第七十一話 ダンジョンの秘密
「ははは、まさかダンジョンを創ったのがあの神だとは……」
笑いが止まらない聖也。
それはそうだろう。なにせダンジョンを創った張本人がサポートしてくれるのだ。裏技、抜け道、やりたい放題。真の王にしてやるという言葉も決して大げさではなかったのだ。
その証拠に、聖也は一日もかからずレベルが三つも上がった。通常のやり方ではあり得ない状況に興奮が止まらない。
それに加えて誰も知らないダンジョンの真実を知っているという優越感、神に選ばれた人間なのだという特別感。
それでも聖也にとってはそれすら当然という感覚だ。彼自身の人間性は何も変わってはいない。
「え? 最近鳳先輩学校に来ていないんですか?」
「うん……私にとってはありがたいんだけど、ちょっと気になって」
聖也が聞いたらショックを受けそうなことを言う祷。
「あ……もしかして神言に関係あるの?」
葵の言葉に、こくりと頷く祷。
「鳳なら休学届けが出されているぞ。担任じゃないから理由は私も知らないが」
三段重ねの焼きたてトーストを頬張りながら答える零。
「夢の魔境であれだけ食べているのによく朝食そんなに食べられますね……」
「ははは、まだまだ修行が足りんな那須野。もっと食わないと強くなれんぞ」
「私も気になりますね。鳳先輩の動向はチェックした方が良いと思います」
「そっか、葵ちゃんがそういうなら監視を付けた方が良いかもね」
葵の提案に運命が応じる。
「それならば拙者が適任でしょう。お任せください」
「えええっ!? 影野さんは私の案内人だろ!? そっちの仕事は?」
すっと目を逸らす影野。
「仕方ありませんね。その間は那須野さまの分も私と柴田さんで面倒をみさせていただきます」
「えええっ!? なんで私が!?」
しれっと柴田を巻き添えにする不知火に抗議する柴田だが――――
「やってさしあげなさい、柴田」
「はい……頑張ります」
――――葵に命じられれば柴田にはやるという選択肢しかない。
「わーい、ありがとう。不知火さん、柴田さん。なんならずっとこのままでも良いかも」
がーん……那須野の言葉にショックを隠せない影野。完全に自業自得ではあるが。
『影野さんだけだと大変だろうから、私も協力するわよ。隠密行動が必要な偵察なら得意ですし、転移が必要な場面があるかもしれないわ』
「ありがとうロキシー。影野さんもよろしくお願いします。でも決して無理はしないでくださいね?」
『お任せくださいご主人さま』
「御意!!」
創の言葉に首を垂れる二人。その姿はもはや紛れもなく本物の忍そのものである。
「それで祷ちゃん、新しい神言があったんでしょ? 教えてもらっても?」
「はい運命さま……内容が内容ですのでそのままお聞かせします」
祷は軽く息を吸い込むと、歌うように神の言葉を暗唱する。
『やっほー祷ちゃん。あああ、もう何なのあの鳳とかいう野郎は!! やっぱり祷ちゃんに消してもらうべきだったかしら。馬鹿なの? 悪役なの? とにかく闇の亡霊が動いたわ。また知らせるから気を付けて』
語り終えて顔を赤くする祷。やっほー祷ちゃんを言わされたのが恥ずかしかったらしい。
「ず、ずいぶん具体的なんですね神言って。っていうかコレ半分祷さんの本音?」
「ち、違います!!」
創の言葉を全力で否定する祷。
「うーん、でも聞いた限りかなりマズい状況っぽいね」
「どうしますか運命さま?」
紫が指示を仰ぐ。
「気を付けてって言われても困るよね。とにかく鳳が鍵っぽいから、手が空いてるメンバー全員で探して身柄を押さえることにして……次の神言があるまで学校はまた自宅待機にするしかないか……」
「わかりました。学校にはそのように」
「楓、例のスーツは?」
「完成しています。生徒には今日配布する予定でしたが」
「じゃあ配布してからで良いよ。念のためあったほうがいいだろうし」
関係各所へ指示を出してゆく運命。焔は早朝から官邸に向かっていたが、急遽引き返して合流する。
「鳳はここ数日部屋に戻っていないようです」
