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第十二話 エリサの秘密

「二人とも、彼はどう見るかね」

「そうですね、筆記試験の結果を見ますと、あれがわざとでは無いのでしたらどんな生活を送っていたのか気になりますね」

「それに体力は並ですぜ」

「そうだな、けどあの魔法は面白いと思わんか」

「学長、あれは初級魔法じゃないですか、何が面白いんです」


「セシリア君はどう思う」

「そうですね、精度とその速度は目を見張りますね」

「そうかぁなぁ」


「まぁあ奴はAクラスでいいだろ、本人も希望しているしな」

「俺は従いますよ」

「私も担任として彼を受け入れます」

「決まりだな」



 ◇◇◇



 その場では結果は教えて貰えなかったが、これから暮らす部屋は教えてくれた。


「思ったより広い部屋だな、ここで5年間暮らすのか」

『嬉しいのかね』

「そりゃそうさ、これを見るとあの世界の部屋は犬小屋みたいだったな」


 入口を開けると10畳ほどのリビングがあり、さらに扉が3つあるので風呂・トイレ・寝室と言った感じだろう。


『この部屋の中なら姿を隠さないでも良いんだよな』

「あぁ好きにしてくれよ、隠していると余計に魔力を消費するんだろ」

『私では無くて君がな』


 窓から見える風景には王都の街並みが遠くに見え、出来る事なら学校を飛び出して見学に行きたいが最初に荷物整理をしてから出かけるとしよう。


「何処に届いているのかな」


 すると扉の一つが開いて中からそばかす顔の眠そうな小さな少年が出て来た。


「随分と独り言が激しいじゃないか、ここは個室では無いんだよ」

「あっそうなんだ。寝ているところを起こして悪かったね、俺は今日からこの部屋に入るユリウス=プルクナーだよ、君は?」

「僕はねディルク=コバーンさ、同室になったんだから仲良くやろうじゃないか、君はそこそこ有名人だか…………」


 いきなり話すのを止めて、まるで時間が止まってしまったかのように動かなくなってしまった。


 もしかして病気持ちなのか?誰か呼びに行った方が良いのかな?


「あの、俺の声は聞こえているかな」

「あうあうあうあうあうあうあう」


 口をパクパクさせて無いかを言っているが意味が分からない。


「水が欲しいのかい、だったら行くよウォタ」


 少量の水をディルクの口の中に出してみたが、いきなりだったので気管に入ったしまったらしく胸を抑えてむせている。


「ごほごほっ、いきなり何をするんだい、僕を殺す気か」

「ゴメン、悪気は無いんだけど、さっきはどうしたんだい。発作か何かなのか」

「そうだっ君の後ろに小さな赤竜がいたんだ。今は何処かに隠れているみたいだからそっと部屋を出て先生に知らせないと」


 ディルクは周りを警戒しながら俺の腕を掴んでそっと部屋から出ようと動き出した。


『ユリウスよ、こいつを殺しても良いのかね』

『駄目に決まっているだろ、良いからここは俺の言う事を聞いてくれよな』

『仕方がないな、ただもっと騒ぐようならそいつの喉笛を食いちぎってやる』


 本気でやりそうで怖いんだよな、そんな事をしたら大問題になるに決まっているだろうが。


 力強く俺の手を握っているのでそれ以上の力でその手を振り払った。


「何だよ、嘘じゃ無くて本当なんだ。逃げないと殺されてしまうぞ」

「怖がらなくても大丈夫だよ、あれはアビスと言って俺の使い魔なんだ。まさか君がいるとは思わなかったからさ、驚かしてごめんよ」

「えっ竜が君の使い魔だって……」


 かなり長い時間をかけて説明すると何とかディルクは理解をしてくれたが、やはり学校や王都の中ではアビスは姿を見せない方が良いと言われてしまう。


 そしてディルクは恐る恐るアビスをずっと観察している。


『煩わしい人間だな、どうにかしてくれんか』

『彼とは仲良くしたいからさ、慣れるまで我慢してくれよ』

『これは借りだからな』

『はいはい』



 ◇◇◇



「それでどうして2年から通う事にしたんだい」

「色々あったんだよ、バルトルト子爵から援助も受けているしね」

「どうしてその子爵が君に援助をするんだい」

「エリサの父君なんでその為さ、何をするのか良く分からないけどね」

「エリサちゃんか……」

 

 それまでは普通にしていたディルクだったが、エリサの名前を出すと何故か顔色が薄っすらと青白くなったような気がする。


 やはり子爵の心配は当たっているんだな。


「なぁ何か知っているなら教えてくれよ」

「秘密ではないから話すけどさ、いいかい、悪い事は言わないからこの学校の中ではエリサちゃんと距離をとった方がいいな」

「エリサにもそんな事を言われたけど、それを決めるのは話を聞いてからだな」

「無理するなよ、実はね……」


 ディルクが話した内容はあまりにも馬鹿らしい事だった。特権階級の意識が強い貴族の集まりだとこんな事になってしまうのだろう。


 入学当初のエリサはあの顔立ちと性格の良さもあって楽しく学園生活を送っていたそうだが、とある日にこの学校の学食でクラスメートである侯爵家の息女に下働きをしている獣人族の中年の女性が配膳していた料理を頭から掛けてしまったそうだ。


 激昂した息女であるイサベルはその女性に大声で侮辱の言葉を投げかけた後で手を上げようとしたがそれを止めたのがエリサだった。


 それだけで済むのであればもしかしたら大事にならなかったのだそうだが、その後で普段からイサベルを良く思っていない何人もの平民の生徒がここぞとばかりに正論を述べたのでイサベルのプライドは傷付けられてしまったらしい。


 その事が原因となり侯爵家であるイサベルの味方となったクラスの女子はエリサを避けるようになってしまう。


 男子の方もイサベルに気を使っているのかそれとも彼女と仲の良い同じ侯爵家のファビオに気を使っているのか各々違うが、同じようにエリサが存在しないようにしている。


「くだらないな、そもそも学校の中では家の権力は影響しないんじゃないのかよ」

「そんなのは建前に決まっているだろ、まぁ君の兄上なら気にしていないだろうが、いいかい悪い事は言わないから君はそれを見習ってはいけないよ、僕だって気分は良くないけどエリサちゃんは暴力を受けている訳じゃないんだから無視ぐらい仕方が無いんだよ」


『馬鹿な人間どもだな、この私でも分かるぞ」

『あぁ本当にそうだと思うよ、くだらない連中だな』

 

 だがこの問題は簡単にはいかなさそうだ。


 


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