第九話 ふたたび夢の中へ
「こんばんは~。やっほー、運命ちゃんですよ」
夜、自室に戻ったら、なぜか僕の部屋で運命さんがくつろいでいた。
「もしかして転移とかですか?」
「うん、ごめんね、勝手に入ったりして」
別に見られて困るようなものもないし、全然構わないのだけど。
「創くんはさ、今でも夢の世界に行ってるの?」
「はい、ほぼ毎日行ってますよ」
こんなこと話しても馬鹿にされないのは運命さんだけだから。
「ふーん……なるほど、よし、それじゃあ今夜は私もこの部屋に泊まるね」
「僕は構いませんけど、部屋に戻らなくても大丈夫なんですか?」
「もちろん。この学校作ったの私だし。お泊りしちゃいけないなんて規則はないから大丈夫よ」
というわけで、急遽運命さんがお泊りすることになったんだけど……
「えええっ!? もうお風呂入っちゃったの!? なんだ、せっかく個室風呂一緒に入ろうと思ったのに……」
めっちゃ不満そうに駄々をこねる運命さん。
昨日の不知火さんもそうだったけど、なんで僕と一緒に個室風呂入りたがるんだろうか? すごく残念そうにしているから悪いことをしてしまったようで心苦しい。
「良い? 明日は絶対に一緒に入るんだからね?」
「は、はい……わかりました」
ついでに予約してくると言って運命さんはお風呂へ行ってしまった。
「え? 同じベッドで寝るんですか?」
「当たり前じゃない。そのために来たんだから」
なんでも運命さんは、僕の夢の世界に興味があるらしい。一緒に寝れば行けるんじゃないかって思っているみたい。たしかに戻ってくることが出来たんだから、行くことが出来てもおかしくはないけど……
「ふふ、創くんってあったかい。それに意外と筋肉あるのね~」
布団の中に滑り込んでくる運命さん。昼間の時とは違って薄いパジャマ姿だから抱き着かれるとすごく柔らかい。良い香りもするし、なんだかドキドキして眠れそうにない。
「あの……これだと眠れそうにないんですけど」
「そう? 私は落ち着いて眠れそうだけど……そうだ!! 創くん、目を瞑って。良い? 抵抗しちゃだめだよ。レジストされちゃうから」
言われたとおり目を瞑ると、唇に柔らかい感触が。
「ふふ、最上級の睡眠効果をかけた魔法だよ……創くん相手でも少しは効果あるんじゃないかな……?」
たしかに何となく眠くなってきた。
「はい……眠れそうです……行けると良いですね、一緒に……」
「うん……私も眠くなってきた……楽しみ……」
『にゃああ!! 創、一緒に遊ぼう……って、久しぶりだにゃ、運命』
「きゃああ!! コタローちゃん、久しぶり~!! お腹もぐって良い?」
『どんと来いにゃっ!!』
久しぶりの再会に大はしゃぎの運命さん。
どうやら無事に夢の世界に連れて来ることが出来たみたいで安心した。
「しらたま、ごましお、おいで!!」
僕も運命さんに負けじと、しらたまとごましおのお腹にダイブする。
『にゃふん、くすぐったいにゃあ創ちゃん』
『ムーは本当にお腹好きだにゃ~』
しばらく猫さまたちのお腹布団を堪能した僕と運命さん。
「うーん、なんで創くんはちゃんと服も装備も揃っているのに、私はパジャマなのかな?」
頭を捻っている運命さん。
「多分、運命さん用の装備を僕が描いていなかったからだと思いますよ」
「……描く?」
「夢の国で具現化出来るのは、僕が向こうの世界で実際に絵に描いたものだけみたいなんですよ」
「……それは興味深いわね。まあ今回は実験だったから仕方ないか……」
いくら運命さんが勇者とはいえ、丸腰ではやっぱり不安だよね?
「あの、武器ならあるんで使います?」
運命さんに両手剣を差し出す。
「うわっ!! ありがとう。私の持っている聖剣に似てるね」
「運命さんがあの時持っていた剣がカッコよかったんで、あの後描いたんですよ。もっとも僕にはこの銃があるんであまり使う機会ないんですけどね」
僕はいまだに最初に描いた銃をメインに使っている。理由は簡単、一番強力だからだけど。
「……その銃って、魔物をお菓子に変える奴だよね……?」
苦笑いする運命さん。魔王のお菓子を食べてしまったことを今でも忘れられないらしい。
「その剣もすごいですよ。斬ったものをステーキに変えてしまいますから」
「……マジですか?」
半信半疑の運命さん。
「試しにその辺の魔物斬ってみますか?」
夢でやってくる場所はなぜか魔物が来ない安全地帯となっているので、安全地帯から出て適当な魔物を狩ってみることにした。
『グルルルルルル……』
丁度いいモンスターが居た。この辺で一番弱いし、肉も美味しいので実験には丁度いい。
「運命さん、その火トカゲで試してみましょう」
「え……ちょっと待って!? 火トカゲって……いや、これレッドドラゴン……」
「大丈夫です。コタローたちが威圧しているから身動き出来ませんし、万一逃げ出したら僕が抑えておきますから、さあ思う存分どうぞ」
「はあ……わかった。やってみるけど、失敗したら助けてね」
なんだかすごいジト目でにらまれたけど、僕変なこと言ったかな?
「はあ……ここは創くんたちを信じるしかないか……喰らえ……ギガスラッシュ!!」
流れるような無駄の無い、それでいて華のある斬撃。さすが運命さんはすごいな。何というか全てが絵になっていてカッコいい!
『ギャアアアアアア!!?』
運命さんの鮮やかな斬撃で火トカゲは山のような大量のステーキになった。
「呆れた威力ね……本当にステーキになった。ねえ創くん、このステーキは元の世界には持ち帰れないの?」
「そうですね、ここで手に入れたものは持ち帰れないみたいです。残念ながら」
「なるほどね……となるとここで食べるしかないけど……」
「せっかくなんでステーキパーティしましょうか? 余った分は保管庫にでも仕舞っておけますし」
「……保管庫? そんなのあるんだ!?」
「はい、僕の家に」
「家? そんなのあったっけ?」
「あれから造ったんですよ」
「……へえ、造ったんだ……家を?」
なんでそんなジト目で見るんですか? 僕なんか変なこと言いましたっけ?
大量のステーキをトラックの荷台に積んで僕の家に運ぶ。
「ねえ……創くん? なんでトラックとかあるのかな? もしかしてこれも描いたの?」
助手席に座っている運命さんがジト目でたずねてくる。
「はい、いつも戦利品がたくさん出るんで、必要だったんですよ。もちろん水陸両用、空も飛べます」
「はあ……もちろんって……本当に出鱈目だね……」
呆れたようにため息をつく運命さん。
「運命さん、ここが僕の家です」
十年かけて少しずつ作った僕の家。最初は秘密基地みたいな小さなものだったけど、今ではかなり広くて大きい建物になっている。コタローたちも、僕が居ないときはここで暮らしているって言っていた。
「創くんっ!? これは家じゃなくてお城って言うんだよ?」
……なぜか怒られた。