第九話 学校に入る為の準備
『皆さん元気にしているかい、まぁ戦闘中の人も瀕死の人もいるようだけど大事な話をするから聞いてくれよな、え~まずもうすぐ1年が過ぎるけど君達は何を考えているんだい。100人がこの世界に来たというのにもう26人、いや27人になったか、どうせもう1人も死ぬから28人が死んでいるんだ。ちょとさ~どうして慎重に生きられないかね、ここまで簡単に死なれてしまうとこの世界の評価が下がるからいい迷惑なんだ。それにさ最初に行ったはずだよね君達の秘密を漏らすなって、そのせいで聞かされた方も死ななきゃいけなくなったんだぞ、まぁこれを聞いている人達の事じゃないのは知っているけどさもう止めてくれよな。それとだね勇者に成ろうと無茶している人もいるけど今は無茶するなよ、せめてあと5日は我慢してくれないとこっちが困るんだよ。それじゃたまに連絡するからそれまで生きていてくれよな」
夢の中で【観察者】が騒いでいたがまさかたった1年でそんなに命を落としているとは思わなかった。よく考えると俺自身も元の世界では決して考えられない行動をしてしまったと思う。
だったら学校に行って平和に過ごすのも悪くないかも知れないな。
◇◇◇
進級が目前にせまりまたしても長兄のアーロンと次兄のマティアスがマロネ街に帰って来た。
「父上、どうしてユリアスがいないんだよ、あの学校で舐められないように俺が鍛えてやろうと思ったのにさ」
「そうですよ、次期領主にふさわしい男にする為に遅れている学問を叩き込もうと私がわざわざ教えに来たのですよ」
もうマロネ街にはユリアスはいなく子爵の元から学校へ向かう事になったと知った二人の兄は憤りを隠せずにヨアキムに詰め寄っている。
「落ち着け、良いかあいつはアーロンが思っているような軟弱な男ではなくなっているぞ、どうやら自分の魔法に自信を持ち始めたようだな、それとマティアスよ、何で貴様は領主にならない事になっているんだ。順番通りなら貴様だろうが、いいかそんなに研究がしたかったらこの街を裕福にさせてここに研究所を作ってみろ」
ヨアキムは子爵の前とは違って堂々とした態度で話した。
「そうだな次男がいるのに三男が跡を継ぐのはおかしいもんな、まぁお前は領主と研究者を同時にやれば良いんだよ、そもそもまだ父上だって引退はしないんだから焦る事は無いだろ」
「あのですね、そんな片手間に出来る研究をしたい訳じゃないんですよ、それに我が家は少し浮いているから離れた方が生きやすいんですよ」
「んっそうなのか、父上が何かしたとでも」
「父上のせいにしないで下さいよ、貴方でしょうが、勝つにしてもせめて華を持たせるやり方が出来たはずなのに武術大会では一人だけ目立つし、兄上がとっちめた貴族の家からは賠償金が返金されたんでしょ、クラスメートも家も被害に遭っているんです」
「知らん、弱すぎる奴らがいかんのだ。それになクラスの奴に言っておけ、文句があるようなら国王様に相談するけど良いのかってな」
「言える訳ないでしょ、あ~もう」
兄弟の言い争いを聞いているヨアキムは困った顔をしながら鼻頭を掻いている。
「二人とも止めろ、マティアスの言う通り儂の所にもやっかみの声は届いているが気にする必要はないぞ。なぜなら国王様にも伝わっているらしく何かを言われるそうだからもそんな連中は何も出来ないだろう、だからマティアスは安心しろ」
アーロンは笑っているがマティアスはまだ不満げな表情をしている。どうしてここまで体格も性格も真逆なのかとヨアキムは不思議に思っていた。
同じように育てたんだがな、それでもこの二人の考えはまだ読めるがあいつはどんどん分からなくなってきたぞ、もしかして使い魔の影響なのか。
そんな微妙な空気が流れるこの部屋に勢いよくカルラが入って来た。
「お兄ちゃん達まだ話しているの、もう遊んでよ、いいでしょ」
「勿論いっぱい遊ぶぞ、何して遊ぼうか?戦いごっこでもするか」
「駄目に決まっているでしょ兄上、もし怪我でもさせたら怒りますからね」
「もうなんでもいからお外に行こうよ」
無邪気な笑顔の前にはアーロンもマティアスも完全に負けてしまったようで二人は喜んでこの部屋から出て行ってしまった。
カルラが最強かも知れんな…………どうして儂を誘ってくれんのだカルラよ。
実はアーロンのおかげでもうすぐ子爵になる事が決定されたのだがつけ上がるのが癪なので秘密にしようとヨアキムは心の中で決断を下した。
◇◇◇
「どうしたのです。疲れてももっと気合を入れ直して下さい、ユリアス殿はお嬢様を守るんですよね」
「はぁはぁ……そうですけど……少し休ませて……」
ヨアキムが学校に行くのを了承した日からマロネ街には戻らずにバルトルト子爵の家で自習と言う名の訓練教室を無理やり受けさせられている。
学校内でどんな危険が待っていると言うんだよ、ちょっとやり過ぎじゃないか。
「あの、そろそろ学術を学ぶ時間じゃないでしょうか」
「いえ、そちらの方は執事長からユリアス殿は優秀だと聞いておりますのでこちらの方に重点を置きましょう。確かにユリアス殿は盗賊を退治致しましたけどあのような戦法は貴族らしくないと思う方もいらっしゃいますので正攻法の戦い方を覚えましょうな」
確かに暗闇に紛れてのやり方は卑怯に見えたかも知れないが俺の魔法を最大限に活用するにはあれが一番だ。そもそもあの人数を相手に無傷で倒すなどこの中で誰が出来るのか。
『情けないな、もう少し頑張ったらどうだね』
『他人事だから言えるんだよ』
アビスは庭の端でちょこんと座って見ているだけだ。そういえば明日には子爵達がエリサと一緒に旅行から帰って来るらしい。
休暇に入る日に合わせて学校まで迎えに行き、そのまま何処かに旅行に行ったそうなのだが随本当にただの旅行なのだろうか。そしてどうして俺はこんなに辛い訓練をさせられなければいけないのか未だに意味が分からない。
これだったら早く学校に行きたいな。




