第六十八話 東京事変
『お前ら準備は良いな? 我らはこれより二ホンへ攻め入る!!』
『『『『おおおおおおお!!!』』』
魔族四天王の一人、ダルムードが号令を発すると、配下の魔族たちは一斉に鬨の声を上げる。
『しかしダルムードさま、二ホンへの侵攻は三日後ですが、命令違反をしても大丈夫なのでしょうか?』
『ふん。今までは協力してきたが、そもそも俺はザイオンの部下ではない。あくまで同格。あと少し人間を喰らえば、魔王に覚醒するところまで来ているのだ。ここからは力の勝負。あの腑抜けが女勇者にうつつを抜かしている間に新しいエサ場で一気に奴を追い抜く。噂ではバルデスの野郎も抜け駆けしたらしい。ザイオンだけでなく、バルデスにまで負けるわけにはいかんからな』
『なるほど……大変失礼いたしました。それでどちらへ攻め入るおつもりで?』
『愚問だな、この世界で最大の都市、トウキョウだ。勇者が居ない今なら、容易く蹂躙できる。いくらでも食べ放題だぞ、ハハハハハ!!!』
『ふふふ、あれがトウキョウか……なるほど美しいな。だが華が足りん。もっと血と炎と絶叫が必要だ、俺好みに染め上げてやろう』
ダルムードは残忍な笑みを深める。
『ダルムードさま、魔人は使用しますか?』
『必要ない。貴重なエサを使い捨てどもにくれてやる必要もないだろう。さあお前ら、思う存分暴れろ!!! 今日は最高のパーティーだああああ!!!!』
『『『『おおおおおおお!!!』』』
待ちきれない、ようやく暴れられると雄叫びを上げるダルムード一派。
魔族の中でも、彼らは血の気が多い武闘派集団。士気は限りなく高まっている。これまで押さえつけられていた不満を晴らそうとしている。
「はい、そこまで!! キミたち不法入国だよ? 全員逮捕させてもらうからね」
『な、なんだ貴様ら?』
突然目の前に現れた集団に驚くダルムード配下。
『焔さま、こいつらダルムード一派です。馬鹿だけど腕っぷしは強いのでお気を付けて~』
『キサマ……ロキシー、なぜ人間に味方する。まさか裏切りやがったのか?』
『アハハ。裏切る? お前には言われたくないね、この脳筋野郎!!』
『ふん……安い挑発だな。まあいい前からキサマのことは気に入らなかったのだ。この機会にまとめて始末してやる、やれ!!』
『『『『うおおっ!!』』』
解き放たれた猟犬のように焔たちに襲い掛かる魔族たち。
『きゃああ!! 怖い怖い、なんてね、バルデス隊、やっておしまい!!』
『ロキシー……なんでお前に命令されないといけないんですか? やれやれ』
うんざりした様子で登場したのは、バルデスとその配下の魔族。
『なっ!? バルデス、馬鹿な……キサマまで裏切ったというのか?』
予想外の展開にさすがのダルムードも動揺を隠せない。
――――ザシュ!
