第十話 王立ガルト上等学校に向けて
子爵達は旅行から戻って来たそうなのだが俺は執事達が住む別宅にいるので子爵とは少しだけ話をしたものの、エリサ嬢とはまだ話をしていない。
一度だけ遠くから姿を見かけたが赤毛の髪が良く似合う可愛らしい女の子なので俺が本当に同年代であったのなら直ぐに惚れてしまうだろう。
そして昨日になってようやく子爵の思惑が分かって来た。どうやらエリサ嬢は学校内で問題を抱えているらしく元気がないそうだ。俺はその理由を突き止め対処出来るのならして欲しいそうだ。
「君には期待しているんだ頼んだぞ。それにな君の父上が子爵になるように私も伯爵になるんだよ、だからエリサに寄って来る奴もこれまで以上に増えるはずだからな、その事も注意してくれよ」
「分かりましたけど、いたら報告すればいいんですよね」
「それもそうだが変な奴ならその場で排除してくれたまえ」
「排除って、えっ俺は生徒ですよ」
「大丈夫さ、後の事は私が面倒を見る」
真面目な顔で簡単に言うけどそんな事が出来る訳ないじゃないか、もしかしてこの人はかなりの親馬鹿なのか。
◇◇◇
『そろそろ学校に向かうのだろ』
『あぁそうだね明日王都に向かって出発するそうだよ』
『だとすると姿を消さなくちゃいかんな』
『頼むよ、向こうで部屋が貰えるからその中でだったら姿を見せてもいいからさ、それにしても姿が消せるなんてまるでゴーストだよな』
『何だと、この私をあんな低俗な魔物と一緒にするのか』
『悪かったって冗談だよ』
翌朝になり王都に向かう為に馬車に乗り込むとそこにはエリサ嬢が乗っている。彼女は窓から顔を出して子爵と夫人に手を振っていた。
ずっと笑顔で手を振っていたが、馬車が街から出ると疲れたような表情になって椅子に深く腰を下ろし俺に手招きをしてくる。
そっと顔を近づけると馬車を操縦している御者に聞こえないように小声で話し掛けて来た。
「こんな事に巻き込んでごめんね、まさかユリアス君を巻き込むなんて想像もしなかったわ」
「気にしないで下さい、色々援助して貰っているので感謝しているのですよ」
まさかここで本音を言える訳がない。
「そんなにかしこまらないでよ、同じ学校に通うんだからおかしいでしょ」
「いえ、私は気に致しません。お気遣い無いようにお願いしますエリサ様」
父であるヨアキムからエリサ嬢に対して絶対に失礼な真似をするなよと言われているのでこうするしかない。
ちょっとやり過ぎかも知れないけど。
「そんなの無理だって、ねぇ、様付けは本当にやめてよ恥ずかしいでしょ」
「そうは参りません、そうですね、私の事は家来とでも思って頂ければいいのですが」
「ねぇ君は馬鹿なの……そうだ家来って事は私の言う事は聞いてくれるんだよね」
「まぁそのつもりではいますけど、犯罪をやれと言われたら断りますよ」
「そんなこと言う訳ないでしょ、じゃなくて私を他の同級生と同じように接する事を命じます。それなら犯罪じゃないから言う事は聞くよね」
この世界ならこれぐらいしてもおかしくはないだろうと思っていたが、少しやり過ぎてしまったようだ。
「そこまで言うならそうしましょうか」
「そうしてよ、それにね学校の中では誰もが平等なんだから敬語もやめてよ」
「う~ん……それでいいならそうしようか」
誰もが平等ね、外ではあんなに貴族と平民で差があるし貴族の中でも格差があるっていうのに平等なんてありえるのか。
その事については行けば分かるし、まだ学校に着くまで5日程かかるそうなのでのんびりさせて貰おう。
俺が普通になるとエリサも楽しそうに話してくれたが、2日も過ぎると段々寡黙になってきた。
『やけに今日は大人しいな、君は残念じゃないのかね』
『まさか、エリサの思い出話に付き合うとその度に記憶を思い出さなくちゃいけないから疲れるんだ。まさか全部忘れているなんて言えないからな』
『優しいじゃ無いか』
『そうでもないさ、ただ学校の中で何かがあるのは間違いないだろうな』
出来れば俺の勘違いであって欲しいとは思うがそれは向うに行けば分かる事だろう。エリサが話し掛けて来ないので大して面白くも無い教科書を広げて読んでいるといつのまにか俺の顔をじっと見つめてくる。
もしも俺がまだ中学生程度の年齢であったのなら多分緊張して心臓が飛び出してしまうのかも知れないし、このまま恋に落ちてしまうのだろう。
だが中身が中年である俺はこの程度では動揺しない。
ちょっとはするけどね。
「どうかしたのか、俺の顔に何かが付いているとかじゃないよね」
「そうじゃなくてさ……あのさ、学校の中では私の事は気にしなくていいからね、別にお父様には言わないから無視しなよ」
「んっ意味が分からないな、どうして俺がエリサを無視しなくちゃいけないんだ?逆だったのならまだ分かるんだけど」
「深く考えなくていいから言う通りにしなよ、君の為だからね、それにこの先の街から別行動になるから丁度いいしね」
何が丁度いいのか分からないし、どうして別行動しなければいけないのだろう。
「あぁそうか、一緒の馬車で学校に行ったら変な誤解を受けるもんな」
「そうじゃ無くて、あれっもしかして聞いていないの? ユリアス君は入学は認められているけどクラスはまだ決まっていないんだよ」
そう言えばそんな事を言われていたような気がするがすっかりと忘れていた。貴族のクラスは二つあって成績によって振り分けられている事を。当然エリサは成績がいい方のクラスだ。
そもそも平民と貴族でクラスが分かれているのに平等か、結局そうなんだよな。
「頑張ってAクラスにならないとな」
「頑張らなくても良いけどね」
次の街でエリサとは別れることになり俺は護衛の一人と馬で王都に向こうことになるのだが、その護衛は断る事にする。
「一人で大丈夫かね、確かにこの先には変な輩は出てこないが何かがあるかも知れないんだぞ」
「大丈夫ですよ、半日もすれば到着するじゃないですか」
その場で別れ辿り着いた学校は王都の端にあり敷地内にちょっとしたダンジョンや森や山までもある広大な場所だった。
『これが人間の学校なのか』
『普通じゃないからな、ここはちょっと凄すぎるよ』
『おいしそうなエサがあるとあの山にあると嬉しいんだけどな』
『えっ食べたり出来るんだっけ』
『君の魔力だけで生きていけるが、まぁ食べるのは気分次第だな』
まだまだアビスには知らない事がありそうだ。