影野から報告が入る。
『最後の目撃情報はダンジョン内ですね』
手分けして鳳の行方を探っていたが、最終的にダンジョンに入っていったという結論に。
「運命さん、どうします?」
「うーん、鳳の奴、ここ数日ダンジョンから出てきていないんだよね。神さまの言っていた闇の亡霊が何なのかわからない以上、深追いするのもなあ……」
結局、新しい神言が降りるまで創や運命ら最強メンバーで捜索しつつ、合わせてダンジョンの出口を監視するということに。
鳳が出てきたら瞬時に取り押さえられるように二十四時間交代制でエージェントが待機している。
それから一週間、運命たちもダンジョン内を捜索しているのだが、一向に鳳の行方はつかめない。
「紫、何か情報は?」
「これが鳳のことかはわかりませんが、ダンジョンの壁をすり抜けて消えた男を目撃した者がいます」
「壁を……すり抜ける? もしそれが鳳だったらお手上げかもしれないね」
それなら見つからない理由もわかると、ため息をつく運命。
なにせ広大なダンジョン。その階層にいるとわかっていても探すのは難しいのに、どの階層に居るのかすらわからなければ見つけようがない。ましてやそんな意味不明な特殊能力を使われたら……考えるだけで疲れるというものだ。
「向こうから動いてくれるといいんですけどね」
創もまるでいるかどうかもわからない亡霊を探しているようでウンザリしてきている。
「そうだ!! ちなみに創くんはすり抜け出来る?」
「えええっ!? 僕ですか? うーん、やってみようとすら思ったことなかったですけど……」
手ごろな壁に手をかざす創。
「運命さん、やっぱり駄目でした……壊したり、消したりすることは出来たんですけど……」
「あはは……普通はどっちも出来ないんだけどね。っていうか消せるのっ!? そっちの方がびっくりだよ」
結局、創のびっくり能力以外、その日も成果なく終わる。
その日の夜、夢の魔境にて――――
「え……まさか、このタイミングで?」
突然動きを止める祷。
「どうしたの祷ちゃん?」
「う、運命さま、降りてきました――――神言」
◇◇◇
「えっと……それで、必要な四人っていうのは?」
「はい、世界を渡る勇者、夢と現をつなぐ少年、時を超えた少女、神の声を聞く歌姫の四人です」
「うーん、明らかに私と創くん、祷ちゃんだと思うんだけど、残りの時を超えた少女って誰?」
皆が顔を見合わせる中、おずおずと手を上げる葵。
「あの……それ私のことだと思います」
「まさか葵ちゃんが死に戻りしていたなんてね。でも、言われてみれば納得だよ」
当時五歳であった葵のことを思い出して運命が笑う。
「葵のいた未来では世界は滅んだってことだよね?」
「はい、今でもはっきり覚えています」
「でもようやく意味がわかりました。神さまが葵ちゃんのことを話すときはいつも時に絡めた表現をしていましたから」
断片的な情報を一方的に聞かされるだけの祷には意味がわからないことは多い。だからこそ、一言一句間違えないように記憶し暗唱する癖が付いたのであるが。
「創くん、神さまが言っていた場所って……?」
「たぶんあそこで間違いないと思います。その証拠になんか光ってますし」
創が指さしたのは、夢の魔境のさらに上層へと続く階段。
「あそこって……創が修行している場所ですよね?」
危険すぎるということで創以外は入れなかった場所。
夢の魔境が楽園に思えるほどの超強力な存在が闊歩している。
「そうだよ葵ちゃん。私も一度だけ入ったことあるけど、死にかけたからね……今ならもう少しやれるかも……だけど」
苦笑いする運命。
「ちょっと待ってください。そんな場所に私たちが入ったら……」
青くなって震える葵と祷。
「大丈夫だよ、コタローたちが守ってくれるから」
『そうだぞ、大猫に乗ったつもりで安心しろ』
『絶対に守るにゃあよ』
『コタロー、大猫って僕たちのことかにゃあ~?』
先頭を創、左右と後ろは大猫たちが守るように進む。
「さあ行こう、夢幻境へ」