次の瞬間、死角から繰り出された蹴りが寸前までダルムードの首があったところを切り裂く。
「ちっ、あのタイミングをかわしやがったか。なかなかやるな」
四天王 黒崎零はむしろ嬉しそうに笑う。
「ふん、零、お前の蹴りが遅くてへなちょこだったからじゃないのか」
「黙れ綾、お前にも食らわせてやってもいいんだぞ?」
死神 零に加えて、龍神 綾も、ダルムードの前に立ちはだかる。
『ほう……キサマラ強いな? おまけに美しい。その顔を絶望に染め上げてから喰らうのが楽しみだ』
ゴウッ
ゴツイ巨体からは想像もつかないスピードで零と綾に迫るダルムード。
『ガアアアアアアアア!!!!』
その強靭な四肢から繰り出される凶悪な攻撃は、かすっただけでも根こそぎ吹き飛ばす威力があるのだが、それに加えて翼を使った風圧による見えない刃が加わるのだからたまらない。
零と綾も防戦一方になるが、それでも被弾することなく戦えているのは、ここ数日の修行の成果の賜物である。
「くっ、やはり魔王クラスは手強いな……」
「たしかに……レベルアップしていなければ勝負にならなかったな」
『お喋りの時間は終わりだ……相手が悪かったとあの世で後悔するがいい――――ぐへっ!?』
突然後頭部に打撃を受けてよろめくダルムード。
「あら~、よそ見している暇はないのよ~? 私たちもお忘れなく」
「え~、ボクも数に入っているんだよね? はあ……仕方ない。やりますか」
さくらと焔が参戦し、ついに四天王がそろい踏みとなる。
『ちっ、蠅が何匹増えようが関係ねえ……全員喰ってやる!!』
吠えるダルムードであったが、さすがの彼も、四天王相手に徐々に押され始める。仲間を呼ぼうにも、すでに切り離されてしまっているため、援護は期待できない。
『ぐふっ!? くそ……やむを得ん、今日のところは見逃してやる…………な、なぜ転移出来ない!?』
零と綾の強烈な一撃を受けて転移しようとしたダルムードだったが、なぜか発動しない。
「あはは、残念でした。ボクの結界内では転移は使えないよ」
『な、なんだと……!?』
焔の言葉にもはや逃げることは出来ないと判断したダルムードは、最後の切り札を切る。
『ウガアアアアアアアアオオオオオオオオオオ!!!!!』
魔族の切り札、それは寿命を消費することで、大幅に戦闘能力を引き上げる諸刃の剣だ。維持するだけで一分あたり一年分の寿命が消費されてゆくのだ。おそろしくコスパは悪いがその分威力は凶悪なほどエグイ。
『馬鹿が……大人しく転移させておけば、もう少しだけ長生きできたものを……死んでしまっては喰えないからと抑えていたが、もう許さん……全員切り刻んでやるから覚悟しろ』
膨れ上がった魔力、先程までとは別人のような圧倒的なオーラに、さすがの四天王も距離を取って下がらざるを得ない。
「これが魔族の切り札か……これはたしかにヤバいな」
「うむ、残念だが我らの手には負えそうもない」
零と綾も悔しそうにダルムードを睨みつける。
『ハハハハハ、ようやく理解したか矮小な人間どもが!! 頭が高い!! 平伏して許しを請え!! ハハハハハハハ!!!!』
「――――というわけで、ロキシー、バルデス、後はよろしくおねがいしますね~!」
『オッケー!!』
『かしこまりました、さくらさま』
すでにダルムードの配下を倒した二人が上空からダルムードに迫る。
『馬鹿が!! 寿命惜しさに通常体で俺に勝てるとでも思っているのか? 死ね、魔空斬裂拳――――ぶへらっ!?』
必殺技を繰り出そうとするも、ロキシーとバルデスに吹き飛ばされるダルムード。
『ば……馬鹿な……有り得ん……』
バルデスは同格ではあるものの、ロキシーは力量的にはるかに格下の魔族。ましてやブーストしている状態の自分にダメージを与えることすら難しいはずだが、現実に地面を舐めさせられているのはダルムードであった。
なんとか立ち上がるも、すでにダメージは深刻で、辛うじて立っているのがやっとという有様。
『それはね~ご主人さまの差かな?』
『そうですね。仕える主の力、格の差ということです』
創からの力で大幅に強化された二人は、今やダルムードですら一蹴出来るほどに成長している。
『良かったですねダルムード。ご主人さまが優しいお方で』
『そうですね。とはいえ、主がお戻りになるまでは眠っていてもらいますが……』
悪い笑顔で迫る二人に、ダルムードは生まれて初めて恐怖を覚える。
『や、やめろ……やめてくれ……ぎゃあああああああああああ!!!?』
こうして東京の危機は実質の被害ゼロで無事終わりを告げたのであった。




