第六十九話 日本へ帰ろう
『ルシフィーナ……すまなかった』
先程までが嘘のように殊勝な態度で土下座をしているザイオン。まるで別人のように見えるけど、ルシフィーナによると、昔はこんな風だったらしい。ちょっと信じられないけどね。
ザイオンがこんな風になっているのは、創くんに魔族の呪いを上書きして正気に戻す力があるからしい。さすが私の創くんだけのことはあるよね。
なんでも、ここに来るまでに、全ての魔族の呪いを上書きしてきたって言うんだから、もう何も言うことない。まったく……創くんってば何でも出来ちゃうんだから、本当に最高だよ。
『ここが我らのやって来た場所です』
ザイオンに案内されてやってきたのは、帝都の北半分に広がる荒廃した大地。
「ザイオン、ここってもしかして?」
『ああ、魔の領域だ。我らは魔の領域ごとこの世界に飛ばされてきたんだ』
魔の領域ごと飛ばされた? そんな馬鹿な……って実際そうなっているからな。
「ザイオン、そもそも魔の領域って何?」
創くんに声をかけられて、ビクッと肩を震わせるザイオン。めっちゃビビっているなアレ。完全にトラウマになっているのかも。
『我らも詳しいことは知らないのだ。その昔、魔族は力を得るのと引き換えにこの魔の領域から離れることが出来なくなったのだと言われているが……』
「うん、それは知っている。つまり、魔族に力と呪いを与えた存在がこの魔の領域に居たっていう事なのかな?」
たしかに創くんの言う通り、魔族を騙したのか利用したのかわからないけれど、そういう存在がいたのは間違いないよね。
「もしかして何かとんでもなくヤバいものが封印されていたのがこの魔の領域だったりしない? そいつが魔族を利用して糧を得ていたのかもしれないよ?」
「ああ、それならば古い文献で読んだことがあります。太古の昔、神々の怒りに触れて封じられた邪悪な神がいると。名は『闇を統べるもの』とされていて正確なことはわかりませんでしたが」
さすがルシフィーナは博識だね。それにしても邪悪な神か……なんだか嫌な予感がするんだけど。
「運命さん……ということは、魔の領域ごとこちらの世界へ来たということは、もしかしてその邪悪な神とやらも、こっちの世界へ来ちゃっているんじゃないですか?」
あはは……創くんもやっぱりそう思うよね?
「その可能性はあるかもね。魔族は巻き添えを喰らったようなものなのかも」
そういう意味では魔族も被害者なんだよね。大方、その邪神とやらが、魔族を使って力を取り戻そうとしたんだろうけどさ。
『サダメ、まさかその邪神が復活するというのか?』
「うーん、いや、封印が解けかけているのか、もうすでに解けているのか、あるいはすでに邪神は滅んでいるのか、ちょっとわからないな。魔の領域の転移が邪神の意志によるものなのか、偶然の産物なのかもわからないし」
まあ、もし邪神が復活しているなら、もっと悲惨なことになっているだろうし、そこはある程度安心はしているんだけど、気になる事は気になるね。
とはいえ、今はやることが山積しているということ。
「帝国をどうするかだけど、一旦戻ってから焔たちとも相談する必要があるね。悪いけどザイオンたちは当面、帝国の行政トップとして働いてもらうことになるから覚悟してくれ」
人口は十分の一以下になってしまっているけれど、それでもなお日本に匹敵する人口と広大な国土、資源を抱えた大国だ。ここが混乱すると非常にマズいことになる。
『わかった。そんなことでは罪滅ぼしにもならないが、精一杯やってみよう』
帝国は一旦ザイオンたちに任せておくとして、魔の領域も気になるけど――――とりあえず
「じゃあ帰ろっか、日本へ」
日本食が食べたい!! 創くんとゆっくりお風呂に入りたい!!
「――――とまあ、帝国の状況はこんな感じかな。後はよろしくね、総理」
「えええっ!? ボクに丸投げですか!? 酷い!!」
口をとがらせて文句を言う焔。
「まあまあ、帝国への往来は魔族の転移で出来るんだからさ。気軽にちゃちゃっと頼むよ。私も時々は顔出すから」
「はぁ~、わかりましたよ。他に出来る人もいないですからね。魔族と帝国の脅威が同時に無くなったようなものですから、何とかやってみます」
帝国の状況は予想以上に酷いものだった。国土の大半で砂漠化が進行していて、とにかく食糧生産量が足りてない。皮肉な話だけど、魔族によって人口が減らされたことが結果的に適正レベルの人口となってしまっている。結局、餓死するか魔族に喰われるかの二択だったということだ。
世界的な気候変動は続いているし、昔のような急激な人口爆発が起こらないようにしないと悲劇の繰り返しになる。難しいかじ取りになりそうだけど、焔なら何とかしてくれるだろう。
「それにしても増えたね……創くん?」
現在の婚約者が、私、菜々ちゃん、不知火ちゃん、葵ちゃん、四天王、祷ちゃん、柴田ちゃん、影野ちゃん、紫、楓、ルシフィーナ、ロキシー……十五名か。
私が居ない間にずいぶん増えてる~!!
「ご、ごめんなさい、運命さん、増やそうと思ったわけじゃなくて……」
「んふふ、責めてるわけじゃないんだよ? 言ったでしょ、こうなるよって」
予想はしていたけど、魔族の襲来のおかげで多少早まったというだけ。いや、魔族まで婚約者にするのは完全に予想外だったけどね、あはは。
何はともあれ……よく頑張ったね、創くん。
さらに頼もしくなった未来の旦那さまを抱きしめて久しぶりに創くん成分を補充する。
はあ……癒される~。我が家に帰ってきたっていう感じがする。
「皆さんの修行は続けた方が良いんですよね?」
「そうだね、何となく嫌な予感が拭えないからそうした方が良いと思う。こういう直感みたいなのは昔から当たるんだよね……嬉しくないけど」
「ですよね……僕もそんな感じがしていました」
創くんも同じか。そう……ずっと引っ掛かっている。
祷ちゃんが神さまから何度も聞いたという世界が滅ぶというワード。
最初は魔族の襲来のことかと思っていたけど……やっぱり邪神がらみなのかな~?
「まあ、心配しすぎても仕方ないし、何かあれば祷ちゃんに神言が降りてくるでしょ。やることやって楽しむのが一番だよ、創くん。そういえば夢の魔境に料理のラインナップ増えたんだって? めっちゃ楽しみ。ねえ、今から行こうよ!!」
「えええっ!? まだ日が高いじゃないですか」
「うふふ、いいのいいの、たまにはお昼寝しよっ!!」
久しぶりに二人っきりでね。




