第六十七話 囚われの運命
―― 勇者 世渡 運命視点 ――
『ふふふ、今日で七日目だぞ。そろそろ気が変わったころだと思うが……』
今日もまたザイオンがやってくる。結界の中には入れないので、声だけだけど。
『はあ……わかったよ。お前のしつこさに降参。日本を攻撃されても困るし、本当に手を出さないなら条件を飲むよ』
『そうか……まったく強情な奴め、だが必ず首を縦に振らせて見せる――――ってえええっ!? 良いのか?』
『うん、でもさ、本当に約束は守ってくれるんだろうね?』
『もちろんだ。しかし……本当に良いのか?』
『何だよ、そっちから言い出したことだろ?』
『し、しかし……』
『くどいなあ……じゃあ、やっぱり止めよっかな――――』
『わあっ!! 待て待て、わかった。信じよう、信じるから落ち着け!!』
『早くしてよ? 私、気が変わりやすいから』
慌てて結界を解除し始めるザイオン。
『しばし待て、解除するのも大変なのだ』
おお……ザイオンの姿が見えるようになった。ってことは向こうからもこちらが見えるようになったってことかな?
『よし、これで解除完了だ――――む? 襲ってこないのか? てっきり作戦なのかと』
『あのねえ……私はこれでも勇者なの!! 約束は守るし、隙を見て不意打ちなんてするはずがないでしょ? マジで怒るよ?』
『す、すまない……そういうつもりで言ったわけではないのだ。魔族として生きてゆくには、まず騙されないことが一番の処世術だからな』
『ふーん……魔王も大変なんだね』
『うむ、まあな、魔族の中にも我に従わないものも少数ながらいる』
『なるほど……そいつらが変なことしないようにちゃんとしてくれるんだろうね? それとも、私が倒してしまっても良い?』
『ハハハ、さすがサダメ、魔王の伴侶に相応しいな。無論、そんなことにならないようにするつもりだが、命令に逆らう輩がいたら我の許可など不要。好きに蹴散らすがいい』
『へえ……ザイオンも案外話が分かる奴なんだね。見直したかも』
『ハハハハハ!! そうだろう、そうだろう、我の器の広さは世界一であるからな!!!』
もう後ろにひっくり返るんじゃないかって思うほど、ふんぞり返るザイオン。
『良いね!! じゃあ、私欲しいものがあるんだけど……これぐらいの可愛いワガママ、受け止めてくれるよね?』
『ワハハハハ、なんでも欲しいものがあるなら言ってみろ。ワガママなどとは思わん』
「じゃあ……ザイオンの自由を貰っちゃうね――――魔封結界』
『ハハハハ、我の自由を奪いたいなどと、可愛い奴め。束縛は嫌いではないぞ――――アレ? 身体が動かない――――?』
「具合はどうかなザイオン? 私の愛がたっぷり詰まった特製の緊縛結界なんだけど?」
『ぐっ……おのれ……我を騙したのか?』
「アハハハハハ、偉そうなこと言っておきながら騙されてやんの!! 超うける」
結界に閉じ込められている間にザイオンの結界はすべてコピーさせてもらったからね。そこからさらに改良した結界をたっぷり味わえ!!
『ぐぬぬ……我を舐めるなよ……この程度の結界……撃ち破ってくれるわ……はああああああああ!!!!! ――――痛ええええええ!?』
「おいおいザイオン、そんなことしたら全身バラバラになっちゃうよ? あーあ、そんなに食い込ませちゃって……もうそれ外れないよ?」
『そ、そんな……頼む、外してくれ……痛たたたたたたっ!!?』
あれだけ食い込んじゃうとちょっと動いただけで激痛が走るだろうなあ……まあ自業自得だから助けないけど。
『ま、魔王さまっ!? 大変です!! 人間が……人間がここに迫ってきています!!』
駆け込んできたのは魔王側近の魔族。
『何だとっ!? 馬鹿なことを言うな、他の連中は何をしている?』
『それが……皆、倒されました』
部下の前では痛みを我慢しているのが笑える。今、結界を強めたら悲鳴上げるんだろうな……うずうず。
それにしても、魔族をあっさり倒す人間か。ふふふ、これはもしかしなくても創くんだよね?
『と、とりあえず我は今、手が離せない。まずは貴様が迎え撃て!!』
『しかし……は、はい、敵わぬまでも足止めくらいしてみせましょう!!』
側近が出てゆくと、我慢していた痛みに悲鳴を上げるザイオン。
「ねえ、ザイオン、結界解いてあげようか?」
『何っ!? 良いのか?』
「うん、ちょっと事情が変わったからね――――結界解除!!」
『うおおおおおおおおああああああああ!!!!!! 我、完全復活!!!!』
「運命さん!! 大丈夫ですか、助けに来ました!!」
ザイオンが自由になるのと同時に、創くんが飛び込んでくる。
「わーん、創くん……怖かった、怖かったよ……こいつが私を酷い目に……」
「くっ、お前が魔王ザイオンだな? 運命さんは僕の婚約者で大切な人なんだ……それを……絶対に許さない!!」
はうう……あの温厚で超優しい創くんが怒ってる!! 他でもない私のために!!
ヤバい……鼻血でそう。えっとちゃんと録画出来てたよね? よし、完全保存版にしよう。
『ふん……矮小な人間風情がデカい口を叩く。少しはやるようだが、所詮は人間。我を他の魔族と同じだと思ったら――――ぶへらっ!?』
あら~、また派手に吹っ飛ばされたね……一キロくらい行ったかな?
「運命さん、大丈夫? 痛いとこない? ごめんなさい……来るの遅くなっちゃって……」
きゃうん……叱られた子犬みたいな創くんきゃわわ!! ギャップがたまんない。
『き……貴様……不意打ちとは……卑怯だぞ!! 男なら正々堂々戦え!! 好きな女は強いものが手にするのが世の道理なのだ!!』
空気読めザイオン、これから良い空気になりそうだったのに……
「運命さんはモノではありません。強いかどうかなんて関係ない」
『……なんだと?』
「それでもあえて言います。僕はアナタよりも強いし、運命さんをアナタよりもずっと愛していますから!!」
創くん……好き!! もう大好き!! 愛してる!!
『ふざけるなアアアアアアア!!!!! 人間がああああああああアアアアアア!!!!!』
ザイオンの奴、寿命を消費したな。無駄なことを……。
『肉片ひとつ、髪の毛一本残さず宇宙の塵となって消え失せるがいい!! 魔王最終奥義――――ぶへらっ!?』
『ち、ちょっと待って――――ぶへらっ!?』
『も、もうライフはゼロ――――ぶへらっ!?』
『…………』
ザイオン……お前はよく頑張った。お前の生き様、たしかにこの目で見届けたからな。




