわ」
『それでいいのか』
『あぁイサベルが俺の事を避けたいと思っている事が分かったからね、男爵家と一緒にいたくないのか、それともアーロンがが何かをしたのか分からないけど』
イサベルが俺の事をどう思うかは関係ないが気になるにはどうしてファビオがエリサを避けているかだ。
まぁ侯爵家のイサベルと子爵家のエリサとどちらを味方にするとしたらおのずと答えは分かるが本当にそれだけが理由なのだろうか。




